第9話 まな板

 「まな板は防ぐため攻めるためにあるんです!」


と、目の前のおばさんは和室内で猛々たけだけしくで話していた。


(いや、食材の下ごしらえに必要な道具でしょ……。というか何を防ぐの?)


――――


毎週日曜日、近所の公民館でお料理教室がある。


今回参加するのは初めてだ。


大学の友達から、「花嫁修業として行ってみたら?変わった料理教室だから、行けばいいと思うよ、おそらくためになるかな?」と、勧めてるんだか勧めてないんだかよく分からない評価を聞き、騙されたと思って来たのだ。


公民館の入り口に行くと、「お料理教室でよね?」と制服姿のお姉さんが声を掛けてきた。


私はそうですと答えると、お姉さんはこちらですと返答した。


公民館の2階に調理室があるので、そこでやるのだろうと予想していたのだが、そこではなく、同じ階にある和室に案内された。


和室の壁や畳には、まな板が沢山貼り付けられており、窓もまな板で塞がれていた


「まな板こんなに壁につけてどうするのかな?そもそも調理室に置くものじゃないの?」


和室には、私と同じくらいの年代もいれば、30代、40代のおばさんもいる。


ざっと見て40人くらいいるだろうか。そんなに人気があるのか疑問ではある。


首をかしげながら講師が来るのを待っていると、

「あなたも受けに来たの?」と、私と同じくらいの女子大生が近寄ってきた。


眼鏡を掛けていてちょっと地味目な感じな子だった。


その子が女子大生って思ったのはなんとなくだけどね。


「うんそう。」と私は返事をすると、彼女は目を輝かせて、まな板に対する素晴らしさを外見に反してこれでもかというくらい力説してきた。


「いや、そりゃあねえ。料理教室なのにまな板ってとこが味噌なわけなんですよ。まな板がなくちゃ料理なんてできないんですよ。材質が木でできてようが、プラスチックでできてようが、まな板そのものの宿命というのが内在しているんですよ。ですからね……。」


まったく理解できなかった。


その子の話を聞いているうちに、お料理教室の講師であろう人が入ってきた。


――――


そして、現在に至るわけです。


講師のおばさんは、目を見開いてとんでもないことを言い放った。。


「これから貴方たちには、まな板を使ってバトルロワイヤルをしてもらいます。」


(いや、なんのこっちゃ。)


周りを見るとやけに皆意気込んで、まな板を掲げて戦闘モードになっている。


これ花嫁修業じゃなくて、サバイバルゲームか?


まあ結局最終的に言いたかったことは、これ逃げた方がいいなと思ったんだよね。


でも、その前にここにいる人たちから逃げられるかな。


それこそ、ここにあるまな板使って攻防戦繰り広げながら脱出するしかないんだろうけど……。

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