編集長との話し合い
"コンッコンッ"
編集長室の前まで来た僕と真莉さんは、編集長室の木の扉をノックした。
すると奥から「入りたまえ。」という返事が返ってきた。真莉さんがいるとは言え、かなり久しぶりに編集長と話すので僕は緊張に身を包んだ。
「失礼します。」
そう真莉さんが言った後に僕も
「し、失礼します。」
と言って編集長室に入る。
編集長室へと入り、僕は奥に座っている編集長を見た。編集長は若い男の人で、いわゆるエリートの出世社長のような人なのだが、手を組んで椅子に座っており、何より深刻そうな、怒っていそうな顔をしていた。まぁそれはそうであろう。僕はあんなことをしでかしてしまったのだから。自分でそこまで大事になるとは思わずに。
「カシユウいや、柏原くん。どうしてこうな
ったのかちゃんと説明したまえ。」
僕らが入り少しすると編集長が口を開いてそう言った。まぁ単刀直入に聞いてきたということだ。
「え、えーっとー、、、」
だが僕は編集長に気圧されてか、あまり上手く喋れない。そう困っていると、隣から助け舟?が出た。
「ちょっと、編集長。優馬君がしたのは、あまりに身勝手なことではありますが、無自覚であったことをちゃんと確認しましたし、そこまで問い詰めるような言い方をしないで下さい。というか、なんなんですか?その年寄り重臣みたいな演技は?」
「え?」
僕は驚きと困惑でいっぱいになり、編集長の方を見た。
すると編集長は人差し指で自身の頬をかきながら、困ったように笑った。そして
「ちょっと、真希波さん。何で言っちゃうのさ。つまんない。」
とまるで子供が拗ねている時のような態度をとった。
「え?、、、え?、、、」
僕は余計に困惑し、真莉さんと編集長を交互を見た。見ると真莉さんは「はぁ〜」と言いながら額に手を当てており、編集長はまだ拗ねているのようだった。
すると、編集長は今度は僕へと話しかけてきた。
「やぁ、すまないね柏原君。ちょっとふざけたけど、悪気は、、、少しあったけど。うん、まぁいいや取り敢えず真希波さんと柏原君そこに座ってくれる。どうであれ今回の件についての話し合いは必須だからね。」
と編集長は客間とかによく置いてありそうな椅子(ソファ)に座り手で僕らを招いた。
***
「さて、柏原君。何であんなことを、SNS上で堂々と言っちゃったのか言える範囲で教えてくれるかい?」
席に着いて早々、編集長は聞いてきた。
そのあと僕は迷った。
だって編集長たちに好きな人に告白して失敗して、その好きな人の好きな人がもう一人の僕であるカシユウだったなんて、、、言えるわけがないじゃないか。
しかし、このまま僕が黙り続けていても何も進まないので、僕は長い沈黙を破って、言える範囲で理由を説明することにした。
「えっと、、、理由は本当にしょうもない事だと言われるような事なのですが、、、僕にとってはそれが、かなりショックで自暴自棄に、、なって、、、」
僕がそういうと、編集長は心配そうな顔をして、さっきよりも優しい声色で話してくれた。
「えーっと、ショックっていうのは?何かアンチコメントみたいなのでも、来てたのかい?それとも、嫌がらせとかを受けたりしたのかい?何かあったなら僕も真希波さんも力になるけど、、、」
「そうよ、何にも気にすることなんかないのよ。何か辛いことがあったなら、人に話してみるだけで楽になれるしね。」
と編集長と真莉さんは僕を心配してくれた。でもやっぱり、言えない。そんな理由?って言われるに決まっている。だからこそ僕は言えない。
「い、いや大丈夫です。特にアンチとかが湧いたわけでも、嫌がらせを受けたりしたわけでもないので。本当に大丈夫です。」
そう僕が言うと、二人は「それならいいんだけど、、、」と言い、次は僕がこの後も活動をして行くのかという話になった。
***
「は、はい。活動自体は好きなので僕としては続けたい思いは強いです。でも、、、い、いえ、すみません何でもないです。」
「そうかい、それなら良かったよ。僕ら側からしても君に活動は続けて欲しい。ちょっと悪く言うとこんな才能を逃したくないしね。」
そうか、僕は続けていいのか。よし、それならちゃんと責任を取らなきゃな。
「よし、それじゃあ話し合いはこれにて終了。お疲れ様。そうそう、柏原君僕にここまで言わせたんだからちゃんと頑張ってくれよ。期待してるから。」
「はい、ありがとうございます。もう少し、頑張ってみます。」
そう編集長と話すと僕は一足先に編集長室を出た。
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「んあーーー、それじゃ真希波さんもお疲れ。これからも内の大物新人を頼んだよ。」
「はい、勿論です。それでこの後ですが、今日は優馬君を送って行った後親御さん達にも今回の件を説明してくるので、今日は先に失礼します。」
「ほいほい、そこまですまないね。流石は専属マネージャーだ。よろしく頼んだよ。」
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僕が編集長室を出た後、ほんの少ししてから真莉さんも出てきた。
そして、今回のことを家族に説明するために一緒に着いてきてくれるとのことらしい。
「本当にありがとうございます。何から何まで、、、」
僕は本当に申し訳ないなと思いながらそう言った。そうしたら真莉さんは僕に微笑んで
「いいのよ、学生時代には私も色々あったしね。それに、私としても優馬君に居なくなってほしくないからね。さ、帰ろうか。」
と言ってくれた。
***
「それでさぁ、優馬君。何で優馬君はあんなことしたの?」
僕は真莉さんにそう聞かれた。結局、出版社を出てからは行きとは違い電車で帰っているのだが、そんなことをずっと聞いてくる。
「アンチコメントとかじゃないんでしょ。それなら、、、、恋愛?とかかな。」
"ギクッ!!"
「嘘!?その反応、当たった?当たってるの!?、、、ふふ〜ん、そうなんだぁ〜。」
「い、いや、違い、、、ません。そうです、振られました。」
僕はからかわれているなとは分かっていたが、もう誤魔化しようがないなと判断して、仕方なく話した。
好きだった子に振られたこと、
その好きな子はもう一人の僕であるカシユウが好きであったこと、
陽キャグループたちが僕、、、いやカシユウに思いを馳せイケメンに決まってるだの何だのと言っていること。
「それで僕はもう、自分、いやカシユウが嫌になってあんな事をしました。僕は本当のこの僕自身が否定されているようで、、、このままだと柏原優馬という存在はいらなくなる、そう思ったんです。」
僕がそういうと真莉さんは悲しそうな顔をした後、家の最寄駅の前に着いたわけでもないのに僕の手を取り電車を降りた。
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