第119話 繋がった世界
「フウマ先生!今お戻りですか。指輪、全て見つかったと聞きました。くるみ元気にしていましたか?」
ミナトはエントランスホールに現れたフウマを見つけると矢継ぎ早に話した。フウマは本当の事を言おうか迷ったが何も言わなかった。
「自分で聞いたらいいんじゃないかな。まだ門の辺りで隊長と話していたよ」
「わかりました。迎えに行って来ます」
ミナトは勢いよくエントランスホールを飛び出した。
その姿には何の迷いもない。
それを見た瞬間フウマは気付いていた。小さな頃から兄弟のように過ごしたミナトのことだ。きっとくるみを不安にさせる要素はこの1ヶ月で解消したのだろう。2人のこれからを素直に祝福した。
「くるみ、お帰り。荷物持つよ」
くるみは晴れやかなミナトの姿に心を奪われた。
「ありがとう」
くるみは照れくさそうにトランクを渡す。
「そっちも持つよ」
2人のやり取り見ていた隊長のマサキは怪しむ目つきで咳払いをした。
「お前たち何かあったのか???」
「まだ何もないですよ、隊長」
ミナトはいたずらな顔で言う。
「行こう、くるみ」
くるみはマサキに小さく頭を下げると城へ向かうミナトを追いかけた。
「まだ?まだ⁉」
マサキは、はてなを頭に浮かべながら立ち尽くしている。
ミナトはその足でくるみを連れ、国王の元へ向かった。くるみは何のことか分からずミナトへ着いて行ったのだが、さすがに応接間に入る前にミナトを引き留めた。
「これから何をするの?」
「いいから、いいから、国王が会いたいってさ」
くるみは結婚の話になるのではないかと身構えながら部屋へ入った。そして、どんなことを言われようと真摯に受け止めようと気持ちを強く持った。
しかし、部屋に入るなり国王はくるみを抱きしめた。状況を飲み込めないくるみは、ミナトに助けを求める視線を送った。
そこに助けに入ったのは王妃リリーだった。と言っても抱き合う国王とくるみを更に抱きしめたのだ。くるみは2人に抱きしめられ、つぶれそうだ。
(どうなってるの?)
くるみは言葉も出ない。
「ミナトもいらっしゃい」
リリーは優しく手招きをする。
ミナトは少しあきれたように3人を抱きしめた。とても温かい。4人は言葉を交わすよりも先にぬくもりを感じた。
「新しい家族の誕生だ」
国王は威厳ある声で叫んだ。
数日後、4つの都の協議である大切なことが決まった。それは始まりの国に存在する30の指輪を国が管理するというものだ。
この話はくるみがいなくなった4年前から話し合われてきた。
指輪の能力者の数で4つの都の均衡が保たれてきたもの事実だった。しかし、呪いの指輪は消滅した今でも、第2のガーラのような者がいつ現れるか分からない。
協議は難航したが、4つの都は指輪の能力を手放すことを選択した。しかし、例外もあった。
魂の通り道に関わる者だけはそのまま所持することを許されたのだ。つまりケイジロウ達のことだ。それ以外の者は全て指輪を返納することとなった。
さて、その大切な指輪を城のどこに保管しておくかだが……。
くるみもミナトも直ぐに一番安全な場所がひらめいた。
「マザーケトの沼!ここしかないね」
2人は沼の前に立った。
「くるみ、もう空を飛べなくなってしまうけどいい?」
くるみは笑顔で小さく頷いた。
「ミナト、私何の取りえもなくなってしまうけどいい?」
「じゃあ、違う能力の指輪をあげるよ」
そう言うとミナトはポケットから何かを取り出した。それはドロップのように大きなダイヤがついた指輪だった。
「これは?」
「僕と結婚できる能力の指輪だ!いる?」
ミナトはいたずらっぽくくるみに聞いた。
「欲しい、前からずっと欲しかった」
くるみはずーっと伝えたかった気持ちを言えた。
マザーケトは大きな目から大きな涙を流し遠くから2人を見守っていた。そして大切な指輪が入った箱を預かってくれた。
「しかるべき時まで、だね」
そう言うとマザーケトは静かに沼に沈んで行った。
クリスマスの朝、美沙は庭に薄っすらと積もった雪を見て和哉を起こした。
「ゆき、雪よ」
「おお、ホワイトクリスマスだね。クリスマスにぴったりの朝だ」
「何だか良いことがありそう」
美沙はキッチンへ行くとお湯を沸かし始めた。
するとその時スマホが鳴った。
画面には『川崎くるみ』と書かれている。
「かずさん、くるみから電話よ」
美沙の弾んだ声が響く。
「くるみだって!ようやく帰って来るのか。張り切って料理作らないとなぁ。何時に迎えに行けばいい?聞いておいてくれ」
美沙と和哉の世界にくるみが戻ってきた。
そして、もう記憶は消えることはない。
2つの世界は『時代屋時計店』で繋がっている。これからもずっと、ずーっと。
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