憧れだった大きな武器を振り回すメスガキに転生して野良モンスターに「ざぁこざぁこ♡」してたら急に魔王が現れてちょっと漏らした件について

亜未田久志

第1話 俺は幼女である、名前は今から付けられる


 俺、今年で三十歳の童貞は、トラックに轢かれそうな猫を見るに見かねて助けてしまった。

 それがダメだった。残念ながら集中治療室にて俺の死亡は確認された。

 やせ細った身体を魂だけになった自分が眺めていたのを覚えている、虚しかった。

 そして――


「どうも」


 そこに現れたのは変な髪の毛の色の少女。

 ここは水晶クリスタルがたくさんある謎の空間。

 俺は裸で立っていた、恥ずかしい。

 ちなみに少女は着物姿だ。十二単と言うのだろうか。

 重そうだ。


「……えっと、けほ、だ、誰ですか、けほ、あと服はありませんヵ」


 喋り慣れていない喉は枯れ葉て、かすれ、段々小声になっていく。


「残念ながら服はありません」


 変な髪の毛、具体的に言うなら黒、白、茶色の三色に彩られたその少女は言った。無慈悲に。


「あ、あの、恥ずかしぃ」

「我慢してください。


 少女の言葉を受けて、まるでそれに反応したように周りにある水晶が発光しはじめる。

 その光が俺に集中し、何も見えなくなる。


「大丈夫です、痛みは一瞬です」

「――は? って痛い!?」


 その痛みは鈍痛だった、ギリギリと絞るように痛い、どこが一瞬だ。

 そして――


「なんですかもう!」


 なんか可愛い声が響いた。

 水晶に映り込む自分を見やる。そこに居たのは――


「ロ、リ……?」

「それがあなたの理想の姿です。良かったですね?」


 十二単の少女は言う。金髪碧眼、ツインテールな髪型の背が低い女の子、丈の短いキャミソールに、ホットパンツと言った軽装に身を包んだのが俺だった。


「これはどういう?」

「あなたはこれから『ローリガルド』という幼女が正義の世界に生れ落ちます。あなたの理想の世界です」

「話が読めない……というか君は誰なんだ」

「ローリガルドでは幼女らしい振る舞いを心がけて下さい。そうしないと『贋作判定』を受けてしまいます」


 この少女はまともに会話する気があるのだろうか。


「……察しが悪いですね。この髪の色で分かりませんか?」

「……まさか」


 三毛猫、そんな言葉が思い浮かぶ、何せ、俺の死因だ。忘れるはずがない。


「助けた三毛猫……?」

「改めまして、月並みですが『ミケ』と申します」

「なんで君がこんな事を?」

「私、猫又なのです、ちょっとした神通力が使えます」

「……なんとなく察してきたぞ、猫の恩返し」

「まあ、そんなところです」


 しかし、来世が幼女とは。最高じゃないか! なりたかったんだ幼女。

 しかし、普通は赤ん坊から始めるとこじゃないか? この疑問を解消しよう。


「なんでもうこんな成長してるんだ?」

「……ペドフィリアですか?」

「断じて違う!」


 ミケが引いている。ドン引きだ。


「ああ、確かに赤ん坊から転生しないのは不自然かもしれません。しかし。ローリガルドではさして不思議な事ではありません。幼女の降臨は日常茶飯事なのです」

「そのローリガルドって?」

「――幼女が正義の国。幼女が統べる幼女の世界。あなたの理想が詰まった世界です。ロリコンさん」

「ロリコンじゃないですけど!」


 俺はロリになりたかっただけだ。ロリが好きな訳じゃない。なりたかったのだ、強調しておこう。


「さてステータスとスキルはどうします?」

「あ、そういうシステムなんだ……モンスターとか出たり?」

「はい、あなたには魔王を倒してもらいたいのです。私を助けた対価としてのメリットは好きな性質の付与、転生先の指定。転生の際のデメリットはそこに責務が存在する事」

「なんと」


 驚いた。俺に戦いなんて出来るだろうか。

 いやステータスとスキルとやら次第ではなんとかなるかもしれない。

 意を決する。


「ステータスは筋力全振りで」

「……いいんですか?」

「幼女で巨大武器を振るうのが夢だったんだ」

「スキルは?」

「魔法無効とかあるかな、遠距離戦は避けたい」

「かしこまりました」


 ステータス「筋力:EX」「魔力:D」「幸運:D」

 スキル「攻撃魔法無効」「デバフ魔法無効」


 そんな言葉が脳内に響き渡る。


「おお、おお! ……他にステータスは?」

「基本D、最低値です」

「……まあいいか」

「他に欲しいものとかありますか?」

「巨大武器!」

「戦斧でいいですかね」


 目の前に現れる身の丈を超える戦斧。

 物々しい装飾が施されたそれは赤黒い光を携えていた。

 

