第20話 爪切り
「あれ?爪切りどこにやったっけ?」
登は、自分の部屋にある道具入れを漁っていた。最近、自分の足の爪が長くなってきたので、切ろうと思ったのだ。
そのうえ、両足の親指に当たる爪と皮膚の間がどうにも痒い。日中、学校で過ごしていた時は、我慢するのがやっとだった。
爪を切って通気性を良くして、痒みを和らげたいという衝動に駆られていたため、数分前から爪切りを探しているのだが、どうも見当たらない。
(普通に掻けば気持ちいんだけど、飛び火したりするのも嫌だしなぁ……。)
塗り薬でも塗るべきかと感じたが、登は市販薬を常備していなかった。ティッシュで指をくるんで掻いてみようともしたが、ティッシュの繊維と皮膚がこすれることによって余計に痒くなった。ならば、風呂場に行って熱湯シャワーで洗うのはどうかとも考えたが、三日前に風呂場が火事になって大爆発を起こしたので、今のところ使用禁止になっている。
というか、三日間風呂に入っていないのが痒い原因なのではとも考えられる。
(一旦、落ち着こう。)
登は、探すのを止めて椅子に腰かけて落ち着くことにした。
(どこにあるんだ?ああ、また痒くなってきた……。)
その時、『パチン』と言う音が自分の勉強机から聞こえた。音の源に目をやると、蛍光灯の光に照らされ銀色に輝く爪切りが置かれていた。
「あらん?机に置いてたっけ?」
登が、しばらく爪切りを凝視していると、また『パチン』音を鳴らした。音は、爪切りのテコが自分で動いて、上刃と下刃を激しくぶつかり合わせていることにより生じているものだと容易に分かった。
登は、その音を聞いて「そうか、この音を聞いて精神を落ち着ければ、痒みも浄化するかもしれない」と考えた。
登は、目を瞑り一定の間隔で鳴り響く音に全神経を集中させることにした。
(こ、これは我慢比べだ……!)
五時間ぐらい経過した時だった。
足の痒みは治まらなかった。
痒くて足の指がマヒしてぴくぴく動くだけではなく、足が熱を帯びて腫れているような感覚があった。
登は、自分の足を切断して気持ちよくなった様子を脳内で思い描く程、限界に達していた。
(もう、切るしかねぇ。でも爪切りじゃ足は切れねぇ。い、いや、俺は何を考えているんだ……。)
『パチン』
『パチン』
『パチン』
音の間隔が短くなってきた。音を聞いて痒みを和らげるつもりだったが、音に比例して痒みが増大していくようであった。
(も、もうだめだ。し、死ぬ。)
そこで、登はあることに気づいて、爪切りに手を伸ばした。
「あ、爪切れば良かったんだ……。」
爪を切ると、痒みは治まった。
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