意図せず幼馴染に告白する流れになったんだけど

月之影心

意図せず幼馴染に告白する流れになったんだけど

 僕は八尾裕樹やおひろき

 昨年から地元を出て隣県にある大学に通い出した2年生。

 特別勉強が出来るわけでも運動が得意なわけでもない普通の大学生だ。


 ある日、大学で丸4年ぶりに会った子が居た。

 

 柏原真美亜かしわばらまみあ

 美人でスタイル抜群で頭も良くてスポーツも万能で誰とでもすぐ打ち解けられるコミュニケーション能力の高さもある、何せ非の打ち所がない僕の家の近所に住んでいた幼馴染。

 幼い頃から一緒になって遊んだり勉強したりしていて中学卒業まではよく会っていたが、高校が別々となって全く顔を合わせなくなっていた。

 真美亜とはずっと一緒に居られると思っていたので、あの時は真剣に落ち込んだのを覚えている。


「よっす!」

「え?真美亜?」

「久し振り!」

「あ……え……何で真美亜が?」

「私此処の学生だもの。」

「真美亜もここだったの?」

「うん!まさか裕くんもここだとは思わなかったよ。」


 真美亜曰く、『何か似ている人が居たから声を掛けてみた』との事で、僕だったら似ているだけで声は掛けられなかっただろうなと、改めて真美亜のコミュ力には脱帽だ。


「で、裕くん学部は?」

「経済学部。」

「おぉ!一緒だ!学科は?」

「経済学科。」

「これまた一緒!やったね!」

「丸1年気付かなかったのも凄いけどな。」

「ホントね。」


 コロコロと笑う真美亜は相変わらず美人だった。

 幼馴染ではあるが、正直異性として意識して好意を寄せていたので、こうして再会出来た事は安心感は当然、喜びが爆発しそうになるのを抑えるのに必死だった。


「地元は離れたけどまた昔みたいに一緒に遊べるといいな。」

「うん!」

「3年ぶりの再会を祝して何か食べに行くか?」

「行こう行こう!」

「何食べたい?」

「お寿司!」

「回るやつでもいい?」

「全然おっけー!」


 僕は此方に越して来てすぐに散策した近所の地図を頭の中で広げ、最寄り駅と自分の住む事になったマンションの中間点辺りにあった回転寿司の店を提案した。

 真美亜は人差し指と親指で丸を作って笑顔を見せた。


 しかし改めて見ると、真美亜は以前にも増して綺麗になった気がする。

 羽織ったブルゾンでも隠せない胸の膨らみや、ミニスカートから真っ直ぐ伸びた長い脚、何より笑顔を映えさせているナチュラルメイクのせいか、改めて真美亜が美人だなぁと思い知らされた。