「かっこいい!」

血の戦斧ブラッディアックスです。相手の血を吸うほど威力を増します」

「いいね!」

「……さっき話しましたが、ローリガルドでは幼女らしさが重要になります。今のままの態度だと『贋作判定』を受けます」


 俺は顎に手を当てる。


「その贋作判定って?」

「ローリガルドでは幼女は珍しくありません。幼女を騙る者も、ゆえに『幼女裁判』が定期的に行われ、そこで真の幼女かどうかの審判が下されます」

「……そこで贋作判定を喰らうと?」

「死刑です」


 絶句する。なんて厳しい世界だ。


「ちょっとロリらしさの練習をしましょうか、返事は?」

「……はい! お姉ちゃん!」

「適応力が早いですね。それでいいです」

 

 すると、俺の身体がまた光に包まれ始める。


「え、なになに?」

「転生の時間です。今度は良い人生を。あ、あと――」

「?」

「助けていただいてありがとうございました」

「こちらこそ」


 そして俺の視界は真白に染まった。

 次に目を開いた時に現れたのは石造りの神殿内部だった。その柱やら壁やらの装飾から神殿と予想した。


「おお! 勇者様! その幼き姿! まさしく真性!」

「……あ、ありがとー!」

「おお……おお……反応まで純粋無垢……まさしく女神……」

 

 目の前の老人が泣いている。

 なんか気まずい。

 巨大な斧を持った現代衣装の俺と、ローブを身に纏った老人。

 俺は次どうすれば。


「えっと、俺……じゃないじゃない! あたしはどうしたらいいのかなっ!」

「はい、早速、魔王を倒していただきたいところですが、まずはこの村、近隣のモンスターを殲滅していただきたく……」

「せ、殲滅……」


 物騒だが従うしかないのだろう。ローリガルド、意外に厳しい世界だ。


「その暁には豪華な食事を用意いたしましょう、それしかお礼が出来ませんが」

「分かった! 頑張る!」


 必死に幼女を振る舞う、結構キツいぞこれ……。


「ああ、そういえばあなたのお名前を聞いてなかった、お名前は?」

「へ? 名前?」


 俺は田中――違う違う。

 そうじゃない。どうすればいい。


「えっとその――」

「ああ、あなたは名無し様でしたか、お気になさらずよくある事です。良ければ私が名付け親に……」

「じゃ、じゃあお願いしちゃおうかなっ?」

「此処は伝説に倣って『アリス』『アリス・ローリガルド』と名付けましょう」

「……伝説?」


 小首を傾げた俺。老人は深く頷き。


「ウサギに導かれ魔王『赫の女王』から世界を救った英雄です」


 不思議の国のアリス……? 疑問に思いながら、他に例もないので受け入れる。


「私、アリス! アリス・ローリガルド! よろしくね☆」

「ああ、神々しい……!」


 神々しい……か? まあいい、俺はこれからどうしよう、早速モンスター狩りにでも行くか?


「私、どこに行けばいいのかなっ?」

「はい、この神殿を出て、真っ直ぐの道を進み、村の門を潜り、草原を出て、森に向かってください。そこがモンスターの巣窟になっております」

「りょーかい☆ あたし頑張っちゃうぞ!」


 意気揚々と神殿を出て行く俺。真っ直ぐなら道に迷う事もなかろう。

 そうして進んでいく、村の人々が大きな戦斧に視線を寄せる。いや幼女な自分にも向けられている。なんだか恥ずかしい。

 村を抜けて、草原を駆ける。

 速い――

 一瞬で森までたどり着く。

 暗く湿った森だ。ドロドロと足を取られる。


「足場が悪いにゃあ……ん?」


 猪……にしてはデカい。デカすぎる。

 いわゆるボア、さしずめビッグボアというやつだろうか。

 俺は戦斧を構える。ビッグボアが吠える。


「ガアアアアアアアアアアアアア!!」

「さぁて筋力EXの力試しますか!」


 猪突猛進、突撃してくるビッグボア。

 俺は戦斧を思い切り真正面から叩き付ける。

 真っ二つになるビッグボア。

 縦一文字に裂けていった。


「はは! ざぁこざぁこ♡」


 楽しい! 最強幼女ライフ楽しい!

 俺は最高の充実感に満たされていた。

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