1-24 茨、ティアナにプレゼントを贈る
1時間程経った頃、ティアナが身じろぎをする。──どうやら目を覚ましたようだ。
上体を起こし、未だ眠いのか、半目のままキョロキョロと小さく首を動かしながら状況を確認する。
その視線はティアナの近くで眠るモフ子を捉え、ここでようやく事態を把握したようで──
「そう、寝ちゃったのね。……モフ子様と一緒に」
モフ子と共に寝たという事実を畏れ多く思っているのか、複雑な表情を浮かべる。しかしその視線は尚もモフ子から離れず、
「モ、モフ子様……」
言いながら手を伸ばし、すぐさまハッとした様子で引っ込める。
モフ子の可愛さに思わず撫でそうになるが、理性が働きその動きを止めた感じか。
その後も数回葛藤した姿を見せ、いったい何度目か、遂に耐えられなくなった様で、ティアナは恐る恐る伸ばした手でモフ子に触れ──すぐ様、柔らかい笑みと共に撫で始めた。
──その様子をぼんやりと見つめる僕。
ここで視線を感じたのか、ようやく僕の存在に気づいた様子のティアナ。
パッと振り向き、目が合い──時間が止まる。
しかしそれも数瞬の事。
目を見開いたティアナが慌てた様子で、
「その、違うのよっ!」
と声を上げ、
「ワフッ!?」
その声で、モフ子が驚きと共に目を覚ました。
◇
その後、何やら言い訳をするティアナの話を、僕はニコニコと微笑ましげに聞いた。
数回のやりとりで何を言っても言い訳にしかならないと思ったのか、ティアナは遂には開き直り──現在、テーブルを挟んで向かいに座るティアナは、ツンとした表情のまま、太ももの上に伏せるモフ子を柔らかい手つきで撫でている。
結局、この世界に居る間は、モフ子はモフ子と思うようにしたようである。
「……んで、茨は何を買ってきたの?」
話を変える様に口を開くティアナ。
「あぁ、えっとね──」
僕はティアナのその言葉に従い、購入した日用品をテーブル上に広げる。
次いで、購入品の数に目を見開くティアナへと、それぞれの用途を一つ一つ説明していく。
と、ここで。ティアナは何かに気づいたのか、恐る恐るといった様相で、
「もしかしてこれ、全部私の為に?」
「そう。ここ日本における生活必需品だね」
「その……お金は? かなりかかったんじゃないかしら」
「まぁ、そこそこかな。でも、必要なものだし、そもそも生活費は僕が持つって約束したからね。あまり気にしないで」
「でも……」
気にしないでと言われて納得する性格ではないのか、ティアナは躊躇いを見せる。
確かに彼女は、今まで基本1人で生きてきたのだ。
当然、特に対価も無く施しを受ける機会など無かっただろうし、やはり抵抗もあるのだろう。
「んー、なら、代わりに家事を手伝って欲しいな。あと今度詳しく話すけど、学校が始まったら、今日みたいにモフ子と留守番をしてほしい」
「……わかったわ」
言ってティアナは、未だ貰いすぎだと思っているのか、しぶしぶといった風に頷く。
これで学校が始まっても、少しの間はモフ子に寂しい思いをさせずに済むので、こちらとしては非常に助かる。
さて、とりあえず日用品は渡せた。
続いてはメインイベント──服のプレゼントだ。
「そ、それでさ、ティアナ」
「……?」
先程とは違い、少しソワソワとした様子の僕に、ティアナは小さく首を傾げる。
しかしこうなるのも仕方がないだろう。
何故ならば、女子にプレゼントを渡した経験など、生まれてこの方一度としてないのだから。
とは言え、こうしてウジウジとしていても状況が変わる訳では無い為、僕は意を決して、
「実は他にも買ったものがあって……これ、その、ティアナに」
言って、可愛らしいラッピングに包まれた比較的大きな袋を渡す。
ティアナは予想外だったのか目を見開いた後、少し躊躇いを見せながらも受け取る。
「……開けても良い? 」
身長が低いからか、少し上目遣いの様な形でこちらに問う。
無言でコクコクと頷く僕。
ティアナは緊張からかごくりと喉を鳴らした後、ゆっくりとリボンを外していく。
こうして中から出てきたのは……勿論、こちらの世界の衣服である。
黒のフレアブラウス、ベージュのテーパードパンツに、その他小物類が数点。
露出は嫌う可能性があった為、なるべく露出が少なく、しかしどこか大人っぽさを感じさせる服を選択した。
「こっちの世界でもずっと同じ服装って訳にはいかないと思って。もしよかったら着てほしいな」
ティアナは、口をぽかんと開けたまま硬直する。
しかし数瞬の後、その口をギュッと結び、
「……ねぇ、茨。私、プレゼントを貰ったの、これが初めてよ。こんなに心が温かくなるものなのね」
言葉の後、プレゼントをギュッと胸に抱える。そしてティアナはこちらへと顔を向け、
「ありがと。大事にするわ」
言って初めて花のような笑顔を浮かべる。
僕はその暴力的なまでの美しさに、思わず顔を赤らめ、見惚れてしまうのであった。
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