転生したら帝国軍人になっちゃった!? 若き絶対君主にやたらと重用されて困ってますwww
藤野 里人
第1話 転生、居候。
由利幸之助は諦めのよいことで有名だった。だから、自分が異世界転生などという馬鹿げた現象にまきこまれたのだと察したときも、理由を考えても無駄なことと、さっさと諦めてしまったのである。
「ユリ・コウノスケというそうだな。話を聞かせてもらおうか」
憲兵団第2部隊隊長のバルバール・オスロー少将は、27歳の若さで将官へと上り詰めた才子であり、堅実な仕事ぶりと公明正大な人柄から更なる栄達を確実視されている人物である。
「年齢を教えてもらおうか。それと出身も」
「23歳です。出身は別の世界の都市ですので、お話ししてもおわかりにならないことと思います」
「……別の世界?どういうことかね」
このとき幸之助は、「東京都」と答えて隊長を困惑させることもできた。そうしなかったのは、それとわかっていて敢えてそうするような意地の悪さを認めたくなかったからというのが一つ、もう一つは、見たこともない兵器、軍服、であるのに日本語が通じているという不気味な違和感から、異世界であるとこの時点で断定してしまっていたからである。
無論、夢であったかも知れなかった。しかしだとするなら、目の前にいるこの男の存在感や、無機質な部屋の冷たい空気、無骨な作りの木のテーブルのはっきりとした手触りは何だと言うのか。幸之助が身を置いていたのは紛れもなく、実在する世界であった。
「当分、マッケル大佐の家で面倒を見てもらえ。あそこの主人は人の良いことで有名だから、何かと世話をしてくれるだろう」
取り調べの末にどうにか狂人の称号を得ることから逃れた幸之助は、オスロー少将の部下の家に身を置かせてもらう約束を取り付けたのだった。
バルトロメオ歴260年。
30歳のドルフ・マッケル大佐は、130年のバッフォー・リングイネの反乱の鎮圧で勲功を立てて以来、帝国貴族議会保守派を束ね権勢を誇ってきたマッケル公爵家の5代目当主である。
父である元4代目ランド・マッケルは、マッケル領の領民をして「貴族議会良識派」「貴族の突然変異」と言わしめる程、その権力の強大さに似合わぬ柔和さと愛想のよさを慕われていた。
「如何な田舎から来たといっても、居候の対価を払おうとするだけの自尊心は持っているだろう」
マッケル大佐はそう笑ったが、彼が父親の性質を受け継いでいたことは、幸之助に当分の衣食住を保証することの対価として要求したのが「家事手伝い」及び「帝国軍入隊に必要な基礎教養の学習」のみであったことからも窺い知ることができよう。
「……全ての帝国国民は、帝国憲章と帝国憲章に基づいて制定される各法に……」
幸之助は、皿洗いをしながら条文の暗唱に精を出した。
唯一皇帝のみは、憲章に責任を負わなかった。
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