第12話 生活向上と探索進行

 豆電球に照らされたマイルーム。

 その中央にあるコアパソコンを前に私はニヤケ面がやめられなかった。

 なんたって自撮り写真が高値で売れていくのだ。


 この瞬間も安価で撮った5枚の自撮り写真の内、最後の1枚である際どい水着姿の堕犬娘の自撮り写真がオークションで最高価格で売れた。


「くっひひ。真面目に探索するのが馬鹿みたいに思えてくるな」


 変な笑い声が口から漏れる。

 ここにくる前の私はこんな笑い方をした事がなかったというのに。


 だがそれも仕方ないだろう。

 服代と念写する紙代は自腹だったが、それが惜しくないだけの儲けが出たのだ。


「合計でDP3万6000ポイントの利益ですか。自分はもっと売れると思ってたのですがね」


「私にとっては予想以上の結果だよ。イヌがオークションで私の自撮り写真を売ろうと提案した時は、このインテリジェンスアーマーは馬鹿なのかと思ってたからね」


「馬鹿と天才は紙一重。自分は常識に囚われない知性がありますので」


「それだと馬鹿なのも認めちゃうんだけど……まあ、確かに私では思いつかなかったアイデアだったな」


 自撮り写真をただオークションに出品するのではなく、掲示板を活用して宣伝しようと言ったのもイヌだった。

 あれから掲示板の方はお祭り状態になり、24時間に設定した競売期間が終了に近づくにつれてオークションの事を知る者が増えていった。


 ちなみに安価で下着姿が当たったが、その写真は出品を拒否されたので撮り損だった。

 水着はオーケーだったりするから管理者の判断基準はよく分からない。 


「そういえばマスター。もう日を跨いだことですし、カードを引かなくていいのですか?」


 コアパソコンの時計を見るとスレ立てしてから4時間が経過していた。


「本当だ。もう次の日付けになってる」


 サモンマルチバースカードのルールで、デッキからドローできるのは1日1枚と決まっている。

 1日の内、朝昼晩関係なくドローしたい時にカードを引けれるのだ。

 これ以上の枚数をドローしたかったら、ドロー枚数を増やすスキル効果を持つカードに頼るしかないだろう。


 椅子に深く座り直してウインドウを出現させる。

 そして宙に浮かぶ近未来的な透明な板を操作してデッキ構築ページに手を添える。

 この時にドローと念じながら触れるとデッキの一番上のカードが引けれる。


 さて今回のカードは何が出たのかな。


「おっ、猿山脈の大将か」


 2度目のドローでいきなり当たりを引けた。

 猿山脈の大将は配下召喚スキルを持つユニットカードだ。

 人海戦術ならぬ猿海戦術で1階層の探索に役立つと思ってデッキに入れていた。


 ただ残念ながら私の手札には、猿山脈の大将を除いて黒マナカード3枚しか無い。

 これではマナコスト黒×4もする猿山脈の大将は召喚できない。


「これならまだ無地のおっぱいマウスパッドが出た方が良かったですね。オークションの熱が冷めない内に、マスターの堕犬娘姿を念写したおっぱいマウスパッドを売りたかったです」


 イヌが残念そうに言ってくる。


「どのカードがいつ引けるかは運次第だ。捕らぬ狸の皮算用をしても意味がないだろう」


「それもそうですね」


「それよりDP3万7000ポイントの使い道だ。全部使い切るのは後が怖いから、ある程度だけ残しといて身の回りの環境を向上させようと思う。イヌはどう思う?」


「自分も悪くない考えだと思いますよ。マスターの生活や探索に必要な物を買ういい機会です。それに召喚されたユニットの生活する場所や環境も整えないといけませんしね」


 これまでの雑談の中でイヌと話し合ったことだが、再度意思確認してDPの使い道を決めた。


 話し合った結果、サモンマルチバースカードのパックを買うのは後回しになった。

 デッキ構築ページのカードを引き切らないと、新しいデッキは構築できないから今すぐカードが必要になることはないのだ。


 こうしてイヌと相談しながら私はショップで買い物をしていった。


 しばらくすると私のマイルームは様変わりした。


 チュートリアルダンジョンに続く金属扉がある石造りの6畳の小部屋をそのままにして、右の壁に通路を創って石造りの12畳の中部屋1部屋と、続いて6畳の小部屋1部屋を追加したのだ。


