第32話 やっかいもの

 気づけば外は大雨だった。李仁と湊音はいちゃつきすぎて気づかなかった。わけでもないのだが。

 そのイチャイチャを止めたのがシバであった。

「わりぃなー。あのあと喫茶店出てから家戻ったら家財道具全部なくなっててさー。あ、貴重品とか俺のやつは残ってたけどね。大家さんが来て、今日で引き取ってもらいますーて」

 シャワーを浴び、タオルで髪の毛をリビングのソファーで拭いてるシバ。

「……でも剣道場で指導してる間に荷物持ってって消えたその同居人? は計画的だな、気づかなかったのかよ」

 湊音がシバにお茶を出す。


「いやーさー、違う女のところに泊まってたからさー。一週間くらい帰ってなかった」 

「……」

 登場人物が一気に二人増えた。シバと同居してた同居人と、浮気相手の女。


「ミナくんも唆しておいて他の女を取っ替え引っ替え……最低」

 李仁は軽蔑の目をシバに向ける。湊音もあっけに取られてる。


「しばらくは一途だったけどさ、そのー、なぁ」

「そのー、ってなによ! ホテル代払うからどっか行くか他の女のところ行きなさい! あんたいると警察どころか葬儀場スタッフが坊主呼ぶことになりそう」

「やべぇ、俺殺されるー」

 李仁とシバはまた言い争う。シバが刑事時代に李仁がバーテンダーでいろんな裏の組織の情報を流していて身体の関係もあったが、二人が別れた理由は言わずともなくシバの女癖の悪さであった。


「もう、二人ともやめて!」

 湊音が間に入る。

「李仁も今体調悪いのにそんな大声出して……シバ、他の女の人には連絡取れなかったの」

 シバはううんと考え込んで、次に上を見た。きっと関係のある女性のことを思い浮かべているのだろう、ぶつぶつ言いながら考えているようだ。


「他にもあてがあるようね、そっちに行ったら?」

「いや、多分急はダメかなーっていうか……一番都合良かったのがお前らだったんだよ」

「わたしたちは都合のいい相手、ふーん」

 李仁は冷たくあしらう。湊音はマアマアと再び仲裁に入る。


「頼む! 数日だけ、そうだ……この三連休、三日の間で次の宿見つけるから。もちろん湊音に手を出さない! 泊めてくれっ!!!」

 とシバは勢いよく二人の前で土下座した。


「と言ってますけど李仁はどうする?」

「三日で見つけるならホテルでもいいじゃん」

「もぉ李仁!」

「それにミナくん、あんたもあんたでオイタした相手を泊めるわけ?」

「……いや、そのさ。困った時はお互い様だろリビング仕切って和室一つできるからそこに寝させて、三日の間は僕らは絶対同じ部屋で寝る。仕事も李仁無いわけだし……」

 湊音の説得に李仁はうーん、と言いながらも悩み、シバの困った顔を見てさらに悩み……。


「わかった! もちろん三日の間だけ。料理は作るし何もしなくてもいい。でもミナくんと二人きりにならないこと! わかった?」

 ようやく李仁が決断した。シバも大喜びで手を握る。


「ありがとう、李仁ぉ! 湊音も説得してくれてありがとう……恩に切るよ!」

 すると湊音はとあることを切り出した。


「そいやシバの家財道具とかは……」

「あ、そうそう。軽トラ借りてきてそこに積んである。李仁の車の横のスペース空いてたからそこに止めた」

「あ、お隣さんの駐車スペースだよ。両隣とも」

「あ」

 夕方過ぎのこと、そろそろ帰ってきてもおかしく無いじかんでもある。


「シバ! 早く車出して。客用の駐車スペース管理人さんに連絡す……」

 ピンポーンと同時になる。湊音は慌ててインターフォンのモニターにでる。


『あのすいません! 槻山さんちの横の汚い荷物の多い軽トラ、おたくのですか?! いろんなところ聞いて回ってるんですけど』


「す、すいません! 今すぐどかします! ……て、シバぁ」

「ごめん、今行く……」


 ほんとうにシバはいろんな厄介ごとを持ってくる男である。

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