第47話 螺旋階段



 ケイジロウは腕時計とピンクの光を閉じ込めた集気びんを、扉の横にある窪んだ穴に置いた。


「よし、セット完了!」


 その瞬間、扉の向こうで何が激しく光り、扉の縁からは光が漏れた。


「さあ、開けるよ。階段を下りるから足元、気をつけるんだよ」


 目の前で起こっていることに何一つ理解はできなかったが、リュックの肩ひもをしっかりと握り締め、くるみは扉をくぐった。


「カランコロン…コロン…コロン……コロン……」


 扉に掛けらた低音のウィンドチャイムが響き、壁に共鳴しながら消えて行った。


 ケイジロウを先頭に2人は石造りの階段をどんどん下った。幅が広めの螺旋状になった階段は、どこからやって来るのか分からないオレンジの光で満たされていた。


「怖くないかい?」


「はい、大丈夫です。でも、ここはもう隣のビルの地下辺りじゃないんですか?」


「ここはもう、地球じゃないよ。始まりの国の入り口さ」


 くるみははてなが頭を占領し、立ちくらみがした。


 手すりにつかまりながら、ようやく歩いている感じだ。


 その様子をケイジロウは楽しそうに見ている。


「初めてタイムトラベルや始まりの国へ行く人はみんなくるみちゃんみたいに現実を受け入れるのに苦労しているよ」


 5分ほど下っただろうか。階段の途中にベンチが見えてきた。


「ちょっと休むかい?」


 くるみは疲れたわけではなかったが、気持ちを落ち着かせるためにも休憩を取った。


 銅製のおしゃれなベンチは背もたれがリボンのような形をし、幻想的なこの空間によく似合う。


 そこに座ると、ケイジロウは人間の魂の話をしてくれた。


 魂の色は人によって違うらしい。


 色は実に様々で、似たような色の人もいるが、人間で例えるならDNAや指紋のようなもので、細かい部分で違いがあるようだ。


 黒だから悪い人間、青だから冷たい人間、と言う訳でもないらしい。


 これから向かう始まりの国は、地球上の人間の魂が帰る所で、そこには記憶の森と呼ばれる、広大な手つかずの森があるそうだ。


 人は肉体が死ぬと、魂だけが抜け出し、地球上に五つある魂の通り道を通って始まりの国へ帰る。


 記憶の森にはその魂が帰る樹があり、毎回同じ樹に今まで生きた記憶を記録する。


 そうして、記憶が空になった魂は新しく人として生まれ変わる。それは地球かもしれないし、始まりの国かもしれない。


「何だか不思議ですね。魂は繰り返し様々な時代を生きているんですか」


「そうだよ。きっと何百・何千回と生まれ変わっているんだ」


 ケイジロウは得意げに答えた。


「だから、人類はみんな家族みたいなものだよね。ちなみに僕は始まりの国の人間だよ」


「えーっ、えっ? じゃあ、私も始まりの国の人間なんですか?」


 くるみは、飛び上がるほど驚いた。これから両親がいるところへ行くと言われたのだから、自分が始まりの国の人間なのは当たり前のことなのだ。


「そうだよ、今回は始まりの国に生まれたんだね。でも前世は地球だったかもしれなよ」


 くるみはため息をつきながら上を見た。今まで降りて来た階段がまるでアンモナイトのように見えた。


 そして、ある重大な疑問がくるみの頭に浮かんだのだ。

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