第11話 そっち、こっち、あっち、どっち

 湊音は李仁が会社からもらってきた紫陽花を剪定して綺麗に花瓶に入れる。


 もう手慣れたもので、二人同居し始めてから定期的に花を買ったり貰ったりして花を飾るのが二人の趣味の一つでもある。


「今年の紫陽花も素敵。李仁の会社の庭の土は栄養たくさんなのかな」

「悪かったら会社も景気悪いわ。ただでさえ書店の店舗数減って業績も減ってるから。花たちが吸い上げてるのかしら、栄養も何もかも」

「そんなわけないよ。また今度のイベントで盛り返すんでしょ」

「まぁね」


 鮮やかな色の紫陽花に2人はうっとりする。後ろから李仁が抱きつく。


「またこの花、社長さんがくれたんでしょ」

「そうそう。花をもらって喜んでくれるのは君くらいしかいないって……奥さんに、と渡しても手間がかからから嫌だと言われてーとかでもらってくれないんだって」

「まぁ相当の花好きじゃないと……子供と旦那様の世話してさらに花の世話だなんて嫌になるんだろうね」

「そうなのかなぁ、んでー子作りする?」

「なに、この流れで夜のお誘い?」

「ふふふ」

 二人は笑い合う。湊音は李仁の方を見て爪先立ちをしてキスをする。


 二人何度もキスを繰り返す。笑いもなくなり、真剣に見つめ合い、抱きしめ合い、キスを長くする。

 湊音は李仁の首元にもキスをする。左の首筋、傷跡がある。


 結婚前に李仁がそこに「minato」と筆記体でタトゥーを入れていたのだ。

 結婚を機にバーテンダーを辞めた際にそのタトゥーも消した。その時にできた傷跡である。


 その部分を湊音は舐める。他の皮膚と少し違う感触がある。舐められるたびに李仁は声を上げる。


「もう、やだ」

「誘ったのは李仁じゃん」

「今日はそっちの気分?」

「ん? そっちってどっちだよ」

「わからない」

「わからなくないだろ、李仁だってそっちの気分?」

「うん……そっちの気分」

 湊音はキスをやめて笑う。


「そっちどっちってなんだよ……」

「ねっ……」

「まずは風呂入ろう」

「そうね、風呂入ったら私はあっちモードになるかも」

「だから次はあっちかよ」

「うんうん」

「適当だなー」

「そう?」


 数分後、風呂場で二人愛し合う声が響く。どっちの声?

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