短編集 手慰み

紫陽花

たばこと、珈琲、共通点

泥のようなコーヒーをすする。


あなたは「よく飲めるね」という。


そんなあなたは、ふかりとけむりをくゆらせる。


わたしは「すきだから」と答える。


けむりの、ちょっと甘い香りが、コーヒーにあってると、思う。


微笑みもないまま、無言であなたは頁をめくる。


いじわるだ


でも、そんないじわるな時間が、むずがゆいような、ちょっとだけの非日常感に、落ち着かない。




泥のようなコーヒーをすする。


あなたの声は、もう聞こえない。


残り香のような、かすかな甘さが、コーヒーの香りにのまれていく。


わたしは「すきだった」と、口の中で言葉を転がす。


すするコーヒーが、苦くて、顔を顰めて、思う。


口の端がゆがむのを自覚して、コーヒーをすする。


ほんとうに、いじわるだ


今日も日常が、流れていく。にがい、にがい、でもあまい、たばこみたいな、毎日。






煙草を燻らせる。


君は珈琲をちびりとやる。


無自覚に、よく飲めるね?と口をつく。


甘党な自分は、珈琲は苦手だ。


答えを求めてない問に、君はしっかりと応えてくれる。


意地悪、とでも思ってるんだろう、ちょっとだけ目をすがめてこちらを見る目から、顔を背けてしまうのは、ちょっとだけ、後ろめたさを感じてるのだろう。


ごめんの一言も、言えない意気地のない自分に嫌気がさす。


あぁ


無性に、珈琲が、飲んでみたい。

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