1-21 茨、まさかの展開に驚愕する

「茨君、また会ったね〜」


 言ってニコニコと微笑みながらこちらへと寄ってくる南條さん。

 その笑顔は大層可愛らしいし、ゴールデンウィーク中に再び会えた事はこれ以上ない程に嬉しい。

 しかし場所が場所なだけに、僕は冷や汗が止まらない。


「そ、そうだね……」


 消え入りそうな声で返事をしつつ、チラと南條さんの後方へと目を向ければ、クラスメイトの4人が驚いた表情の後、訝しむような鋭い視線でこちらを見ている。


 ……まぁ、当然だよなぁ。


 何故ならば、普段女子の壁に阻まれ声をかける事すら難しい南條さんと、ゴールデンウィーク中に会った様な会話をしている上に、その相手が冴えないクラスメイトの僕。そしてその僕が、誰の付き添いという訳でも無く、1人レディースコーナーに居るのだ。


 ……こんなの、疑わない方がおかしいよね。……って、あれ? まずくない?


 もし仮に、僕が彼女達の立場だったら。

 きっと、普段の学校の様子など、全てを加味してこう思うだろう。


 ──変質者……と。


 内心おろおろとしていると、ここで南條さんが、


「……ところで、茨君。ここ、レディースコーナーだけど、場所間違えてない?」


 と言って、こてっと首を傾げた。

 その姿はやはり可愛らしいのだが、残念ながら今はそれ所ではない。


「えっと」


 言い淀む僕。


 そんな僕に、女装癖? それとも変質者? とクラスメイト達から向けられる疑いの眼差し。南條さんは純粋に疑問を持っただけなのか、笑顔を浮かべている。


 今回に関しては、別にやましい事をしている訳ではない。

 故に、本当の事を言えればそれで良いのだが、残念ながら、そんな事をすれば言い訳と捉えられるか、更に変質者扱いをされるかのどちらかであろう。


 ……となると、これしかないか。


「実はさ──」


 僕は南條さん達に、友人の女性に服をプレゼントしようと思いこの場に来たが、女性の服の事なんか全くわからず、また頼れる人も居なかった為、困っていた事を伝える。


 僕の話を聞き、クラスメイト達は、茨に女子の友人が居た事に驚いたり、そもそもそれすらも嘘ではないかと訝しんだりする。


 そんな中、余程純粋なのか、南條さんは納得した様子で、


「あーなるほどね〜確かに、異性の服って全然わからないよねぇ。私も男の人のファッションは全くわからない」


 と言いながら、ウンウンと頷く。

 すると、何を思ったのか、ここで後方の女子が、


「あ、なら、瑠璃乃。あんたが空木君の服選びを手伝ってあげたら?」


「……え?」


 思わず声を漏らす僕。


 ……あんなに疑いの目を向けていたのに、一体どんな意図で?


「え、でもみんなは……」


「瑠璃乃が選んでる間、私達は別のコーナーで時間潰してるから」


 その言葉に、他の女子達が頷く。


「そう? うん、なら……」


 言って、南條さんがこちらに向き直り、


「茨君。もし茨君がよかったら、その服選び、私に手伝わせてくれないかな? ……その、そこまで、ファッションに自信がある訳ではないけど、少しなら力になれると思うの!」


 やる気満々とばかりに、顔の前で両拳を握る。


 僕は申し訳なく思いながらも、その優しさを無碍にはできないと頭を下げた。


「……南條さんとみんなが良いのなら。その、よろしくお願いします」


「うん!」


 南條さんは大仰に頷いた後、クラスメイト達と話を始める。

「終わったら連絡するね」という南條さんの声が聞こえる事から、おおよそ僕との買い物の後の話をしているのだろう。


「それじゃ、ごゆっくり〜」


「うん、またね〜!」


 少しして話が終わったのか、クラスメイト達がその場を離れていく。

 南條さんは相変わらずのほんわかした様子で彼女達を見送った後、こちらへと向き直り、


「さて、それじゃあ選ぼっか!」


 と元気よく声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る