第55話 創があの子? 心臓うるせーよ (渉視点)
あのまま創が風呂から上がろとしていたのを俺は慌てて引き止めた。
今は夏だからそのまま上がっても風邪を引く事はないだろうが、今日は色々あったし、湯には浸かった方が疲れも取れると思ったんだ。
べ、別にやましい気持ちがある訳じゃねーぞ。
創と初恋の女の子、両方に同じ所に傷がある。
同じ所に傷がある事なんてまあ無い事もないかもしれない。
だけど……。
初恋の女の子の顔は少しだけモヤがかかった様に忘れてしまってきていたが、よくよく思い出してみると、長い前髪の間から見えていた目の色は真っ黒で、くっきりとした二重瞼だった気がする。
大きな眼鏡をかけていたから目は小さく見えていたけど、不意に眼鏡を外した時に見えた目は大きく黒目がちなタレ目で色っぽい泣きぼくろがあったりとか、創と重なる部分ばかりだった。
やはり男で成長期もあったからか顔の骨格は変わっているが、創をそのまま幼くした顔を想像したらぴったりあの子に重なってしまった。
あの台本のペンネームはあの子のペンネームと同じだった。
創があの子ならば、演技の課題の時にあの子がペンネームであるあの台本を使われていた事は番組側が仕組んだ事だったならば、すごく自然な事なのかもしれない。
創を見てあの子と重なって見えていた事も創自体がもしあの子だったとしたなら当たり前な事だ。
湯船に二人で並んで浸かっていた。
創はあの子かもしれない……そう思いながら。
湯の中はリラックス効果があるし、俺は頭が整理できない様な事があると、湯に浸かって目を瞑りゆっくり考える事を週間にしている。
日頃は日常が忙しすぎて湯にゆっくり浸かる時間を取る事も少ないけど、特に行き詰まった時はそうやって頭を整理するんだ。
忙しい時に、がむしゃらに動いても失敗の元だったりするしな。
俺はゴチャゴチャになって混乱しそうな現在の状況を今一度整理しながらも思い出していた。
あの子との大事な思い出のひとつひとつを、創とのこの現場での出会い(もしかして再会なのかもしんねー)の時の事を。
チャポンッ。
真横で湯船が揺れたのを肌が感じた。
どんなに違う事を考えたとしても……。
整理をして落ち着こうとしたとしても……。
隣に裸の創がいる事は変わらない。
変わった事はその創がもしかしたら初恋のあの子かもしれない事が加わっただけだ。
創、体格良いから運動だってしているんだよな……。
それにしては今日の動きを見るとなんだか走り慣れていない様な動きだった。
幼い頃は俺よりも創の方が活発の様だったのに……。
今は色も白くて腰も細くて、なんだかあの頃と立場が逆転したみてーだ。
俺はまだ分からないと思いながらも、いつのまにか創はあの子だと当たり前の様に考える様になっていた。
目をあんまり瞑っていると、余計に変な妄想をしてしまいそうだ。
そう思い目を開いた時、思い切り創と目が合い心臓が跳ね上がった。
び、びっくりした。
少しだけ横に距離をとり俺は大きく深呼吸をした。
創も驚いたみたいに目線をずらして入り口の方を見ている。
チラリと盗み見る様に見ると、ほんのりと頬が赤く色づいている創の表情がやけに色っぽく見える。
思わず、肌に触れてしまいたい衝動を抑え目線をずらした俺はとりあえず身体も温まってきたし、ココから早く出ないと理性が抑えられる自信がない……。
そう思った。
ドキドキドキドキドキドキッ。
湯が熱くてこんなに動悸が激しいのか、側に創がいるからかなのか、もう分かり切ってはいたが、俺はまだ湯の温度に身体が反応しているんだと思い込んでどうにか衝動を抑え様としていた。
その時、ガラッと浴室の扉が開いた。
良からぬ事を考えてしまっていてその考えを頭の隅に追いやろうとした俺は集中し過ぎていたからか、その外部の音にビックリしてまたまた心臓が跳ねた。
浴室に入ってきたのはマモルだった。
一瞬苛立った様に眉間を寄せた様に見えたが、気のせいだったかと思うほどに爽やかな笑顔を作ったマモルが「また重なったね。風呂も一緒なんて意外に二人は仲が良いね」そう言いながら洗い場の方に歩いて行った。
マモルが来る事によってなんとか理性を封じ込む事は出来た俺は安心した様なチャンスを逃してしまった様な複雑な思いを抱えたまま、目線上に向けて浴室の天井を見ながら大きく溜息をついた。
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