第11話 会って嬉しい人と、会いたくない人

「セレス具合はどう?」

 ラルフが見舞いに訪れた

 いつもの小さなブーケとお菓子を持ってきてくれた


「王弟殿下、いつもお見舞いの品をありがとうございます」

 笑顔でお礼を言う


「少しやつれたんじゃないか?」

 心配そうに顔を覗いてくる長身のラルフ


「そんな事はありませんけど…こんなところではなんですし、お天気がいいのでお庭が見渡せるテラスでお茶をしませんか?」


 ラルフをお茶に誘うと、それは良いねと微笑んでくれた


 テラスに案内をする

 少し肌寒いが日差しも良い午後だ

「懐かしいな…バイエ邸の庭に来るのは何年振りだ…?」

 懐かしそうに目を細めるラルフ


「王弟殿下、先日は再会をしたばかりなのにご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした、お詫び申し上げます」

 すっと席を立ち深々と礼をする


「気にするな、私が勝手にした事だ、それより学園も休んでいるんだろ? 大丈夫なのか」

 心配そうな眼差しで見られる


「はい、父がしばらくは休んで良いと言ってくれたのでその言葉に甘えています」


「しかし外にも出ないのは体に良くないだろう?」


「王弟殿下から戴くお花を見て癒されています、ベッドの側に飾るのにちょうどいい大きさですもの」

 ふふふと笑うセレスティーヌ


「そうか、それは良かった、嬉しいよ」

 笑顔で答えるラルフ


「お菓子もすごく美味しくて、食べるのが勿体無くて…」

「好みにあっていた?」

「はい、今日いただいたものも実は楽しみです」


 ラルフが送ってくれるものに日々癒されている。何回かに一度は手紙というよりメモが挟んであったりする、それがまたセレスティーヌの心を癒した


「それは良かった、ねぇセレス庭を案内してくれない?」

「はい、勿論です」

 並んで庭を歩く二人


「王弟殿下は身長が高いのですね…」

 見上げるほどの身長差だ

「その王弟殿下と言う呼び方はやめてくれる? 私はもうすぐ殿下ではなくなる」

「そうでした」


 口を片手で押さえて、失言した事に気がつく

 ラルフは臣下に降ることになっている

 元々王族だった公爵の家に継ぐものがいない為、ラルフが跡を継ぐ事になっている


「申し訳ございません」

「いや! そう言う意味ではないよ、私が望んだ事だからね」

「でも、」

「いいから! 気にするな、いいね?」

「アルナンディ公爵様とお呼びします」

「待て! なぜそうなるんだよ……」

「えっ? だって王弟殿下ではなくなりますし…」

 首を傾げ困った顔をするセレスティーヌ



 庭の噴水の近くまで来ると、何故か懐かしい気持ちになる

「あれ? えっと……何か……」

 忘れていた懐かしい思い出が…


「ラルフだよ」

「えっ?」

「昔セレスは私の事をラルフお兄様と呼んでいたんだが…」



「ラルフお兄様? ……あっ!」 



 遠い記憶が甦り、顔が赤くなる

 なぜ忘れていたのか…

 ラルフはセレスティーヌにとって初恋の相手であり、ファーストキスの相手だった…


 外国へ行くと言うラルフを思い、泣き、帰ったら会いに来て! と小さい子のわがままで、駄々をこね、可愛らしいキスをした…この場所で!



「どうしよう…恥ずかしくて」

 かぁーっと赤い顔を両手で隠す


「会いに来たよセレスティーヌ、ただいま」

「……おかえりなさい、ラルフお兄様」


「なんで待ってくれなかったのか…サロモンなんかと婚約して…」

 はぁっと溜息を吐くラルフ


「だって…」

「そうだよな、セレスは小さかったからな…それでも可愛いセレスの願いを叶えたかった。私の願いでもある、ずっと君のことを思っていたよセレスティーヌ」

「ラルフお兄様……」


 見つめ合う二人…


「ねぇセレスティーヌ、まだ考えられないかも知れないけど、会えない間も君のことを好きだった、いつか気持ちを聞かせてくれる?」

「……はい」

「サロモンの事をまだ好き?」

 ふるふると頭を振る


「そうなのか…?」


 ふぅーっと深呼吸するセレスティーヌ


「私は、愛というものに憧れがあります…

 子供っぽいけど……両親のように愛情溢れた家庭を作りたい、殿下の相手は私ではありません。邪魔をしたくないから……もし殿下に愛を感じていたらこんな気持ちにならないと思う…。政略で結婚する人も多いし、わたくしもそれならそれでいいと思っていたの、でも殿下は愛する人を見つけた、羨ましいと思いました」



 ラルフに、自分の思いを伝える


「セレスの気持ちはわかった。今度さ、また王宮で夜会がある。パートナーとして参加してくれないか?」


「私は、ラルフお兄様から見ると子供だし、恥をかかせるかもしれません。婚約破棄された女ですし…」

 困った顔をするセレスティーヌ


「なんで? 成人して立派なレディだろ?あんなに可愛いかったセレスがこんなに綺麗になってびっくりしたし嬉しかった…エスコートさせて貰える?」


「………私でよければ」

「セレスティーヌが良いんだよ」

「うん」



 ラルフが帰ったあと、余韻に浸っていたらサロモンが会いたいと邸に来たが、勿論断った。ラルフが会いに来てくれて嬉しかったのに気分が下がった…なんで、邸にまで来るんだ! また頭痛がした…よし、寝よう

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