第11話 デザートホエールを狩ってみた!


 朝。

 ウルスラに起こされる。

 いつの間にか、いや一日経ったんだから当たり前か。

 胸にはサラシが巻きなおされていた。


「起きろ、食料を狩る。次の町まで幾分あるんでな」


 そう、もう俺達はオアシスには戻れない。

 ウルスラが恨みを買い過ぎているからだ。

 しかし、俺はなんでこんなあっさりこいつを信用してしまったんだろう。

 ……多分、方向は違えど、同じ変態だからだ。

 違いない。

 巻き込んでしまったイカルガに申し訳なく思う。

 しかし食料か。

 なんだろうか。

 あのミミズを食うのは嫌だが……。


「デザートホエールだ」

「デザート♪」

「そっちじゃない」

「ですよねー、しってたー」


 さしずめ砂漠クジラだ。そんな奴までいるとは。

 ここって意外と危険地帯なんじゃないか。

 いや別にクジラなら安全か?

 まあ、だろ。

 ……ん?

 なんだ今の。

 まあいいや。

 早速、船の甲板に出る。

 俺の攻撃のせいでボロボロだ。


「なんか、ごめんね☆」

「謝る気があるのか」

「ないかもねー」

「メスガキが」

「ひっどーい、襲って来たのはそっちでしょー」


 うーん、設定された性格とやらでまともに会話が出来ない。

 メスガキって基本的に他人の話聞かないんだな。こわっ。


「それでデザートちゃんはどこにいるの?」

「デザートちゃん……まあいい。今、デスワームが追い込んでいるところだ」

「へぇー便利だね、あのざこちゃん!」

「あぁん?」


 うーん、神経を逆撫でする事しか出来んのか。

 困ったな。

 すると、砂柱が噴き上がる。そこに現れる巨体。

 デザートホエール、その威容はまるで動く岩石だった。


「あれ、食えるの……?」

「中身は柔い」

「そとをくだけってことね……りょーかい♪」


 血の戦斧ブラッディアックスを構える。

 ウルスラは。


「あれ、錨は?」

「私は船の制御で忙しい。お前一人で狩れ」

「ちぇー」


 俺は砂漠へと飛び出した。デザートホエールへと向かって。

 遠近感が狂っていた。思ってた何倍もデカい。だけど。


「図体だけのざぁこ♡ 私が粉々にしてあげる!」


 『開放リベレーション』をぶっ放す。まずは体表の岩石を吹き飛ばす。

 デザートホエールが吠える。


「ウオオオオオオオオオオン」

「あはっ! 情けない声♡」


 そこから横っ腹に戦斧を突き立てる。あふれ出る血飛沫、戦斧がそれを吸い込む。

 強化される戦斧、一気にかたを付ける。


開放リベレーション!」


 撒き散らされる衝撃波。デザートホエールは撃沈する。開放の威力は確実に上がっている。このまま上げていけばいつの日か魔王にも――

 そこに。


「おい、気を付けろ、

「ほえ?」


 砂中から飛び出す、もう一匹のデザートホエール。つがいだったのだ。

 ニヤリと笑う俺。


「ごめんねウルスラちゃん! ちょっと食べる分減るかも!」


 もう死んでいる方のデザートホエールに戦斧を突き立てる。

 血を抉り出し、吸い込んだ。強化される戦斧。それを引き抜き、宙へと掲げる。

 デザートホエールが飛び上がって宙から迫る。


「あはっ! 『全域開放オールアラウンドリベレーション』!」


 ――スキルの独自進化を確認、全方向攻撃のスキルと断定。


 ミケのメッセージ。

 デザートホエールが吹き飛ばされる。衝撃波でズタズタにされる。

 砂漠に落ちて重低音と共に着地する。

 二匹のデザートホエールを仕留めた。

 俺はデザートホエールに何度も戦斧を叩き付ける。


「あはっ、ざぁこざぁこ♡ こんな図体で幼女に負けて恥ずかしくないの!?」

「そこまでにしておけ、大事な食糧だ」

「おっと、そでした」

「煽りたいならあっちにしておけ」

「あっち?」


 そこを見るとデスワームに船を引かれた砂賊が居た。


「ウルスラの仲間?」

「いや、ただの有象無象だ」

「じゃあ、やってもいいかなっ!」


 デザートホエールから飛び出し『悪路走破』のスキルで砂漠を駆ける。筋力EXでの最高速。

 遠くに見えた砂賊が眼前に迫る。


「なんだ……? って幼女!?」

「なんでこんなところに!? ここはウルスラの縄張りのはず!」

「あっは! ざこそうなおっちゃんがいっぱい! 楽しめそう!」

「誰がおっちゃんだ、俺はまだ――」


 そう言って戦斧を構えた。

 そして戦斧の刃ではなく横で叩いた。


「ごっふ!?」

「ざぁこ♡ 口だけのウルスラのこしぎんちゃくー! そんなんだから、いつまで経っても底辺なんだよ?」

「ふざけろ! 砲撃だ!」


 砂賊がわらわらと船から出て来る。

 する。雑魚がいっぱい……。

 またこの感覚だ。ああ、


 少し視点を変えさせてもらおう。

 此処は魔王城。白の王が鎮座する王の間。

 アリスを眺める魔王。


「フハハハハハ! 面白い! あの魔力を受けたお漏らし娘が未だに言動を改めもせずに、しかもウルスラを仲間にするとは! 面白い! 面白い! だが、それでもわからせてやりたい! 魔王に敵う者などいないのだと!」


 砂賊を峰内ちで仕留め終わるアリスを眺め終わると。

 魔王は窓の外を眺める。


「ククッ、楽しみだ」


 視点をアリスに戻す。

 雑魚砂賊共を狩る俺、なんか今、一人称と三人称が混ざった気がする。


 ――メタ発言は私に任せて下さい。


 メタ……?

 俺は雑魚砂賊を踏みつけ。


「おっちゃん、なさけなーい♡ ざんねんだなぁ。わたしつまんなーい。腕一本いっとくー?」

「ひぃ!?」

「そこまでしとけ」

「ウルスラ? 船の操舵はいいの?」

「今は止めてある」


 さてどうするか、雑魚砂賊共は改めて片づけた。

 あとはデザートホエールを改めてどうするか。

 そこで寝ぼけて目覚めたイカルガが現れる。


「なにごとー?」

「イカルガよ、お前、氷魔法が使えたな」

「ほぇ?」

「デザートホエールを保存したい。協力してくれ」


 イカルガはウルスラの無茶振りにひぃひぃ言いながら魔法を唱えたのだった。

 二人は旧知の仲だったのだろうか。

 聞いてみる。


「いや、ウルスラがまだ幼女裁判にかけられる前に仲良くて……」

「よく懐いてきたな『お姉ちゃんお姉ちゃん』と」

「やめてよ!」


 これ以上は地雷のようだ。

 踏み込まないでおこう。

 しかし俺は満たされない。

 もっと雑魚を煽りたい。

 いつの日か、魔王を見下してやりたい。

 それが俺のメスガキ本性だった。

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