婚約者の王子殿下はロリコンですが、否定されておられます。

尾張のらねこ

婚約者の王子殿下はロリコンですが、否定されておられます。



「いや、お前のことが好きなだけなんだが」

「ロリコンではないですか」



私の婚約者の第三王子殿下は、大変優秀で、すこし腹黒で、そしてロリコンでございます。


元々は生母である王妃様の乳の出が悪いことから乳母についた伯爵夫人が、大変に小さ……幼い……可愛らしい容姿だったことに端を発するようなのです。


伯爵夫人は王族の係累でもあったことから、お忙しい方ではございましたが乳離れしたあとも年に一ヶ月ほどはまとまって殿下と親密にすごされていたようです。

物心ついたときから、たいそう懐いていたとか。


殿下の初恋です。


そして数年後。

すこし歳上のお姉さんだと思っていた初恋相手が人妻で、しかも赤ん坊のときに自分がそのおっぱいに吸い付いていたのだと知ったとき、殿下は文字通り崩れ落ちました。


殿下の失恋です。


私はその瞬間を幼いながらも横で見ておりました。

ああ、意思が砕けると人とは膝から力が抜けるものなのだな、などと思ったのを覚えております。


いえ、乳母ですので……。


覚えておられないとはいえ、彼女の母乳を殿下が召し上がっていたということは、同い年の子供がいるということですのに。

いくら覚えていないとはいえ、すこし頭を使って考えればわかりそうなことでございます。

王家の方針に異をはさむつもりはございませんが、性的な教育は大丈夫なのでしょうか?


「手ほどきを未亡人に受けろと言われたが拒否した。お前がいい」

「歳上に欲情できないのもどうかと思いますよ殿下」



あくまで第三王子ですので直接の影響はございませんが、血統予備としての役割は果たさねばなりません。跡継ぎが産まれないようでは困ってしまいます。

すなわち、初潮も来ていないような幼い娘にのみ欲情するなどということはあってはならないのです。

ロリコンは貴族が患ってはならない不治の病です。


「幼い頃の憧れのお姉さんが16歳も歳上だなんて普通思わないだろ」

「貴族のオジサマがたからは永遠の12歳との異名をいただいているようですよ」



その後殿下の婚約者はなかなか決まらず、伯爵夫人の姪である私が12歳になったときに、私は正式に殿下の婚約者に選ばれました。

主に殿下のわがままで、裏で派閥間の駆け引きなどが色々とあったと聞いております。


この国、大丈夫でございましょうか?


私はおばさまに容姿や背格好が特によく似ているとまわりから可愛がられるのです。つまりそういうことです。

殿下はまごうことなきロリコンです。


「お前がいい。お前でなくてはダメなんだ」

「わかりました。努力いたします」



殿下がそこまでロリコンを深刻に患っているとは思いませんでした。私のような見た目幼い身体でないと欲情しないなどと直接言われてしまっては、是非もありません。


叔母のかわりとして求められたことには、特に不満はございませんでした。


なんだかんだと申しましても、殿下とは幼い頃より多くの時間を一緒にすごしてまいりました。もう家族のようなものです。弟のようなものでしょうか。

いずれは誰かに嫁がねばならないのですから、おかしな相手に縁付かされるよりはかなりましといえましょう。

たとえ殿下がロリコンでも。


「お前は身体つきまで乳母にそっくりだ。つまりお前の乳を吸ったも同然なのに覚えていない、悔しい」

「死んでください」



おばさまと私は、雰囲気も容姿もかなり似ていると言われます。


ですが、殿下の乳母をした次の子からは王都からは離れた領地で産み、その後は出産後にすぐ次の子を宿すため、ほとんど社交界に出てこなくなってしまったのです。というか、それ以来ずっと妊娠出産のコンボで領地にいらっしゃるのです。


私は祖父母の墓参りの折に年に一度は会っておりますが、季節的に臨月近くの姿しかお見かけしてはおりません。毎年です。

背は低くとも、お腹を大きくしてにこにこと笑って母性たっぷりになったおばさまを見て、自分に似ていると思ったことはあまりございませんでした。


殿下は逆に、出産後おちついてまだ次の子のお腹が目立たない頃に避暑に訪れ、毎年一ヶ月ほどおばとすごしていたようです。

無邪気さを失わないおばさまに癒やされていたとか。

いくらなんでも気付かないわけがないと思うのですが。


「あこがれのお姉さんが毎年妊娠出産してたとあとで知って大人になった」

「色々と歪みそうですね(性癖が)」



それにしても、12歳のうら若き少女である私に似ていると言われるおばを、ずっと孕ませ続けるなどと。

義理の叔父である伯爵もまごうことなきロリコンだと思います。


この国、大丈夫でございましょうか?





その後、特に波乱もなく成人を迎えたのち、私は殿下に嫁ぎました。


結婚式では親族席にいたお腹の目立たないおばに、隣国のまだ幼さの残る皇子が一目惚れしましたが次の瞬間には失恋しておりました。いずれおばにそっくりな娘が嫁ぐことになりそうです。


子だくさんであるおばは、我が国の婚姻外交のかなめなのです。



「やっぱり娘がいいな。娘のほうがかわいいと思わないか?」

「ロリコンを通りこしてペドですか、殿下」


大きくなったお腹に手を当てると、なかから足で蹴られたのがわかりました。

殿下の性癖がすこし……いやだいぶ特殊なおかげで、私は幸せになることができました。感謝しております。


「俺はロリコンではない」

「ロリコンはみなそう言うのです」



旦那さまである殿下は、どうやら私のことを愛しておられるようです。

私も、いつのまにか旦那さまのことを愛してしまっておりました。


旦那さまがロリコンであるかどうかは、私にとってはどうでもいいことなのです。





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「でもやっぱり娘だろ。お前に似て可愛いと思うぞ」

「普通は世継ぎを願うものですよ、旦那さま」

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婚約者の王子殿下はロリコンですが、否定されておられます。 尾張のらねこ @owarinoraneko

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