今日から本屋を始めます。

いちや

第零話 : 拝啓

 みなさん、いかがお過ごしでしょうか。今日は少しだけ肌寒いですね。

 狩りに出ていた方々は雨に打たれてしまったようですが、お加減いかがですか。

 あぁ、大丈夫ですか。安心しました。ご自愛くださいね。


 さて、本題に入りましょう。

 半世紀前の人々の暮らしを、僕はあまり知りません。

 ある日突然この世界から文字が消え去り、今こうしているように僕たちは口伝と身につけた技術だけで生活を繋いで来ました。

 ご高齢の方々が嘆かれる様子を見るに、随分と生きるのが難しくなってしまったのかもしれません。

 僕が知らない世界を知っている方のお話を伺っている時は、とても不思議な気分になります。


 みなさんご存知のように、僕は物書きです。

 書くという形容が相応しいのかは今も疑問ですが、伝えたい想いが本となって空中から現れるのは多くの方にとって書いているも同然なのでしょう。

 旧世界になぞらえた言い回しは洒落ていますね。

 知る限りでは、僕が十八人目の物書きです。十七名の方々が築き上げたこの名に恥じぬよう努めて参りますので、若干二十五歳の若輩者ですが改めてよろしくお願い致します。


 この世界でたった一冊だけの、たった一人にしか内容を解することができない本を届けるために。

 今日から本屋を始めます。

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