「裕くん!『マグロ祭り』だって!」

「ほんとだ。」


 店の前には『マグロ祭り開催中』と書かれた大きな垂れ幕が飾られていた。


「トロ!トロ食べ尽くし!」

「どんだけ食べるんだ。」


 きゃっきゃとはしゃぎながら僕を引っ張って店内に入ろうとする真美亜は、まるで子供の頃よく一緒に遊んでいた頃に戻ったような表情になっていた。




「ふぅ~……満足……」


 2人の前に10枚×2つの皿の山が置かれ、真美亜は満足そうな顔でお茶を口にしていた。


「このお皿を積み上げてるのを見ると満腹感が来るね。」

「うんうん。マグロも祭りって言うだけあって美味しかった。」

「だねぇ。」


 夕方早かった事もあって入店した時は空いていた店内が少しずつ騒がしくなってきていた。


「そろそろ後の人に席譲ろうか。」


 僕は机の横に挿されていた番号札をさっと持って席を立った。


「あ、払うよ。」

「あぁいいよいいよ。ここは僕が払っとく。」

「いいの?」

「うん。別の形でお返しに期待したいから。支払いしてくるから外で待ってて。」


 横から僕の顔を除く真美亜がくすっと微笑んで『ごちそうさま』と言って店の外へ出て行った。




 支払いを済ませて外へ出ると、真美亜はもう一度『ごちそうさま』と僕に笑顔を見せてくれた。


「ところで真美亜ってどの辺に住んでるの?」

「んっと……ここからだと……こっちの方角かな。」


 真美亜が指差した方向は僕の住んでいるマンションがある方角でもあった。


「僕もこっちだよ。」

「へぇ~、実家も近かったけど一人暮らししてる所も近いのかもね。」

「あはは。だと面白いな。」


 散歩がてら、僕は真美亜の住んでいる所まで一緒に歩く事にした。

 一度、二度、角を曲がり、左手奥に僕の住むマンションが見えてくる所まで来た時、真美亜が再び前方を指差した。


「あのレンガ模様の壁のとこだよ。」

「へ?」

「へ?……って何?」

「いや……僕もあのレンガ壁のマンション……なんだけど……」

「え?ウソ?」

「ホント……あのマンションの301号室……」

「えぇ!?私310号室だよ?」

「マジか……」


 何の事はない。

 同じマンションの3階の両端部屋にそれぞれが住んでいて、丸1年気付いていなかったらしい。

 マンションに着くまで、僕も真美亜も『マジかよ』『ホントに』しか言わなかった。

 マンションに着くと、僕と真美亜はエレベーターで3階へ上がった。


「ホントにホントなの?」

「信じられないのは僕も同じなんだけど……」


 と、ポケットから部屋の鍵を取り出して鍵穴に挿し込む。

 鍵を右へ回すと『カチャッ』と音を立てて解錠された事が分かる。


「ホントだ……」

「上がっていく?」

「あ……先に私、荷物置いて来る……私の方も確かめに来る?」

「そうだな。」


 再度鍵を左へ回して施錠し、そのままマンションの通路を平行移動して道路と反対側へと向かった。

 『310』とプレートの貼られたドアのカギ穴に、真美亜が僕の持っていた鍵と同じデザインの鍵を挿し込み右に回すと、僕の時と同様『カチャッ』と音を立てて解錠される。


「ホントだ。」

「ね?……あ、先にうち上がる?」

「いいの?」

「勿論。どうぞ。」


 真美亜がドアを大きく開けて僕を中へと促した。

 そこは、僕の部屋を左右対称にしただけの空間が広がっていた。


「まぁ……そりゃそうか。」

「だよね。」


 部屋の新鮮味というものは無く、また真美亜の部屋は思いの外飾り気が無かった。


「何も無いなって思ったでしょ?」

「あ……いや……うん……」

「あんまり物を置きたくないから必要最低限の物しか持ってきてないのよ。」

「そうなんだ。いいと思うよ。」

「はいじゃあ私の部屋はおしまい!次は裕くんの部屋ね。」

「もう終わりかよ。」

「何?何か家探しでもしたかった?」

「んなわけあるか。」

「じゃあ行こう!」

「はいはい。」


 真美亜はバッグを椅子の上に置くと、鍵とスマホだけ持って僕を押し出すように部屋を出た。

 再び僕の部屋の前に来て解錠してドアを大きく開く。


「どうぞ。」

「おじゃましまぁす。」


 真美亜は頭をちょこんと下げてから中に入って行った。


「私の部屋よりは物があるね。」

「あ~まぁ何となく実家の自分の部屋に似せた方が落ち着くかなと思って。」

「ふふっ。裕くん昔から割と保守的なとこあるもんね。」

「変化に敏感だと言ってくれ。あ、オレンジジュースでいい?」

「ありがと。」


 僕はキッチンへ行って冷蔵庫からオレンジジュースのペットボトルを出し、2つのコップに注いで持って行った。


「それにしても、同じ大学行ってたのもだけど、まさか住んでるマンションまで同じだった事を知らなかったなんてね。」

「まったくだ。これだと実家に住んでるよりも近いよな。」

「それそれ!もうここまで来たら……何ていうの?運命的なものを感じるよ。」

「え?」


 これは真美亜のコミュ力による社交辞令的なやつなのか、それとも本当に運命を感じているのか……僕の心臓が大きく跳ねた気がした。


「だって、高校が別だって知った時は、もう裕くんとは一緒に居られないのかなぁ……なんて思ってたのに、まさか大学でまたこんな近くに居られるなんて……これは運命としか思えないわよね。」


