第四章 守るべきは美少女アンドロイド
第28話 最強の護衛
翌日の午後になってから、ようやく俺とララは開放された。ララも俺と一緒に検査されていたのだが、非常に退屈したのであろう。かなり不機嫌だった。「TVも何もない部屋に押し込める……欲求不満が溜まって……」とか何とか、ブツブツ独り言を喋っていた。これは、触らぬ神に祟りなしだな。今日、ララに話しかけるのは止めようと思ったところに、椿さんが迎えに来てくれた。一緒にシェパードのような顔をした軍曹と、赤毛の少年ゼリアも付いて来ていた。
それから、俺たちは椿さんの運転する車で萩から山口へ向かっていた。自動運転にすればよいものを、わざわざ誘導スポットの無い旧道をひた走る。この車はカローラEV。今、最も普及しているセダンになる。車体はトヨタ製だが、綾瀬重工製のパワープラントを搭載している電動車だ。椿さんはと言うと、ジーンズに綾瀬重工警備部から借りてきたという紺のジャンバーを着ている。そして何故か、大昔の飛行帽に英国風の四眼ゴーグルを装着していた。
「椿さん、その帽子とゴーグルは?」
「
ニコニコしながら返事をする椿さんである。特にご機嫌なようだ。
後席に陣取った3人は遠足気分ではしゃいでいる。特に、不機嫌だったララは、軍曹のふさふさした毛並みを撫でまわして至極ご満悦だった。
「姫様、そこはくすぐったい!」
ララが軍曹を撫で、軍曹が嬉しそうに悶える。体をよじらせる軍曹に押されてゼリアが悶えるが、こちらは苦しそうだ。
「レ、レイダー軍曹、い、い、息がぁ、ぁ、ぁ」
「ああ、スマン。大丈夫か?」
ゼリアの方を向いて介抱する軍曹の尻尾をララが掴み頬ずりする。
「ああ、この毛並み、極楽う♡♡♡」
本当に極楽浄土へ行ったかのように幸福感いっぱいの笑顔を見せる。ララはもふもふの毛並みが大好きなのだろうか。
「姫様。尻尾に触るのはご遠慮ください。ち、力がぁ」
「ふふふ。もっと悶えよ。至福じゃの」
再び軍曹が倒れそうになり、ゼリアが押し潰されて苦悶の声が聞こえたその時だった。
キキキー!! と激しいタイヤのスキール音が響いた。椿さんが急ブレーキをかけ車は急停車したのだ。
後ろを向いていた俺はシートベルトが脇腹に食い込み、ララは前席シートの背もたれで背中を打ち付ける。軍曹は前席シート下に頭が挟まり、ゼリアは軍曹から解放されていた。
「痛てててて。どうしたの」
椿さんが前方を指さしている。前を見ると工事現場でもないのに工事用ロボットが道を塞いでいた。後方では道路わきからブルドーザーが出てきて道を塞ぐ。いきなり包囲されているじゃないか。
「ほほー。これはこれは。軍曹、出番だ。皆は車から出るな」
背中をさすりながらララが車から降りる。ララはジーンズに着替えていた。今は髪を下ろし紺色のキャップをかぶっている。キャップとおそろいの紺のジャケットには何故かNinjaのロゴが入っているのがご愛敬だ。
「姫様、武器はありませんが素手でやるのですか」
「当然だ。私に任せよ。貴様は車の防御だ」
「了解しました」
ずいっと前に出て仁王立ちになるララであるが、身長が140センチメートル弱なので、全く様になっていない。
「私の邪魔はするな。言うことを聞かん奴はブッ飛ばす」
ララは工事用ロボットに向かって人差し指を突き付ける。
「さあ道を開けろ。今すぐだ」
道路脇を指さし怒鳴りたてるのだが、ロボットは動かない。
「お前ら覚悟しとけ。本気でやる」
ララが拳を握り締め一歩前に出たところで一体のロボットが前に出てくる。
「皇女殿下、落ち着いてください。交渉いたしましょう」
低い男の声だ。どこかからの通信を、ロボットがそのまま中継し発声しているようだ。
「ふむ、言ってみよ」
「そこにいるクレドを引き渡しなさい」
「渡すわけがなかろう。諦めろ」
「相変わらず強情ですね。お渡しいただけないならよくない事が起こりますよ」
「良くない事とは何だ。はっきりと言え」
「まあ、そうですね。この国のどこかに核兵器が落ちてくるとか、ですかね」
「核だと? 笑わせるな。星間連合域外での使用など不可能だ」
「地球にも沢山あるじゃないですか。この星に住む人々を全て焼き尽くしても、尚余るほど大量に」
「地球の核を使うだと?」
「ええ、セキュリティは甘いですからね。何時でもコントロールを奪えます」
「核兵器でクレド様を破壊するつもりか?」
「そのような野暮なことは致しません。核とは脅迫の道具なのですよ。まあ、私たちが欲しいのはアルマ・ガルム・クレドです。地球の事など興味はありません」
「ぬけぬけと嘘をつくもんだな。家畜一万匹と美女千人は要求する気だろうに」
「それはご想像にお任せします。今引き渡していただけないのなら、この国の政府がクレドを差し出すよう工作するだけです。そこの青年が迫害されなければ良いですがね」
「どんな方法を使うのか? さっさと白状しろ」
「そんな事をお話しする訳がないでしょう。お馬鹿さんですね」
「それなら、貴様の心臓を握りつぶしてやる」
「ご冗談を。不可能ですよ。あはははは」
高笑いする工事用ロボット。
