02 Gt

 戦場。紛争地帯。なんの匂いもしない場所もあれば、生きているものが現在進行形で焼かれる場所もある。

 最初は、海外協力のエンジニアとして。次は、人道支援のチームとして。何度も、海外を巡っては、戦いを見てきた。

 そこには、普通の人がいた。

 戦いは、何かを殺す。人の大事なものを、奪っていく。それでも、そこには。人がいる。救うべき誰かが。救われるべき、何かが。

 ひたすらに、誰かを救う。そのために、得た力だった。音。曲は、すべてを解決する。とらわれた誰かの、何かを解放してあげられる。

 血だらけの誰かの、噴き出す血を止めて。応急措置をする。最初は、そんなものだった。

 死ぬ気で助けた。そして、助かった。

 数日後に、その助けた誰かは、死んだ。助けたのに。死んだ。死因も、なぜそうなったかも、分からない。心がぐちゃぐちゃになった。

 助けたのに。

 死ぬ。

 死んでいく。

 そんななかで、死にゆくなにかを、繋ぎ止める力。ときには、死にゆく誰かを包むやさしさ。それが、音。曲だった。

 ひさしぶりに、戻ってきて。いつもの地下ハウスで、音を鳴らした。

 ひとりのサラリーマン。あのとき、見ていたなかで。たぶん、何かを、救った。そんな感覚がある。あのサラリーマンも、きっと戦場にいたのだろう。この国は平和と戦争放棄をうたっているので、きっと、中身は戦場よりもひどいことになっているに違いない。自由、正義、平和、愛。そういうわけのわからないものを唱えるやつらほど、戦場を作り出す。だからこの国は、たぶん戦場よりも何倍もひどい。

 自分も。

 そうやって、戦場で死ぬのだろう。

 誰かを助けようとして。救おうとして。命を落とす。

 そうやって生きる。

 そう。

 あの、サラリーマンと同じ。


 そのサラリーマンに。

 音を鳴らしたいと言われた。ギターしか知らないようだったので、ギターと称してベースを買わせた。身体の特徴も、鳴らせそうな音のパターンも。ベース寄り、ともすればキーボードかシンセ。そんな感じだった。戦場よりもひどいところにいるから、だろうか。深い低音が出せそうだった。


 次の仕事は、まだ入らない。ということは、ぎりぎり、なんとか世界は平和、ということになる。

 ありえない。

 今日もどこか、どこかで、戦いはあって。救うべき何か、救われるべき誰かがいる。だから、自分はそのために、命を落とす。生命を懸ける。

 兵士と変わらない。

 いや。

 救おうとしているだけ、兵士よりも、たちがわるいかもしれない。

 それが事実。

 そうであったとしても。

 自分は、何かを解放していく。

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