第43話 深いつながり

 俺達はむつみ基地へ戻っていた。

 捕虜としたレーブル級巡洋艦ラーダは空中に停泊させている。勿論、光学シールドを展開し、外部からは見えないようにしていた。


 秋吉台はかなり広範囲が焼け、長者が森なども焼け落ちてしまった。土壌は所々溶岩化し、また白い石灰岩も広範囲で変質し大理石のようになってしまった。レーブル級巡洋艦の全力砲撃を受け、その熱量を周囲に拡散したためだ。

 幸いなことに死者はいなかった。軽度のやけどを負った人が十数名いたのだが、そのほとんどが証言していた。光の球に包まれて熱線を防いでもらったと。これは夏美さんだろう。黒猫に助けてもらった格好になったが、アレは俺がいたから発生した戦闘だ。近くにいた人の事など考えてもみなかった。

 

 目先の事しか考えていなかった自分のせいで、地元の景勝地は焼け焦げてしまった。そして、異星人とはいえ人を殺した。


 後悔はしていないと思う。しかし、自分の為した事への責任が重くのしかかる。親父からは「よくやった」と言われた。あの時は俺の行動で何とかなった。いや地球を守ったのだと。


 しかし、しかし、責任の重さが俺を押しつぶす。

 もう後戻りはできない。

 

 この重圧に耐え続ける事が俺の人生となった。

 そう感じた。


 俺はむつみ基地内の宿舎にいた。そこの一室を借りている。

 外はもう暗くなっている。もう、夜の22時を回っているだろう。食事も風呂も済ませ、今から寝ようとしたところだった。


 トントントン

 ノックの音がする。


「正蔵様、入りますよ」


 椿さんだった。 


「お風呂は済ませましたか?」

「もう済ませている。今日は疲れたよ」

「そうですか。疲れましたか」


 そう言ってベッドに腰かけている俺の側に座る。もうパジャマを着ていて、今から寝ますよと言う格好だ。グリーンのアマガエルをあしらったプリント柄のパジャマだった。非常に可愛らしい。


「そのパジャマ。可愛いですね」

「ふふふ。これは、自慢の一品なのです。癒し系の波長を出す世にも不思議な魔法のパジャマです」


 魔法のパジャマなど嘘だと直感した。俺を癒そうとしてくれている椿さんの心遣いが身に沁みる。


 彼女は俺の右腕に胸を押し付け、肩に頬ずりをしてきた。


「正蔵様。昼間、夏美さんと何をしてたのか全部知ってますよ」

「??」


 何の事かわからなかった。恐らく、3時間ほど記憶を失っていた時の事を言っているのだろうが、残念ながら俺にはわからない。


「ごめん。多分、あの時の事だと思うのだけど、俺、何があったか覚えていないんだ」

「それも知ってます。実は嫉妬してます。ムカついてます」

「椿さんごめんなさい」


 よくわからないのだが、俺は一生懸命椿さんに謝った。


「あの人たち、意地悪ですね。正蔵さまとイイ事しちゃって、その記憶を丸ごと消してるんですから」

「あの……全く記憶にないんですけど」


 俺には全くわからなかった。記憶を消されたって、どういう事なのだろうか。


「この事は黙っていようと思っていました。でも、どうしても我慢できなかったんです」

「どういう事なのでしょうか?」

「正蔵さま。今朝、9時ごろから三時間ほどの記憶がありませんよね」

「はい」

「その時、正蔵さまは夏美さんとしちゃったんです」

「しちゃったって?」 

「エッチな事です。夏美さんだけではなく、ミサキ様にまで手を出してました。もう信じられない」

「えーっと、覚えてないんですけど……」

「あの人、アルマ帝国の第三皇女なんですよ。間違って妊娠させちゃったらどうするんですか?」

「どうするとか言われても……アルマ帝国の人と地球人で妊娠するんですかね?」

「当然です。遺伝子の形態はほぼ同じなんですから。勿論、婿入りするんですよね。ミサキ様を裏切らないですよね」

「それは、困るんですが……」

「精々困って下さい。例え正蔵様がミサキ様の所へ婿入りするとしても私は諦めませんから」

「それは嬉しいかも……」

「でも酷いです。私が正蔵様の初めてを貰うんだと決めていたのに!」


 そう言って俯く椿さんだった。肩が震え泣いているように見えた。俺は椿さんの肩を抱いた。


「椿さんごめん。全然記憶がないんだ」

「ごめんなさい、正蔵様。私、取り乱してますね。正蔵様には責任がありません。全部、夏美さんとミサキ様が仕組んだことなのです」

「そうなの」

「はいそうです。正蔵さまの精液を採取するから協力してくれって言われて、OKした私が馬鹿だったんです」


 椿さんはパジャマの袖で涙を拭いている。


「そうだったんだ。覚えてないんだけど」

「そうなんです。精液を採取するって、エッチをするって事だったんです。私はてっきり自慰行為だと思っていました」

「でも、俺の気持ちは変わらない。椿さんが好きなことには変わりない。他の女性の事なんて考えられない」

「ありがとうございます。正蔵さま」

「ごめん」


 俺は謝るしかなかった。

 何故、俺の精液が必要なのか分からないのだけど、俺が関係した事で、椿さんを傷つけてしまったのは確かなようだ。

 椿さんは俺に抱きついて来た。俺を押し倒し、上に乗る。そしてキスしてきた。


「これからは私だけを見つめてください。私を絶対に離さないで」


 またキスされた。今度は舌を絡めたディープキスだった。

 

 俺達はいつの間にか服を脱いでいた。俺は椿さんに抱かれていた。全てを包まれていた。

 

 不安や重圧、心の痛み、そんな負の感情を全て融かしていくかのような安心感と幸福感を味わっていた。

 

 今、魂の奥深くまで癒されている。

 そう実感した。

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