第106話 仲間との再会
「さあ行こう」
ケイジロウは城を眺めるくるみに声をかけた。
「うん。城、元に戻ってるね」
「4年も前のことだ。ガーラに破壊された橋も棟も半年で修理が終わったよ」
ケイジロウは淡々と答えた。
不意にあの日の光景が目に浮かんだ。この場所でたくさんの城兵が倒れ、たくさんの血が流れた。
しかし、くるみは直ぐにその記憶を追い出すように頭を振った。
それよりも大切な思い出がこの景色には詰まっている。
眼前に広がる景色は生まれ育ったチェスターリーフの街。大切な故郷。そう考えるとあの恐ろしい記憶は幻のようにさえ感じる。
城の横にある小道を進むとBBの本部がある。何度も通い慣れた並木道はくるみを待ち焦がれていたようにさわさわと葉を揺らす。
木漏れ日が足元に広がり枯れ葉を踏む音が心地よい。小鳥が枝から枝へ飛び移る。まるでくるみの帰りを皆に伝えているようだ。
その時、突然声がした。
「くるみ!」
ミナトの声だ。
煉瓦造りの邸宅のバルコニーにミナトが立っている。
「ミナト!」
くるみは大きく手を振った。急いで駆け寄り、バルコニーを見上げた。するとミナトはふわりとくるみの横に着地した。
(あぁなんて幸せなんだろう。夢を見ているようだ。)
2人は同時に同じ想いに駆られた。
くるみは迷わずミナトの胸に飛び込んだ。
「待ってたよ、くるみ」
ミナトはくるみを抱きしめながら全てが元に戻ったような満ち足りた気持ちになった。長い道のりだったがこの幸せの瞬間を感じることができたのなら、2人の4年間は無駄ではなかったのかもしれない。
小鳥がさえずる中、春の優しい風が今日も始まりの国を流れている。
ミナトに抱きしめられたまま、顔を上げないくるみがようやくミナトを見た。
「実は、指輪はマザーケトに預けたの」
くるみは恥ずかしそうにミナトに打ち明けた。
「えっ、マザーケト?」
「うん。小さな時に裏庭の沼でミナトも会ったでしょ?」
ミナトは驚きながらも、くるみの話を受け入れた。
「じゃあ、あの夜隊長にイミテーションの指輪を渡し、本物はマザーケトに預けたんだね」
「うん。それが一番安全だと思ったんだ」
くるみは昨日の事のように話した。ミナトはおとぎ話のようなくるみの話を信じることにした。実際、ミナトの記憶は曖昧だった。
「わかった。じゃあ、返してもらいに行こう!」
「今から?」
「今からだよ」
そういうとミナトはバルコニーへ戻り、くるみとの再会を待つメンバーたちに少し待つように伝えた。その途端知った顔がどっとバルコニーへ集まった。
「くるみ!」
「お帰り!」
「待ってたぞ」
「生きてたんだね」
「ありがとう」
それぞれが4年越しの想いを叫んだ。くるみは圧倒されながらも、1人ひとりの声を聞き取った。雰囲気は変われど、どの顔を見ても名前が直ぐに浮かぶ。
「みんな、待っててくれてありがとう。もう少しだけ時間をちょうだい。大切な指輪を持ってくるね」
「あれ?隊長がいない」
「隊長ならいつもの席に座ってたけどな」
ミナトは首をかしげた。
「もしかしてあの夜に勝手な行動を取ったこと怒ってるのかな……。私、早く謝らないと」
くるみは急に不安になった。
「4年も待ったんだ。あと1時間くらいどうってことないだろ」
ミナトはそう言うと、くるみの手を握り空高く舞い上がった。BB達はバルコニーで指笛を鳴らし大いに盛り上がる。
「大丈夫だよ。隊長は怒ってないよ」
風に揺れる髪の間からミナトの優しい目が見えた。
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