ショートショート『極秘ミッション』他

蒼月 水

極秘ミッション

 目が覚めるとそこは宇宙船であった。


「えっと。何だってんだここは...」


 灰色ベースの船内に、薄青色のカプセルベッド。

 窓の外には遠く銀河が美しく輝く。


 自分が宇宙飛行士である認識はあったけれど今がどういう状況なんだか、正直よく分からない。

 カプセルベッドから這い出て、操縦席を見渡すと『自動運転モード』となっていることが確認できた。なるほど。目的の星までカプセルベッドで仮死状態のまま行き、到着と同時に起きる計画だったようだが、どうやら設定を間違い随分と早く目覚めてしまったようだ。


 とはいえ、最後に眠った時のことが思い出せない。仮死状態終了直後の記憶というのが曖昧であるということはよく知られているが、肝心のミッションのことを忘れていては困ってしまう。ミッションの手順と、目的の星と、それにかかる時間から逆算して正しい仮死期間をカプセルベッドに設定しなくては。我々宇宙飛行士はこういう時の為にメモを逐一書いているので、とりあえずはそのメモを探すことにした。


 幸いにも操縦かんの横に『ミッションノート』なる手帳がおいてあった。

 こんなに早く見つかるとはラッキー。早速見るとしよう。


 一ページ目。

「仮死期間は出発時刻より3892日16時間目まで」


 おお、早速仮死期間が書いてある。前回の俺は、ここの設定を誤ったようだ。


「えっと、今は...」


 手元の時計は『出発より3891日21時間経過』と表示されている。

 つまり、あと19時間か。このまま起きていても問題ないが、体力温存のためにできるだけ仮死状態でいることが推奨されている。そして、設定できる仮死期間の最小は17時間であるから、わりと時間には気を付けなくてはいけない。とりあえずそれまではノートの続きを読もう。


 二ページ目。

 ...には、なにやら怪しげな計算式が書いてあった。


 よく見ると、それが40ページ以上続いている。

 どうやら仮死状態に入る前の俺が解いていたようだな。


「うーん...。“ なにか ”を、解いているんだな...」


 途中で途切れた計算式には細かく説明書きがされているが、いまいちよく分からない。

 まだ時間もあるし、時間いっぱいまでは解くことにしよう。と、そこから俺は計算を解くことに没頭した。


 とまあ、簡単に書いているが正直これが本当に難しい。

 そもそも何を解いているのかも気になるが、40ページ以上の計算式を眺めている内に2時間が終わってしまいそうだった。


 没頭したまま数時間。ふと見た壁の時計に『出発より3891日23時間経過』したことを知らされる。

 おお、まずい。ひとまず今解いた部分の説明を簡単に書いて、カプセルベッドに戻らなくては。


 俺は慌ててノートに書いた計算式に、後から見ても理解できるように説明文を追記してカプセルベッドを17時間とセットし、仮死状態になった。


 結局、何の計算式だったのか分からなかったけれど、それは目的地に到着した後でじっくり考えればよいこと。今度は正しい時間を設定したので、安心して眠れると思うと、起きた時よりもすっきりした調子で仮死状態につけた。


 17時間後、俺はついに目覚めた。


「 えっと。何だってんだここは... 」


 灰色ベースの船内に、薄青色のカプセルベッド。

 窓の外には遠く銀河が美しく輝く。


 手元の時計は『出発より3891日21時間経過』、壁の時計は『出発より3891日23時間経過』と若干ずれたことを示していたが、その違いに気づくことはなかった。


『極秘ミッション』完

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