1-29 ティアナ、異世界の食に舌鼓を打つ

「ごちそうさまでした」


「ワフッ!」


「……ごちそうさまでした」


 言いながら、ティアナは恥ずかしそうに視線を逸らす。そんな彼女の眼前には、綺麗に空になったお皿が並んでいる。


「どうだった、ティアナ」


「……美味しかった。いえ、美味し過ぎたわ」


「それは良かった」


 言って微笑む僕の眼前で、ティアナはバツが悪そうな表情を浮かべる。


 話を聴くと、どうやら異世界では、いつ何時非常事態に陥るかわからないと、常に腹八分目を意識していたらしい。

 どうやら今日もそのつもりでいたようだが、並んだ料理のあまりの美味しさに、ついつい食べ過ぎてしまったようだ。


 こちらとしては、喜んでもらえたのならば、作った甲斐があるというものである。

 それに、先程のティアナの表情を思い出せば、これがお世辞でもなんでもない事がわかる。


 不慣れな箸──本人が希望した──を使用し、お上品に口へと運ぶティアナ。

 咀嚼の度に、幸せそうな笑みを浮かべるティアナ。

 早々にお米を食べきり、僕がおかわりはいるかと問うと、少し恥ずかしげに頷くティアナ。


 食事の際の彼女の姿は、これまで目にした事がないような、新鮮で、より可愛らしいものであり、見ていて飽きる事はなかった。


「また明日も美味しいもの作るから、楽しみにしててね」


「えぇ、楽しみにしてるわ」


 言ってティアナが微笑む。


 その笑みに、また幾分か距離が縮まったように思え、僕は食事の力は偉大だなと強く実感するのであった。


 ◇


 食事後は、皿洗いを行なった。


 とは言え、調理器具等は料理と同時並行で洗っていた為、そう大した量は残っていない。


 だからこそ僕がパパッと終わらせても良かったのだが、例によってティアナが手伝いたいという事だったので、料理同様共同で行う事にした。


 その後、特筆して何かがあった訳でも無く、平和に皿洗いを終えた僕達は、休憩がてらコンビニで購入したスイーツを食べる事に。


 ティアナは器用にフォークを扱い、ショートケーキを口へと運ぶ。


 そして一度、二度と咀嚼し、その想像以上の甘味に、驚愕と共に幸せそうな表情を浮かべる。


 その表情を目にし、「買ってきて良かったな」と思いながら、僕は口を開く。


「さて……明日はどうしようか」


「……? 何か予定でも?」


「いやー特別何かがある訳じゃ──あー、そうだ。モフ子の予防接種をしなきゃだ」


「よぼうせっしゅ?」


「そ。病気になりにくくするものでね、子犬には必要な事なんだ……ってあれ?」


 と言いつつ、ここでふと思う。


 ……モフ子は、実際には子犬では無くて、異世界の、それもフェンリルの幼体。果たして予防接種は必要なのか?


 そんな僕の心の声を読んだかのように、


「恐らく、モフ子様が病気にかかる事はないわよ」


 と言いながら、ティアナは現在彼女の太ももに伏せるモフ子の方へと視線を向け、再び口を開く。


「モフ子様、少しだけ開示しても良いですか?」


「ワフッ!」


「ふふっ。ありがとうございます」


「…………?」


 ティアナ達のやりとりを聞きながら、「開示? 何の事?」と首を傾げる僕の前で、ティアナはその可憐な口を開く。


「ステータスオープン」


 その瞬間、ティアナの眼前に、何やら半透明の板のようなものが忽然と浮かび上がった。

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