第8話 2021年5月16日(日) 風化するもの

思い出は、他の人と共有していなければ風化して、やがて消えてしまう。


私にとっては、とても大切な人だと考えていた祖母のことでさえその例外ではなかった。亡くなってから10年経ってしまうと、当時の思い出を共有している母と話さなければ思い出せないことが数多くあった。


これは自分にとってかなりの衝撃だった。


生きている人同士が共有している思い出は、自分が忘れてしまったとしても、相手がが覚えていれば、話をすれば思い出せるかもしれない。もしくは思い出すきっかけを画像や動画などで記録しているかもしれない。


しかし、思い出を共有している相手がいなくなってしまうとそうはいかない。

自分が忘れてしまうことは、もう永遠に思い出されることはなく、思い出は消えてしまうことと同じ意味になる。


私が地元に戻ってきてからの一年でさえ、祖母と過ごすことのできた最後の1年でさえ、今はもうなんとなくでしか思い出せない場面が多いことにも気が付いてしまった。


これも自分にとって重たい事実だった。


母親の病気のことを考えると、何か手を打たなければならない。


この考えに一度至ったくせに、何もしないまま、もしものことがあった時に思い出が風化してしまうような事態になることは許されない。


分かっているのに何もしなかったら、それは本当にどうしようもない愚か者だ。


何も起こらなったら、母親や周囲からは心配し過ぎだと笑われるだろう。

しかし、思い出が消えてしまったり後から後悔することに比べたら、そんなことは気にする必要もないくらい些末な問題だ。


だから、これからは母との出来事をできるだけ他者と共有し、また、記録に残しておこうと決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る