ララはその胸に手のひらを当てて、はあーっと息を吐く。ロボットの全身が淡く光り、その光がララの手のひらに集まってくる。ララは開いた手を握りながら呟く。
「馬鹿はお前だ」
「おぐぐぐ、うううわがが……」
工事用ロボットが、今にも心臓を握りつぶされているようなうめき声をあげた。この工事用ロボットを操作している何者かの心臓に、ララが攻撃していると直感した。
「こ、殺せ、皇女を……」
四方から赤いビームが放たれた。ララが話していた工事用ロボットに射線は集中し、穴だらけになったそれは動かなくなる。ララは瞬間的に数メートル移動して回避していた。彼女の動きは全く見えなかった。
周りに潜んでいたらしい兵士が次々と姿を現す。そいつらは、黒いヘルメットに黒い鎧のような戦闘用のスーツを装備していた。両手で構えているのはビームライフルだ。そして正面には大型の、いや超大型のロボットが姿を現した。こないだ見た戦闘用自動人形と似たようなデザインだったのだが、大きさは4倍位か。12メートルくらいはありそうだ。赤い三つ目を備えた頭部は丸く、脚が短く重心が低い。そして太くて長い腕が力強さを感じさせる。黒色の光沢のある金属製の装甲を備え、剣と盾を装備していた。
「あれは宇宙軍の新型戦闘人形エリダーナです……恰好悪いでしょ……」
自慢したくても自慢できない、儚い感情を噛み殺すゼリアである。確かに、マジンガーZファンの少年から見れば、あれは真っ黒なボスボロットだ。
「椿さんどうしますか? 助太刀に行きますか?」
「うーん。ララ様がやる気になってるのでお任せしましょう。雑魚は軍曹が片づけてくれます。私たちは車にこもっていた方が、彼らも安心して戦えます。今、車はシールドを張って防御していますから」
なるほど。前回もそうだったのだが俺の出番ってほとんど無い。
「何をした。本当に心臓を潰されるかと思ったぞ。この化け物が」
エリダーナと呼ばれる戦闘人形は、胸部の機関砲を撃ちながらララに向かって剣を振り下ろす。ララはひらりと回避し、石を拾って投げる。剛速球が胸部に命中した。石は砕けたが胸部の装甲が大きく凹んでいた。
「馬鹿な。装甲が凹んだじゃないか。この悪魔め。殺してやる!」
戦闘人形は再び胸部の機関砲を射撃するのだが、ララは大きくジャンプし人形の頭部へと着地した。15メートル以上の大ジャンプをケロリとこなすなんて人間離れしていた。
戦闘人形はララを見失ったのか、三つ目を別々に動かして首も左右に振っていた。軍曹はというと、黒い兵士を既に数名倒していた。また一人足技で倒してヘルメットを踏み潰した。血と脳しょうが四散する。軍曹はそいつから光剣を奪い残りもあっさりと倒してしまった。
「まさか、重装兵8人を1分で倒したのか。信じられん」
「お前。マジで馬鹿だな。海兵隊の狂犬を知らんのか。素行が悪いので宇宙軍に引き取られ、今回も借金取りから逃げるために技術部にくっついて地球に来ている阿呆だ。わりと有名なはずだが?」
「そんな事など知るか! 技術部にこんな化け物兵士がいるとかあり得んわ!」
ここで初めて、ララが自分の頭の上にいることに気づく戦闘人形の操縦士だった。
「ぐぬぬ。いつの間にそんな所にいる」
「もう少し相手の力量を客観的に判断しろ。この馬鹿者」
「ぐぅ。馬鹿馬鹿と侮辱するな」
「怒るな。最初に言ったのはお前の方だ。皇族の私に対してな。この愚か者」
ララは両手の平を頭部に当てる。
「はあ!!」
ララの気合と共に両手が輝き人形の頭部も光に包まれる。そして戦闘人形の目は光を失い、ゆっくりと後ろへ倒れていった。今の技で人形の内部を破壊したようだ。ララは人形から飛び降りた。その人形はちょうど、道路わきの法面に背中を預ける形で擱座した。同時に操縦席前の装甲が自動で開き操縦士が露になる。
ララはまたジャンプしてその操縦士の前に立つ。軍曹も素早く人形をよじ登ってララの脇に控えた。
「馬鹿め」
操縦士は拳銃を抜いてララを撃とうとするのだが、軍曹がその腕を光剣で切り落とした。
「ぎゃああああ、腕があああ」
光剣で切られても痛いのだろう。切られた右腕を左手で押さえ叫んでいる。
「軍曹。余計なことはせんでいい。尋問できなくなったではないか」
「申し訳ありません。銃を抜いたので咄嗟にやりました」
「へへへ、道連れだ」
操縦士は左手で手榴弾を出し口でピンを抜く。それを見たララと軍曹はそこから飛び降りた。直後に、バン!という破裂音がし、操縦席が赤く染まった。
ちょうどその時、俺が持たされていた携帯が鳴った。自分の携帯は黒川の新居に置きっぱなしだったので、会社のものを持たされていたのだ。
「正蔵君。其処はそのままにして直ぐに萩に戻って。海自の護衛艦がレールガンの射撃で沈没したの。色々混乱すると思うから急いで」
電話をかけてきたのは紀子叔母さんだった。
俺たちは顔を見合わせた。何が起こっているんだろうか。不安と焦燥感がこみあげてくる。俺たちは山口には行かず、そのまま萩へと戻った。
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