第29話 寝る前

 夜、二人はまた同じベッドで眠る。湊音は李仁の首の包帯を見つめる。

「首絞められるなんて若い頃以来だわ」

「えっ」

 李仁の突拍子もない言葉にいちいち驚いてはいられないがやはり驚いてしまう湊音。


「ワンナイトの関係だけどさー何人かはいるのよ。プレイ中に首絞めて興奮するやつ」

「なんかAVの世界だな、李仁のエピソードはほんといつもそう思う」

 他にもいろんなエピソードを聞いている湊音は首絞めプレイとなるものを考えるだけでも首が苦しくなる。


「まぁー汚いの以外は一通りやってるし、首絞めも悪くないけど、やっぱりシバは急所を外しつつも苦しく絞めてきたから痛いのよね」

 シバ、という名前を聞くたび心が痛くなる湊音だがそっと李仁の首を包帯の上から触る。優しく。


「……明日、剣道の練習にちゃんと来るかな」

「そうよね。ごめん、こんなことになって」

「ううん」

 二人はまた気持ちが暗くなる。特に連絡は無いのだが、週末の剣道場の指導を湊音としばらくでしているため必ず顔を合わせる。

 李仁は今回の件とまたシバと湊音が一緒になるということ、湊音はこの件があってから何かあるのでは、それにまた彼が剣道場を辞めてしまったら指導が的確で子供の生徒に人気があるから大丈夫なのかという不安もある。


 本当はそんなことを考えたらダメなのだが現実で避けて通ることはできない。

「……そうだ、わたし剣道場で稽古しているミナくん見たことないから見に行っちゃダメかしら」

「え、来るの? またシバとなにかあったら」

「……そうよねぇ。やめておく」

「やっぱ来なよ」

「え?」

 湊音は李仁の首から頬に手を移した。

「李仁がこんなふうになってしまったのも僕のせいだし。練習終わったらちゃんとシバと話をしたい。3人で話したい」

 湊音の目は真剣だったが

「って、ここ数日のことだけど大丈夫かしら。また警察沙汰は嫌だけど」

 すぐに弱きになる。


「でもまたいつか連絡しなきゃって思ってるし……」

 李仁も考え込む。


「って考えてたら寝れなくなっちゃうわ。まぁー明日は行く! そしてシバと話す! そうしましょ」

「あっさり決めちゃったけど……ねぇ」

 湊音が笑うと李仁が湊音の髪の毛を掴んだ。

「元はあなたのことを助けたくて……」

「ごめんごめん、李仁!」

「もう寝るわよ」

 李仁は髪の毛を離して二人布団の中に入った。

 いつもお決まりの李仁の腕枕。今日は左腕のようである。

「幸せ」

 ふと湊音がそういうと

「わたしもよ」

 李仁が返す。

「ふふふ」

 笑い合ってなかなか眠れない。

「寝たいんだけど」

「眠れないわね。まだ興奮してる?」

「病室であんなにキスしたのに」

 李仁は湊音のおでこにキスをする。


「早く寝よう、寝る!」

 湊音は目を硬く瞑り、寝に入る。しかし李仁が湊音の頬を触る。

「李仁、寝れないんだけど」

 無言のまま李仁はニヤッと笑う。湊音は少し膨れながらもまた目を瞑る。が、今度は耳たぶを触られる。

「もー! いい加減にして」

「いやだー、寝る前のいちゃつきタイム」

「ほんと心配してたのが損だよ」

 湊音は李仁の反対側向いて寝た。

「ミナくん、そっち向かないでよー」

「やだ、眠いの。邪魔しないで」

「邪魔してないよー愛情表現!」

「妨害のどこが愛情なんだよ」

 湊音はふとんを頭からかぶる。が、李仁は布団ごと抱きしめる。


「いい加減にしろよ、ほんと」

「むぅ……」

 李仁は抱きついたまま眠ってしまった。湊音はそれに気づいてゆっくり布団から出て李仁に布団をかける。

 少し痩せた李仁の寝顔見て頭を撫でる。寝たふりしてると思っていたが起きない。

 ふと晩御飯の後に薬を飲んでいたのを思い出す。

「安定剤よ」

 と言ってはいたが寝る前も何か飲んでいたから睡眠薬だろう、と湊音は察した。

「しまった、僕も飲んでないや」

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