第11話 ナタリーの散策

 私は、受付のお姉さん……ソフィアさんに出かける旨を伝えて、時々下町を散策している。

 要はヒマなのだ。


 結界の外の瘴気と魔物は、なぜだか強くなっていて、弱い……Cランク以下の冒険者は結界の外に出る事を禁じられてしまっている。

 高ランクの冒険者は中級や上級のポーションを買えるくらいの財力くらいは、あるらしかった。 

 それでもあまり依頼を受ける者はいないらしいけど。


 なので、たまに来るケガ人の中には、仕事中にやけどやケガをしただの、普通の薬で治るものが増えてきた。

 不思議な事に、おじさんと言われる人種が多い。そして、受付のお姉さんからイヤな顔をされ、その男性の奥さんと言われる人から襟首掴まれて連れて行かれていた。


 報酬だけ貰ってケガを治さないのも何だから、こっそり治しているけど。



「よう。ナタリーちゃん。買い物かい?」

 野菜屋のおじさんが声を掛けてきた。

 日常の食料を打っているお店は、下町でも結界寄りにある。

 そうは言っても、結界はまだはるか向こうなのだけど……。

 と言うか、気付かないうちにこんなところまで来てしまったんだ。

「いえ。私は料理は苦手なので……」

 ウソだけど。今は自炊の必要もないから、バレないだろう。

「結界の側には寄らない方が良いよ。警備も厳しくなっているし……何より、うっかり出てしまったら大変だ」

 おじさんは笑いながら言っている。

「そう……ですね」

 私は、そう答えた。

 ここまで来たのだから、行ってみようかと一瞬思ったのだけど。

 おじさんは笑ってはいるけど、私の方をじっと見ている。


「ギルドの方に戻ります」

 私はペコンとお辞儀をして、元来た道を戻ろうとした。


 ガタガタガタガタッ。

 砂ぼこりと共に、けたたましい音がして馬車が走って行く。

 馬車と言っても、貴族が乗っているような上等なものでは無く、寄り合い馬車を大きくしたような……。

 後ろから、血にまみれてだらんと垂れ下がった腕が見えた。


 その横に付いて行くように、馬を走らせている複数の騎士たち。

 皆、必死の形相だった。


「ああ。まただ。結界を壊そうとする魔物と戦って……」

 おじさんは、誰に聞かせるでも無く、不安そうに言う。

 そして、私に気付いたのか無理に笑って

「何も心配することはないさ。ナタリーちゃん、気を付けて帰るんだよ」

 そう言ってくれた。

「はい。ありがとうございます」

 私は、気遣いに対する礼を言ってまた歩き出した。


 …………知らないのだろうか? いにしえの魔女が張った結界は、のどんな干渉も受けないという事を。

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