第16話 ナイルの村との別れ
食事を終え身支度も整えた後、ボク達はナイルの村を出る事を村長とリオーネさんに告げた。
「勇者ノエル様、どうかお気を付けて」
「いいか? この先からの村は知能が高く言語を放つ魔王の手下達が大勢いる、気を付けろよ」
「ん、ありがとうございます」
どうやらナイルの村を超えた先では、魔物の手強さも上がっているのかもしれない。
用心しないといけないな。
「我もここで働き終えたら、魔王を倒す為に修行をするとしよう」
「リオーネさんも魔王討伐を?」
だったらリオーネさんに全部任せちゃおうかな、なんて。
「うむ。ノエル達が魔王と対峙する時は呼んでくれ、直ぐに駆けつけよう」
「ありがとうございます。その時は遠慮せずに頼りますね?」
⋯⋯連絡先知らないけど。
でもリオーネさんとはまたどこかで会う様な、そんな予感がするからこれ以上の事は突っ込まない。
しかし良い雰囲気で旅立てそうな雰囲気の中一つ気になる事がある。
「あの村長さん、依頼達成の報酬とかってないんですか?」
「え、それならあの冒険者の二人に渡しましたよ。冒険者様たちが、後でノエル様の分も渡しておくって」
「え⋯⋯」
ボク、一銭たりとも貰っていない。
舐めやがって、アイツら全部ネコババする気だな。
確かあの二人はまだ食堂で酒を飲んでたはずだ。
よし、ぶっ潰してやりましょうか。
「ルアさん行きますよ」
「食堂ですか? あのーノエルお姉さん乱暴は駄目ですよ⋯⋯?」
「まさか、乱暴なんてしませんよ?」
ボクはルアさんを引き連れて食堂へと移動した。
案の定、冒険者二人は酒を飲んでいた。
随分気分が良くなっているのか既にベロベロになっている。
うわぁお酒くさ。
「金、ボクの分下さい」
「んー? お嬢ちゃんの分はないよぉ?」、弟のズークは酔いまじりにそう言った。
なので遠慮せずにボクは杖を取りだし、軽く火でズークの手を炙った。
早速乱暴はしないというフラグを回収してしまった。
「あっちぃ!? 何するんだお嬢ちゃん!」
「お、おい⋯⋯弟に何を⋯⋯」
火に炙られてようやく酔いが覚めたのか、冒険者兄弟の顔は青ざめている。
なので、もう一度だけ問い掛けることにした。
「ボクの分のお金、下さい。ネコババする気でしたよね?」
「や、やだなぁ! そんな訳ないじゃないか!」
「そ、そうだぞ、 ほら持っていけ! そして許してくれ!」
いや許してくれは自供しているも同然だ。
兄の方コーザが、慌ててボクの手に硬貨の入った袋を乗せた。
ずっしりとした重みがボクの手のひらに伝わる。
これ、相当な額じゃないかな?
「ありがとうございます。ではさようなら」
金さえ貰えればもうあのクズ兄弟に用は無い。
ボクとルアさんは早々に踵を返して、食堂を出た。
何時までもいる理由も無いので、ボクはホウキに跨る。
「そろそろ行きましょう。ルアさんも乗ってください」
「はい。今度はホウキの操作失敗しないでくださいね! またドラゴンにぶつかるのは嫌ですよ!」
「はいはい、分かってますって⋯⋯」
二人ともホウキに乗り、いよいよナイルの村を去ろうという直後にリオーネさんが声を掛けてきた。
ボクではなくルアさんに。
「おいルアとか言ったか? お主獣人だろう?」
「え、ええ⋯⋯そうですけど⋯⋯」
「この先を暫く進むと、獣人達の村があったはずだが。知っているか?」
獣人達の村。
ルアさんは元々獣人狩りに捕まって、何処かへ連れされる際に命からがらなんとか逃げ出して、前のあの街に流れ着いたらしい。
という事はもちろん故郷があるということ。
それがもしかしたらリオーネさんの言う獣人の村なのかもしれない。
ボクはチラリとルアさんに目線を飛ばす。
「それ、私の故郷かも⋯⋯!」
「む、そうなのか? この先の街や村を幾つか越えた所にあった気がするが」
「それ本当ですか!!??」
「急に食いつくな⋯⋯!? 我は嘘はつかん、本当だ」
リオーネさんはルアさんの勢いに驚きつつも、本当の事だと言い切る。
これでルアさんを故郷に返すという約束が、少しだけ現実味を帯びてきた。
「良かったですねルアさん、少し希望が見えてきました」
「はい! 絶対故郷まで送り届けて下さいね!」
「⋯⋯⋯⋯はい」
ルアさんは嬉々として、ボクに語りかけてくる。
帽子をかぶっているので実際には見えないが、きっと獣耳が揺れ動いているんだろう。
ルアさんを故郷に送り届けたら、ボクとはお別れか。
初めからそういう約束で一緒にいたのに、少し胸が痛む。
この世界に来た日は浅いが、ずっと寝食を共にしてきたからか、何処かルアさんに安心感を覚えていたのかもしれない。
ただそんな事、口が裂けても言えない。
ルアさんは普段から馬鹿っぽかったり、無駄に元気なところがあるが、本当はかなりの心配性だ。
この村に来てから立て続けに起こる出来事に常に不安そうな表情をしていた。
それにボクなんかよりもずっと優しい。
結果的にワイバーン退治には来たものの、ボクは冒険者兄弟に誘われた時、初め本気で行くつもりがなかった。
ルアさんが放っておけないと声を挙げなかったら、ボクはホウキでその場を去っていた。
そんなルアさんだから、離れるのが心残りだなんて言ったら絶対に困らせてしまう。
じゃあせめて一緒に旅をしている間は「友達」として接してみたい。
今までろくに友達なんて居なかったけど、本当の意味で「友達」として残りの期間、思い出をつくりたい。
「行きますよ、ルア」
「あれ、呼び捨てですか? 全然いいですけど」
「嫌ですか?」
「さっきも言ったけど、全然いいですよ?」
「どうも」
ボク達はホウキに跨り、ふわりと宙に浮く。
村長とリオーネさんは見送ると言ってくれて最後まで傍にいてくれている。
今生の別れにならないように、この二人にもまた会いたい。
「それではさようなら。お二人とも仲良くして下さいね」
「本当にありがとうございました、勇者様。リオーネとは上手くやります」
「村長さん我の時と態度違くないか⋯⋯?」
「当たり前だ! お世話になっている勇者様だぞ!」
「そ、そんなのは差別だ! 我にも優しくしろ!」
リオーネさんと村長はボク達の目の前で口喧嘩をし始めた。
まあ喧嘩するほど仲がいいと言うし、二人なりの仲が良いの表現なんだろう。
知らんけど。
「それじゃあ、行きますね」
「二人ともさようなら! リオーネさんのご飯美味しかったです!」
「ルア、嬉しい事を言ってくれるな。再び会えたらまた我が腕を奮ってやろう」
ルアさんとリオーネさんも打ち解けた様で、ボクとしても心残りなくこの村を出ることが出来る。
今度こそボク達は「さようなら」と二人に告げて、ホウキを飛ばした。
飛んでいる最中村の方を振り返ると、豆粒みたいに小さくなってきたリオーネさん達がまだ手を振ってくれていた。
今回はいい出会いがあったけど次に行く街は、どんな出会いがあるんだろう。
少しだけ高鳴った胸を、後ろに乗っているルアさんに悟られないように抑えつつ、雲ひとつ無い快晴の大空へと飛び立っていった。
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