第42話 実体化した絶対防衛兵器

「正蔵か? それはどうした?」

 

 俺の正面、右側に黒猫の顔が浮かぶ。駐屯地でちらりと見た、あの黒豹のような顔だった。


「あー、これは、アルマ・ガルム・クレドなんだそうです。今から軌道上の巡洋艦をやっつけます。地上は黒猫さんに任せてよろしいですか」

「なるほど。上は任せたぜ。これで思いっきりやれる」


 黒豹顔の黒猫がにやりと笑う。そして、瞬間的に数十メートルを移動して、エリダーナに斬りかかっていた。


「私たちも軌道上へ飛びますよ」

「はい」


 クレドの背の四枚の翼が羽ばたき、一気に大気圏外へと上昇していた。瞬間的に2万キロメートルを跳躍したんだと思う。


「信じられない。クレドが実体化したのか?」

「わからん。そもそもクレドのデータなど無い」


 付近にいる数隻の艦艇からの通信らしいのだが、それらが全て聞こえてきた。周囲を見渡すと、大型の戦闘艦がいた。それは、巨大な銀色のエイのような姿だった。全長は概ね300メートル、尻尾を入れると500メートル位ありそうだ。幅も500メートルと言ったところで、平べったい形をしている。


「連合宇宙軍の巡洋艦です。レブール級。砲撃来ます」


 4基12門のビーム砲が一斉に光る。

 クレドの周囲に張り巡らされた防御シールドに着弾するが、そのエネルギーは周囲に四散した。


「効かない。嘘だろ」


 また敵の通信が聞こえる。俺は巨大なエイ、レブール級巡洋艦の上面に取りついた。宇宙空間を自由に移動できる。どんな原理で飛行しているのか想像できないのだが、クレドが翼をはばたかせれば、瞬間的に距離を詰めることができた。これはとても気持ちのいい体験だった。


「敵は甲板に取りついている。支援要請。助けてくれ」

「了解、支援に向かいます」

「艦載機は全て魚雷に換装しろ。換装出来次第発艦、全機発艦だ!」


 そんな通信が聞こえる。


「艦艇と艦載機、接近します」


 周囲に小型の艦艇が接近してきた。黒いサメのようなスタイルをしている。ブーメラン型の戦闘機もゾロゾロと出てきた。


「アークレイズ級駆逐艦が12隻います。他にも艦載機ですね。先ほど地上を攻撃していたもの同型の戦闘機、バートラスが48機。大型の魚雷を抱いています」


「ここはお帰り願おうじゃないか。それが平和的解決だろう」

「撤退勧告ですか」

「そう。ダメかな?」

「私と対峙して生きて返すことなどあり得ないのですが……ここは正蔵様の意向に沿う事とします」

「え? 椿さんはいつも皆殺しなの?」

「そうですよ。ちょっと前に説明したと思いますが、私、女神であると同時に容赦のない制裁を加える鬼神だと。それは、私に敵対する勢力は必ず殲滅するという事です」


 そうだったんだ。アルマ星間連合で恐れられている防御兵器。最初は敵を操って平和的に解決するものだと思っていた。しかし、それだけで紛争が解決するとは思えない。侵略しようとする意志をも砕く容赦ない鉄槌を下すこと。それがクレドなんだ。


「では撤退勧告をします」


『こちらはアルマ・ガルム・クレドです。今すぐここから立ち去りなさい。地球において、今後このような武力行使は認めません。もし、再び武力行使をするならば、次は全力で殲滅します。繰り返します……』


「信じられん。クレドが実体化している」

「どうしますか。勧告に従いますか」

「馬鹿な、逃げると処分される」

「撤退命令が出るまでは戦え」

「バートラス隊、雷撃始め!」


 向こうも相当混乱しているようだ。巡洋艦の上に立っている俺、クレドに向かって戦闘機が大型の魚雷を放ってきた。それではこの巡洋艦にも当たる……味方共々殲滅するのが彼らの戦法のようだ。


「椿さん。魚雷全部撃ち落として」

「レブール級を助けると?」

「こいつらを人質にできないかな?」

「なるほど、分かりました。光学誘導弾を使います」

「撃て!」


 クレドの両肩から無数の光弾が放たれた。

 それらは弧を描き、戦闘機の放った48本の魚雷に次々と命中していった。


「次は戦闘機を狙ってください」


 俺の指示で、再び光弾が放たれた。光弾は逃げ惑う戦闘機を追いかけ命中し破壊する。破片はそのまま地表に向かって落ちていった。

 48機の戦闘機を同時に破壊してしまった。馬鹿みたいに強い。


「あ、破片は落ちてますね。デブリにはならないのかな?」

「ええ、そうですね。現状、高度2万メートルですが、衛星のように軌道を周回しているわけではなく、重力制御で浮いている状態です。コントロールを失うと墜落します」

「なるほど、そういう事か。サメの方を墜とす。飛び移りますか?」

「武装を換装します。主兵装をビームランチャーに換装します」


 クレドはいつの間にか、両手で大型の大砲を抱えていた。途端に周囲にいたサメ、アークレイズ級駆逐艦は魚雷を放ってきた。


「ロックオン完了、射撃どうぞ」


 俺は手元の引き金を引く。抱えていた大砲から強烈なビームが放たれ、アークレイズ級が爆散した。次々にアークレイズ級を破壊し、それが放った魚雷も破壊した。


「椿さん。もう一度降伏勧告。無理なら支配です」

「了解しました。おや? 通信が入ってますね」

「こちらはレーブル級巡洋艦ラーダ。降伏する。捕虜としての待遇を求む。繰り返す。こちらはレーブル級巡洋艦ラーダ。艦長のオダラだ。クレドに降伏する。戦う意思はない」


 やっと矛を収めてくれた。

 ほっとした。


 しかし、俺は何をしたんだろうか。

 異星人とはいえ何人も殺したのか。あの戦闘機にも、サメのような駆逐艦にも人が乗っていたはずだ……。異星人が乗っていたのだ。


 俺が殺した。胸が締め付けられる。恐怖と罪悪感でどうにかなりそうだ。両手足がガタガタと震える。自分の意志ではどうにもならない。


 俺は自分の意思で震えを止めることができなかった。

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