第103話 最後のぬくもり
くるみは隊長から授かった赤いオーラを纏い、ミナトのそばまで行くと足を止めた。
ガーラはようやく視界にとらえた獲物を見つめ攻撃の手を止めた。
「くるみどうして来たんだ。隊長と隠れているはずだっただろう」
ミナトは戸惑いの色を隠せなかった。
「大丈夫だよミナト。私が終わらせる。もう誰も傷つけさせない」
くるみは満身創痍のミナトやBBのメンバーを見渡した。
「ガーラ、指輪はここにある」
そう言ってイミテーションの指輪を高々と見せつけた。
「おぉ、それが生の指輪か。早く私の所へ持って来なさい」
ガーラは興奮を抑えきれない表情だ。
「わかったわ。だからもう攻撃は止めて」
くるみは燃え盛る炎を避けながらゆっくりとガーラのもとへ向かった。皆の声が聞こえる。
「くるみ、やめろ。渡しちゃいけない。計画を思い出せ!」
フウマが叫んだ。
「くるみ、危ない、ガーラに近づくなー!やめてくれ!」
ミナトも叫んだ。何としてでもミナトはくるみを止めたかったが一度攻撃をやめた体は石のように重く、言うことをきかない。
フウマもケイジロウも同じだった。
もうここが限界だったのだ。
それでもミナトは必死に叫び続けた。
「くるみ、くるみ。行かないでくれ!くるみー」
ミナトの瞳からは大粒の涙がこぼれた。
くるみは振り返ることもせずガーラの前までやって来た。
その時だ。矢のような風がガーラの腕に突き刺さった。くるみが振り返るとミナトが立ちあがっていた。
「なんだ?こんな技も隠し持っていたのか」
ガーラはにやりと笑い、二の腕に刺さる風の矢を引き抜いた。その矢はガーラが握るとメラメラと赤黒く燃えだした。すかさずそれをミナトめがけて投げ返した。
ミナトには避ける気力も体力も残っていなかった。矢はミナトの胸に刺さり呪いの炎はじわじわと全身を覆い始めた。
「ミナトーーー!」
悲鳴のようなくるみの叫び声が響き渡った。
くるみはミナトのもとへ戻ろうとした。しかし、ガーラはそんなくるみを止めようとはしなかった。
「生の指輪とはどれほどの力があるものか見せてみろ!」
ガーラは嬉しそうに言い放った。
「ミナト、ミナト。私の声が聞こえる?」
くるみは倒れるミナトの横に膝を着いた。
「くるみ、ミナトに触るな。お前まで燃えてしまうぞ」
フウマの声が後ろから聞こえた。そんなことは分かっている。でも、このまままではミナトは死んでしまう。
「いやー!死なないでー」
くるみは思わず呪いの炎に包まれるミナトを抱きしめた。
必死だったくるみには熱いのか冷たいのかさえ感じない。しかし、分かったことが一つだけあった。ミナトは生きている。
「大丈夫だよ。私が助けてあげるから、絶対に助けるからあきらめないで」
くるみはミナトの体を撫でながら話しかけた。しかし、ミナトからの返事は返って来ない。
「さあ、どうなるのかな。その炎はなかなか消せないはずだからねぇ」
ガーラは生の指輪の能力を見定めようと興味津々の様子だ。
くるみは植物エネルギーを自分とミナトへ送り込んだ。しかし、ミナトはぐったりとしたまま動かない。
くるみはミナトの服を脱がし矢が刺さった傷口に触れた。マザーケトにつけられたベトベトとしたものが傷口に触れると不思議なことが起きた。
傷が回復し始めたのだ。そして、2人に纏わりつく呪いの炎も消えたのだ。
「おぉ、なんと素晴らしい。私の求める能力だ。早くこっちへ持ってきなさい」
ガーラは指輪の能力で傷が塞がったと信じているようだ。ガーラは仁王立ちで手招きをしている。
くるみは植物たちにミナトの回復をお願いすると、そっとミナトを地面に寝かせた。
「待って、くるみ」
ミナトのかすかな声が聞こえた。意識を取り戻したのだ。くるみはミナトの声を聞き取ろうと顔を近づけた。そしてもう一度ミナトを抱きしめ、誰にも気づかれないようにそっと頬にキスをした。
最後にもう一度ミナトのぬくもりを感じたかったのだ。くるみは悲しい顔など見せずに微笑んだ。
「本当にもう大丈夫だから、ここで休んでいて」
くるみはそうミナトに告げると、フウマの方にも目をやった。フウマは頷いた。まるでくるみのやろうとしていることを悟ったかのようだった。
「ガーラ今からそこへ行く。だから、もう皆には近づかないで」
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