17を見るたび思い出す。

(1話完結)

17を見るたび思い出す。


私はかつて出席番号が17番であったこと。


毎月17日に授業で当てられていたこと。

そして国語の授業では得意げに、数学の授業では緊張しながら答えていたこと。


下駄箱の中に入れられていた手紙の事。


等間隔に数字の書かれた列の、17の下にある立方体の空間の中には、

靴と、少し汚れた白い手紙が入っていた。


思わず振り返って周囲に誰もいないことを確かめる。


素早く手紙を制服の内側のポケットに入れ、靴を履き、走る。


校舎内を走り、校門を出ても走り、近くの公園も走り過ぎ、私は図書館に到着する。


図書館の中には入らず、入り口の周りに点在している上品なベンチに腰掛ける。

ベンチの裏の百日紅の木が風に揺れている。

少し強めに吹く風が、額の汗を優しく撫でる。


上がった息を整えて、通学鞄から手紙を取り出す。

教室で整頓したはずの鞄の中身はもうぐちゃぐちゃになっている。

手紙を目の前に掲げ、裏面と表面をじっくりと眺める。

名前がわからない植物のシールで封がされている。

手汗を制服の袖で慌てて拭い、シールをそっとはがす。

ゆっくり封の部分をあける。


便箋が一枚入っていた。


この世の秘密を暴いてしまったような感覚に陥る。

封を開けるときよりも、ゆっくり、丁寧に、丁寧に、便箋を取り出す。

万年筆で書かれたであろうその文章を、単語のひとつひとつを味わうように読む。

文字のひとつひとつが熱を帯びているような気がして、その熱量にくらくらする。

思いの丈が綴られている。


胸がいっぱいになる。

そして、温かな氷がじんわりと少しずつ溶けていくように全身がぽかぽかする。

次は私の番だ。

この手紙に負けないくらいの温かさで、言葉を紡ごうと思う。



17を見るたび思い出す。

それは、17でなくてはいけないのだ。

16でも18でもダメなのだ。


あの子供のときの美しい思い出は、輝きごと心の額縁に収めてしまった。

思い出は、戻らないことをを自覚した途端輝きを増していく。

私はこれから17を見るたび、それを毎回思い出してしまうのだ。


まるでガラスの靴を履いたままカボチャの馬車に乗ってしまった

シンデレラのように。

あの時の思い出が私の全てだったと信じて疑わないように。

あれ以上に美しいものを、私は知らない。


その数字は呪いのようで、でも確かに美しい。





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17を見るたび思い出す。 @kobunasui

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