第51話 恐怖の階段
「ほら、行くよ」
ケイジロウはくるみに手を差し出した。くるみはケイジロウの手につかまり、泣く泣く立ち上がった。
不意にミナトとレモン畑で手をつないだ時のことが頭をよぎる。
「どこにいるの~ ミナトくーん!」
くるみは遥か下に臨む街並みに向かって突然叫んだ。
「じゃあ、ミナト君も探さないとね。幻の王子様のような人だったかな?」
ケイジロウはいたずらっぽく言うと、チェスターリーフの街に向かって、ひたすら下に伸びる階段の降り口へ走り出した。
「えっ?えっ!ミナト君のこと知ってるんですか。待ってくださーい」
くるみは急いでケイジロウへ駆け寄った。
「先にくるみちゃんが下りた方がいいかな。この階段は実際は見た目ほど長くはないんだ。僕の場合は3段くらいで地上に着く」
「じゃあ私はどれくらいですか?じゃなくて、ミナト君もこの街に住んでいるんですか?」
「かもしれないね」
ケイジロウは口から出かかる言葉を飲み込んだ。
くるみは不審な目つきでケイジロウを見ている。その視線を感じつつも、引きつった表情でケイジロウは階段の説明を続けた。
「くるみちゃんは初めてだし、色々な情報も頭に組み込まれるはずだから、100段くらいかな?でも螺旋階段もかなり長くかかったからなぁ」
チェスターリーフへ続くこの途方もなく長い階段は、手すりもなく大きな岩盤を削り出したような薄い岩が只々下へ続くだけだ。
空中に浮かんでいるだけの岩なんて、どんな遊園地の乗り物よりも恐ろしい。
この階段は意思を持つ階段で、歩く者の心を読み取るらしい。
悪事を働くためにやって来た者はいつまで経っても地上には着けない。
飛び降りようものなら、春の草原に戻されてしまう。
すなわち、この奇妙な階段は悪の侵入を防ぐための防壁のような役目もある。
更に、地球からの旅人にとってありがたいことは、階段を下りる間に言語や始まりの国の基本情報が頭に入ってしまうシステムになっているのだ。
何ともハイテクと言うべきなのか、既存の認識を超えたものがこの世界には存在している。
くるみは思い切って片足を階段に乗せた。浮いているわりにはびくともしない頑丈な階段だった。
一瞬恐怖に負けそうになるも、まだ見ぬ家族に会うため、もう片方の足も動かした。
すると街並みがぐんと近くなった。その後も一歩、二歩と進む。
まるで巨人にでもなったかのような一歩だった。
見る見るうちに街の屋根が目の高さにまで近づいた。
そして10段も下りないうちに地面はもうすぐそこだった。
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