1-36 ティアナ、美しさに磨きがかかる
未知の属性とは何か。
勿論気にはなったが、しかしティアナがわからない以上どうしようも無い為、ひとまず保留となった。
風属性に関しては、既に魔力を感じ、動かせるようになっていることから、訓練すればそう時間かからずに発動できるようである。
それを聞き、今すぐにでも試してみたくなったが、しかし時刻は23時過ぎ。
流石に魔法を扱うには時間的に余裕が無いということで、この日はこれで終わりとなった。
ティアナの様子を伺うと、かなり眠そうであった為、僕達はあれこれ教えつつ寝支度を整える。
そして、ティアナを母さんの部屋に案内し「おやすみ」と声をかけた後、扉を閉め、自室へと向かう。
「僕達も寝ようか」
「ワフッ!」
声を掛けた先──僕の腕の中にはモフ子の姿がある。
というのも、今日はモフ子と一緒に寝ることになったのである。
別段深い意味は無い。単にモフ子が一緒に寝たがり、フェンリルと判明した今ならば、子犬ならではの懸念点も払拭できており、共に寝ても問題無いと判断したのである。
部屋に行き、ベッドにモフ子を乗せる。
するとモフ子はモゾモゾと動き、僕が横になれるスペースを空けて伏せをする。
……そんな彼女の行動に、相変わらず賢いなと感心しつつ、僕はそのスペースに寝転がる。
そして、伏せたまま目を瞑るモフ子の全身を優しく撫でながら、
「おやすみモフ子」
「ワフ」
というやりとりの後、僕達は夢の世界へと旅立った。
◇
翌朝。時刻は8時。
ほぼ同時刻に目を覚ました僕とモフ子は共に1階へと向かう。
1階にティアナの姿は無い。
どうやらまだ寝ているようだ。
別段急ぎの用は無いし、何よりも話を聞く限り、彼女は向こうの世界では常に気を張っていたよう。
目の下の隈や、顔色の悪さからわかるようにそれは睡眠の時も同様で、恐らくあまり身体を休められなかったのではないか。
もしもそうならば、寝かせてあげたい。
それにそれだけ熟睡しているのならば、少なくとも向こうの世界の住人よりかは信頼してもらえているといえるだろうか。
そうなら嬉しいなと思いつつ、僕は身支度を整える。
そして朝にも関わらず元気なモフ子と遊んだ後、朝食を作っていると、ここで階段の軋む音が聞こえてくる。
……お、起きたかな。
リビングの扉が開き、ティアナが入ってくる。
寝起きは良いのか目がぱっちりと開いている。心なしか、目の下の隈が薄くなり、血色も良くなったか?
ただでさえ美少女なのに、その美しさに磨きがかかっている。
僕は思わず見惚れながらも、声を掛ける。
「おはよう、ティアナ。よく眠れたみたいだね」
「おはよ、茨。おかげさまで、数年ぶりに熟睡できたわ」
言って微笑むティアナの態度は昨日よりもほんのりと柔らかい。
これも慢性的な睡眠不足の解消によるものか。
数年ぶりという言葉に驚きつつも、それを顔には出さずにいると、ティアナは僕が何をしているのか気づいた様で。
「あ、ごめんなさい。手伝うわ」
「了解。じゃあテーブルの方の準備をお願い」
「わかったわ」
程なくして食事が完成。
我が家の朝食は基本和食。今日はごはん、味噌汁に、サラダ、鮭の塩焼き、そして卵焼きである。
普段ならばもう少し手抜きなのだが、ティアナにとってはこの世界初の朝食となる為、あるものでそれなりにしっかりと用意した。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
「ワフッ!」
言葉の後、食べ進める。チラとティアナの方を見れば、表情が柔らかい。
どうやら朝食も気に入ってくれたようだ。
食べ終わり、一息ついた所で僕は口を開く。
「さて、今日はどうしようか」
「そうね。……もしも可能なら、少し外を歩いてみたいわ」
「外か……」
その桁違いの美しさから、ティアナは間違いなく目立つ。
しかし、その身体的な特徴は人族とあまり変わらない為、何とか外国人で通せるか。
「ダメかしら」
「いや、問題無いよ。ただ幾つか懸念点があってね」
ティアナが美しすぎて、恐らく目立つ事。
写真や動画を撮られる恐れがあること等を伝える。
ティアナは少しほんのりと顔を赤らめる。
「……わ、私がう、美しいというのは……その、とりあえず置いておいて、そうね、その写真や動画というものなら、恐らく魔法で妨害できるわ。試してみる?」
実際試すと、何故かティアナの方に向けた時だけ動画や写真が機能しなくなる。
原理はよくわからないが、なるほどこれならば安心だ。
「うん、これなら問題無さそうだね。……よし、それじゃ、準備したら早速行ってみようか」
「えぇ。外の世界……凄く楽しみだわ」
外出用に身支度を整える。
ティアナの服は購入したもの。下着等コンビニ製のものであるが、ひとまず機能性は問題無いだろう。
とは言え、せっかくの異世界の下着が味気ないものというのもあれなので、できれば早い内に彼女の好きな物を買ってあげたい。
……今日購入できるかな? などと考えながら、
「モフ子おいで」
「ワフッ!」
胸に飛び込んできたモフ子をふわりと抱える。
「行くよ、ティアナ。準備は良い?」
「え、えぇ。問題無いわ」
少し緊張した様子のティアナを見て微笑んだ後、僕は玄関のドアを開けた。
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