第17話 ラタオル紀行
気づくと、私は山中を歩いていた。
何でこんなところを歩いているのかは、全く見当がつかない。
ただ言えることは、長時間歩いているにも関わらず疲れないということだ。
山中に現れるこもれびを見る度に、鳥の鳴き声を聞く度に、歩く速度も速くなる。
(妙だな……。)
先程まで足元を見ながら歩いていたところ、草木が生い茂る獣道だったはずが、だんだん草木が少なくなり、ついには人が通れるような道になっていったのである。
一旦立ち止まり、後ろを向いてみると、戻るのを拒否するかのように、草木が通せんぼしていた。
(狐狸にでも化かされたかな?)
私はいやいやいやと首を振り、また前を向き歩き始めた。
遠くで銃声音がひびき、鳥が飛び立つ音が聞こえた。
(マタギでもいるのかね?)
しばらく歩くと、目の前に木材で出来た赤い橋が姿を表した。
『おいでませまでいお』と書かれた看板が貼り付けられている門が橋を渡った先にあった。
門の向こう側にある町並みから、チンドン屋が奏でるような音色が聴こえてきた。
(こういう変な町並み嫌いじゃねえ……、会話のネタになるかもしれん。)
嫌いじゃねえったら、嫌じゃねぇという変な言葉を発しながら、私は町中に入っていった。
町並みは、それはそれは和洋折衷という言葉で片付けてはいけないほど混沌としたものだった。
一軒家の両サイドに左右半分に分かれた武家屋敷がくっついている建物もあれば、人間の手足が壁中に生えているもの、形を留めることなく伸び縮みする家屋など、よく分からないものが見られた。
歩く人々は、こちらが見て恥ずかしくなるような服を身に着けた人たちがほとんどだった。
(メンドクセェ町だな。)
私がそんなことを考えながら歩いていると、茶屋と思しき前で、
その男女も、それはそれは見てられないような服を身に着けていた。
男の方は、左半分散切り頭、右半分は八分刈りにしており、黒ぶち眼鏡を掛け、耳と鼻にピアス、左腕に腕時計、右手に懐中時計を持ち、上半身は燕尾服、下半身は袴、そして左足にサンダル、右足に下駄を履いていた。
一方、女性の方は、ツインテールの髪型だが、頭に船の模型を乗せており、頬に星マーク、下半身はチノパン、レオタードの上にコートを羽織い、なぜか腰に帯を締めていた。
(なんかあの二人に近づきたくねぇ……。声かけられたくねぇ……。でも声かけなくちゃあ男じゃねぇ。)
私が声をかける前に、男が私に気さくに話しかけたきた。
「よお、あんちゃん!難儀しとるねえ。こちらで一杯やったらどうよ?」
すると、女の方も私に声をかけてきた。
「あら、いい男だこと。わっちのことも相手してほしいんよ~。」
私は、気持ちが一気に冷め、回れ右をして一目散にその場を後にした。
先程、潜り抜けてきた門を抜けると、どういうわけか通せんぼしていた草木はなく、舗装された道が続いていた。
(早く帰ろう。)
私は、その変な町を後にした。
何だか体が少し重くなったような気がする。
――――
妙な恰好をした男女はまだ会話を続けていた。
「今逃げた人、わっちもう少し話したかったでな~」
「お前さんみてぇな不気味な恰好した女なんかと話したかねぇだろうよ。」
「それ言ったらあんさんだって。」
「あとは、ラタオルが戻ってきてから話聞こうや。」
「あ~、ラタオルあの逃げた人に憑いてったの~。うらやましいわ~。」
「まあ、あいつが人間に憑りついて、あっちの世界で分解されると、人間にとって大変役に立つからなあ。人間でいう『あいでぃあ』っちゅうもんを生み出すからなあ、今回はあいつを送らせたんや。」
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