37.5
春耳蜜
第1話
ヒトの平熱は36度前後と言われている。
それにしてもまぁ、隣の部屋にいる37.5度の熱を持て余したヒト科(♂)はいつもと違う相貌で床に伏せっている。
「具合どう?まだ熱い?」
「……まだ熱くてだるくて無理。俺死ぬのかな」
その言葉に思わず吹き出す。
いやいや、待って。
風邪でしょ?
笑いながら洗い物を片付けていく。
私たち女は日々の体調の波や痛み、ましてや出血にも慣れているけれど、男性は痛みや血や熱にめっぽう弱い。
「だってこんな熱いんだよ?だるいし、喉痛い。
だから寝るまでそばにいてよ。」
……弱るとこの人はめっぽう子供になる。
「分かった、いいよ。」
そばに行くと、病人特有の不健康なにおいが空気に混じる。
いつもと違う、粘度を増した汗が滲む。
携帯と飲み物を持って隣でしばらく静かに過ごしていると、そのうち小さな寝息が聞こえてきた。
この人も昔は子供の頃があって、こうやって看病されてきたのか。
母親に心配なような面倒なようなむず痒い心持ちでお世話されたのだろうか。
なんとはなしに額に手を当てると、まだやはり熱い。
汗で額に張り付く髪。
普段熱が出ないから、なおさら辛いのだろうか。
洗面所に行ってタオルを濡らす。
あまり冷たく無い程度に。
温度を確認した程よい濡れタオルで、そっと額や首筋を冷やす。
熱、早く下がるといいな。
パジャマと下着も、頃合いをみながら替えよう。
ずっと母親ではいられないけれど、大事な時に母親の様に愛するのは嫌ではないし、むしろそれも生き甲斐だ。
無防備な額に口付けて、唇にもそっとキスした。
早く治りますように。
無精髭の生えた、私の可愛い息子。
37.5 春耳蜜 @harumimimitsu
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