 真美亜が目をキラキラさせて俺の顔を覗き込みながら言った。

 その顔や言葉に、期待をするなと言う方が酷と言うものだろう。


「あ、あぁ、凄いな。」


 僕的には出来るだけ冷静に言ったのだが、その僕の顔を覗き込む真美亜は更に目をキラキラさせていた。


「な、何?」

「裕くんってさ……」


 真美亜がキラキラさせていた目を細め、もう数cm顔を近寄せてきた。

 僕は思わず体を後ろへ引いてしまう。


「嬉しい事があると素っ気なくなるよね。」

「え?そ、そうか?」

「学校で久し振りに私と会った時も、お寿司屋さんで大好きなマグロ祭りやってるの見た時も、嬉しいのをぎゅって我慢して気持ちを抑え込んでた感じ。」


 意識的にそうしているわけではないが、何となく感情を前面に出して大喜びするのが昔から苦手だった。

 長い付き合いのお陰と言うか、そんな事を真美亜はしっかり見ていて僕の感情を把握していたようだ。


「つまり!」

「ん?」

「私との運命的な再会を喜んでくれてるんだよね?」


 これだけ把握されているなら何も隠す必要は無いのだが、それ以上に気恥ずかしさが勝ってしまって思わず真美亜から目を逸らしてしまう。


「違うの?」


 一転して真美亜は少しトーンを落とした寂しそうな口調になる。


「え、あ、いや……う、嬉しいよ……」

「嬉しそうじゃないよ?」


 僕の顔を覗き込む真美亜を視界の端に捉えると、真美亜は眉を八の字にして口を尖らせ、不満だらけという表情になっていた。


「いや……真美亜の言う通り……嬉しくて素っ気なくなって……るよ……」

「じゃあこっち見て。」


 真美亜が僕から少し離れて姿勢を正した。

 何事かと僕も引いていた体を元の位置に戻し、真美亜の方へ顔を向けた。


「裕くん!」

「は、はい?」

「私、裕くんと一緒に居る時が一番楽しくて落ち着いて居られて一番自分を感じる事が出来るの。だから高校の時は本当に辛くて寂しかった。」

「うん……」


 真美亜の顔がみるみる紅潮していき、目に見えて唇は震えていた。


「だから……分かるでしょ?」


 もうこれは、だろ。

 俺だって真美亜と会えない日は寂しかった。

 同じ気持ちで居たと言う事は、それしか無いだろう。

 僕は1000%の確信を得て、自分の気持ちを伝える事にした。




「うん……分かってる……僕も真美亜の事が……好きだ……」












「え?」




 真美亜が目を真ん丸に見開いて僕の顔をじっと見つめている。


「あ……え……?裕くん……え……?」


「え?」


 何か変な事言ったのか?

 真美亜の顔がさっきにも増して赤く染まっていく。


「いや……ごめん……まさか裕くん……そんな……」

「え?え?分かるでしょってそういう事じゃ……?」

「ちっ……違う……事も無くも……無い……けど……」

「えっ?」


 俯いた真美亜は手をもじもじとさせていた。


「その……私は裕くんと一緒に居られなくて……寂しかったなぁ……と……」

「うん……だからこれからは一緒に居たいって事……じゃ……?」

「それはそう……なんだけど……何て言うか……まさか告白されるなんて思って無かったから……」

「えぇっ!?」


 いやいやいやいや!

 さっきのはそういう流れでしょ?

 あの流れで違うって……うわぁ……何か僕すっごい恥ずかしい事言った風になっちゃったじゃん!


「心の準備が……出来て無かったって言うか……その……」


 言うや否や、真美亜はオレンジジュースのコップを机の上に置くと……


「ちょっと一回帰ってくるねっ!」


 と言って大慌てで部屋を出て行ってしまった。




「え……?」




 部屋に残された僕は、ただ茫然と真美亜の出て行った玄関を見詰めるしか出来なかった。


 何だか辱めを受けた気分になった僕は、ベッドにダイブして枕に顔を押し付けていた。




「何だってんだぁぁぁ!!!」

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