第105話 ケイジロウの困惑



 昼下がりの田舎道をケイジロウは車を走らせる。


 時折、物珍し気に車に向かって手を振る人がいた。隣には優しく微笑むくるみが座っている。道端には赤や黄色のひなげしが揺れ、お日様をたっぷりと吸い込んでいるようだ。


 今日も始まりの国は天気が良い。


 ちょうど街が見渡せる丘にさしかかった。ケイジロウが指輪のありかを尋ねてからくるみは黙ったままだった。

 

 そのくるみが突然口を開いた。


「あの後、どうなったの?」


「あの後?」


「私がガーラに消された後……」


 くるみはどこか人ごとのように尋ねた。


「あぁ……、まぁ大変だったよ。ガーラの力は2時間たっても消えることがなかったからね」


 ケイジロウも4年前の夜を思い出した。


「私の作り出した蝶は皆を回復させることができた?」


「もちろん!そのおかげで体力やケガが回復しガーラの動きを封じ込めることができたんだ。丸1日かかったけどね」


 

 くるみがいなくなり、それと共に呪いの指輪も消滅した。喜ぶべきことと、悲しみが一気に当時のBB達を襲った。しかし、皆に打ちひしがれている暇はなく、自分の身を犠牲にしたくるみの行動を無駄にはできなかったようだ。


 くるみは安心したように車のシートを倒した。

(よかった。皆を守ることができたんだ)


「それで、指輪はどこに隠したの?」


 ケイジロウは横目でくるみを見た。


 くるみは迷わず答えた。


「マザーケトの沼」


 ケイジロウは急ブレーキを踏んだ。


「マザーケト⁉ それっで大事なもの隠してくれるカエルのことだよね。おとぎ話だよね?」


「違うの。本当に子どもの頃にマザーケトに会ったの!」


 くるみは小さい頃にミナトとフウマと3人で城の裏庭にある池の周りで遊んでいた時の話をケイジロウに聞かせた。


 その時トカゲに食べられそうな小さなカエルを助けたのだ。3人は大きなトカゲにひるむことなく落ちている小石や枝を投げつけた。ワニのような大きさのトカゲは子どもたちの攻撃を受け、すごすごと逃げていった。


 すると突然沼から泡が湧きたち、おおがまが現れたのだ。


「それ、夢じゃないよね」


 ケイジロウは怪しげなものを見るような目で言った。


「絶対、お話に出てくるマザーケトだった」


 くるみは子どものようにケイジロウに訴えた。


 ケイジロウもくるみの話を信じようと試みだが、どうしてもおとぎ話に出てくるマザーケトを信用することができなかった。しかし、くるみが言うのだから一応この場では信用する形をとるしかない。

(それにしてもこの件は隊長に話す前にミナトやフウマ先生に相談しないと。大切な指輪なのに……)


 ケイジロウは疑問だらけの頭で運転を続け、ようやくBBの本部がある城の敷地に到着した。くるみは車から降りると、懐かしそうに全てを見渡した。

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