第28話 元通り

 病室に向かうと、李仁は穏やかな顔でシゲさんと湊音を待っていた。

「ありがとう、2人とも」

 湊音は李仁と目を合わせるのが恥ずかしい。また泣いたのかとバレてしまうほど病室手前の鏡で目が腫れていたからだ。


 まだ首元には青いアザが残っているがニコニコっとしていた。その横にはガタイのいい男性の看護師が立っていた。

「この看護師さん、すごくストイックで良い筋トレ方法とか食事療法教えて貰ったからミナくん、今晩から頑張りましょー」

「え?」

 李仁は男性看護師の胸板を触り、デレデレしながらご機嫌のようである。

「すっごくタイプー、まだ入院したかったけどぉ。メアドも交換したし、また情報交換しましょうね」

 看護師はどうやらノンケのようで李仁の言動に少し引いていたが、にこやかな笑顔を振る舞っていた。


 湊音とシゲさんは顔を合わせた。

「本当に一途?」

「惚れやすい、ってことにしましょうかね」

 シゲさんは苦笑いしてる。


「どうしたの?」

「なんでもない」

 李仁は両手で湊音の頬を挟んだ。

「なんでもなくなくないでしょ? また後で詳しく聞くわ」

「李仁ぉ、恥ずかしいよ」

 湊音は照れて真っ赤になる。近くにいる男性看護師はびっくりしている。シゲさんはにこやかに2人を見てる。


「ふふふ、可愛い。ミナくん」

「ムゥうううう」

「何言ってるのぉ?」

 李仁はもっと強く頬を挟むから上手く言えなくなる。

「ううううううう!」

「タコちゅうみたいな口で可愛い、チューしたい」

「ううううううん」

「したいのぉ?」

「ンンンンんんん!!!!!」

「したいのねっ」

 と李仁は湊音にキスをした。久しぶりの濃厚なキス。何度も何度も。乗り気じゃなかった湊音もだんだん舌を絡めて恥ずかしながらも激しくキスをする。

「ミナくん、押し倒しちゃダメ」

「いや、李仁が引っ張って……あっ!!!」

 湊音が押し倒す形になった。


「もぉ、李仁……」

「ミナくん」


 二人は抱き合った。そして何度もキスをした。



 ちなみにシゲさんと男性看護師の二人はこっそり病室から出た。


「あのぉ、もう退院の時間ですけど」

「あと数分、30分……待っててあげて欲しい、ごめんな」

 シゲさんは平謝りだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る