本当の自由は外なのか中なのか

幻中六花

第1話 人間はだせぇ

 今日も外が明るくなって、少しずつ周りが騒がしくなる。

 ここは、年中無休のショッピングモール。その1階の隅っこにある、テナントのペットショップで、オレは生活している。真っ白の柴犬、オス。

 もう4ヶ月くらいここにいる。

 生まれて2ヶ月でここに来て、4ヶ月ここにいる。だからオレはもう生後半年。

 なかなかオレを家族の一員として迎え入れてくれる人は現れない。


 オレはお母さんから生まれて、お母さんのおっぱいを飲んで育った。2ヶ月だけ、お母さんと一緒にいられた。

 人間の赤ん坊は、18年とか、20年とか、お母さんと一緒に過ごすんだって。


 オレ達、イヌの世界では信じられない。

 だって、イヌでいうと20年なんて一生プラスαアルファだもんね。


「なぁなぁ、人間って親離れするの遅ぇよな」

「なー。だせぇよな」


 オレはいつも隣で寝ている真っ黒のアメリカン・コッカー・スパニエルと、今日も人間をバカにしてオープン時間を待った。

 コイツは最近来たばかりの新人で、まだ2ヶ月ちょい。コイツの犬種が主役の有名なアニメ映画があるらしく、なかなか人気が高い。でもオレは納得いかない。だいたい、イヌがスパゲッティを食べるかよ。


 コイツも、どうせすぐに家族が見つかるんだろうな。


 柴犬は一応小型犬って言われてるけど、ペットショップにいる仔犬は2〜3ヶ月のヤツばかりだし、大人になっても小型犬とか超小型犬とかいわれるヤツばかり。

 そんな中に6ヶ月になるオレがいると、ショーケースになんか入ってられないわけ。


 あんな四角い箱に一日中入れられて、飼う気もない家族が指をさして「可愛い可愛い」とか言って笑って、オレの身体ばかりが大きくなって、そのうち四角になっちまうっつーの。


 ……可愛いなら連れてけよ……。


 時折、

「あ! タロー!」

なんて勝手に名前をつける家族までいる。

 恐らく前に飼ってたイヌか、今飼っている柴犬がタローっていうんだろ。でもオレはタローじゃねぇっての。


 だいたい、オレにはまだ、名前なんか与えられてないんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る