 中部屋はリビングルームとして使い、新しくできた小部屋は私の個室になる。


 部屋を区切る扉はDPの節約で今回は省いた。

 同じ理由で石造りの部屋なのも一番格安だった。

 本当はトイレ用の部屋も欲しかったが、チュートリアルダンジョンで済ますことにした。


 部屋の追加を決めてショップの購入ボタンを押すとどこに創り出すか質問され、私のマイルームの間取りが画面に表示された。

 レイアウトして決定ボタンを押すと一瞬で部屋と通路が追加された事に久しぶりに呆けてしまった。


 マイルームの私の個室には私物が置かれている。

 革の防具や探索に使えそうな物やスキル。そして生活雑貨を幾つか購入した。

 他にも初期配置されていたパンなどを創り出すアイテムの様に、自動で食料や水を創り出すアイテムも買った。

 そして長らく使ってきた藁のベッドからフロアベッドに買い替えて、布団と毛布も購入した。


 買い物が終わった時には、所持DPが3200ポイントになっていた。

 高い買い物だったが、自分の個室を見渡して人としての生活を取り戻したと実感する。


「ここがマスターと自分の愛の巣ですか」


「愛があるか分からないが一緒に住む部屋ではあるな」


 私の個室に繋がる中部屋にはパソコンと机と椅子をセットで移動した。また、この部屋には大きめの水瓶と食券販売機が置かれている。


 今ある水瓶は初期配置してあった物とほぼ同じ性能で、水を10リットル自動生成するようになっている。


 食券販売機の方はそこらの食堂にありそうな四角い機械で、Aランチやラーメンといったボタンが側面に幾つもある。そこから食券を買うのだが、どうやらコアパソコンと繋がっているようでDPを自動引き落としして食券を買う仕様になっている。


 試しに焼きおにぎりを買ってみる。

 焼きおにぎりのボタンを押すと下の取り出し口から食券が出てきた。

 お値段は10DPだった。

 この食券を手で千切ると、どういう原理か光の粒子に変わって竹の葉に包まれた焼きおにぎりに変化する。


 サモンマルチバースカードの召喚みたいな現象だった。

 正直、目の前の光景を見た後でこれが食べ物なのか疑問だったが、食べてみると普通に出来立てご飯で醬油味が効いて美味しかった。


「熱っ。ふーふー。むぐむぐ」


「マスターは死ねば空腹にならないと言ってたのに、美味しそうな顔して食べるんですね」


「そりゃDPが無かった時の話だろ。私だって出来るなら食事をしたかったよ」


 なんだかんだ言ってやせ我慢してただけだからね。

 精神耐性スキルのおかげで気にしない様にしてたけど本音はこんなものだ。


 うん。味は問題ないし、これなら食券状態でチュートリアルダンジョンに持ち運びできる。

 DP7000ポイントもした甲斐があったというものだ。

 隣の水瓶から水をすくって飲み、再度食券を何枚か買うと個室に戻った。


 こうして生活環境を整えた私はチュートリアルダンジョンの探索に集中していくのだった。


 同時に、死に戻りして体調を元通りして探索をする方針も変更した。

 死ぬ度にマイルームに戻っては1階層のボス部屋までたどり着けないからだ。

 ただし食券や物資が尽きるか、奥まで進んで戻るのに時間が掛かりそうなら死に戻りするつもりだ。


 チュートリアルダンジョンの探索に出かけてモンスターを何体も倒していく。

 大ダンゴムシもスライムも堕犬娘の体となった私の敵ではない。

 唯一、リザードマンが相手の時だけ気が抜けない。それでも油断も躊躇もせず戦い勝ち続けて探索は進んでいった。


 たまにある吹き矢や落とし穴といったテンプレな罠には手こずらされた。

 大抵、堕犬娘の五感で通路や小部屋の違和感には気づける。だが詳しい位置が分からない罠もあるので、その時は慎重に足を進めなければならなかった。


 チュートリアルダンジョンのマッピングは購入したばかりのマップスキルで対応した。

 マップスキルはこれまで通った経路を脳内地図で描き、自分の位置を常に把握できるので道に迷う心配はなかった。


 装備も準備も前以上に向上したおかげで、探索時間は同じでも進行具合が段違いだった。


 チュートリアルダンジョンで3日を過ぎると、1階層も中盤といった所まで来た。

 初めての長期間探索は体に負担があり疲れが溜まっていく。

 そういった時は睡眠時に、イヌに心身置換してもらい再生スキルを掛けて疲れを取った。


 サモンマルチバースカードの方は、1日目のドローで赤マナカードが出て、2日目にヒールのスペルカードが出た。

 そして3日目についに黒マナカードを引いたのだった。


「ユニットカードの召喚か。少し緊張するな」


 催眠おじさんの体に置換して早速、猿山脈の大将を召喚することにした。

 とはいえ物でしかない念動カメラの召喚と違い、初めて意思ある存在を呼び出すのだ。

 カードの絵や情報があっても、実際のところどんな奴が出てくるかは召喚しないと分からない。


「安心してください。マスターにはこのイヌが付いてます。気楽にいきましょう」


「ああ、そうだな」


 右手に4枚の黒マナカードと猿山脈の大将のユニットカードを重ねて持つ。

 猿山脈の大将の召喚を念じる。

 前回の念動カメラ以上の光の粒子が噴出して形創られていくと、猿山脈の大将がその姿を見せた。



 レアリティ:SR

 カード名:猿山脈の大将 

 マナコスト:黒×4

 カード種類:ユニットカード

 戦闘力:攻撃力5/生命力4/素早さ4

 スキル

 ・大将の器(配下召喚したユニットの兵種が増えるほど、自身と配下の戦闘力が1アップする)

 ・配下召喚(1日1体のみ配下を召喚できる。この時、手札から支払うカードの枚数によって召喚できる配下が変化する。0枚:猿山脈の歩兵。1枚:猿山脈の弓兵。2枚:猿山脈の槍兵。3枚:猿山脈の騎兵。4枚:猿山脈の魔法兵。5枚:猿山脈の重装甲兵)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る