第4階 宿敵との対決

 ピンク色に怪しく光る白亜の居城、セイクリッド・エレガント・ザナドゥ。

 その地より遠く離れた和泉の国からでもラブラビアの魔力から変化させられた妖気が肌に触れる様に感じられる。


ーー時壁

 時空の流れを周囲に張り巡らせ外界からの影響を操作した。


 私はその妖気の密集した城内を何の影響も受けずに進んでいた。


 そして足音が響く。


「あら、招かれざる客でありすね」

 

 私が何を行いながら進んでいたのか、状況を把握したラブラビアの表情は穏やかではなかった。


「ねぇ?此処にいたのは美形の男性達かしら?」


 ラブラビア以外の魔力は感じられない城内で。

私の口元は緩んでいた。


「...ヴァンパイア・デビル・キング。世界の一つすら我が物に出来ない魔王では逆立ちしても足掻く事すら出来ない強大な魔力を保有する、統括の立場のヴァンパイアを集結させていたでありすよ」


 ラブラビアは怒りに震えていた。


ーー時交

 私は私自身とラブラビアの今を繋げていた。


 無言で私は左手でラブラビアの首根っこを掴んでいた。

 距離が一瞬で縮んだ事に対してラブラビアが驚きの表情をしていたのが印象的だった。


(くっ!?動けないでありす)


ーー氷花咲凍

 氷の花が咲き、周囲を凍てつかせた。


 私は後ろに飛んで距離を開け、私が掴んでいた首元が凍てつく様子を確認した。


「それでは質問!ヴァンパイア・デビル・キングさん達は貴女に何も伝えずにいなくなる事はあるのでしょうか?」


ーー白亜剣

 右手に握る。


 私の頬が緩んでいくのが自分でも分かっていた。


ーー波転

 すべての攻撃による効力は波に例えられる。その始点が第七世界における地球の物理法則では説明出来ないわ。


 ラブラビアの左腕に下から上への斬り上げを行い状態異常:反宙を与えた。


 ラブラビアの困惑の表情が見て取れる。


「ねぇ...?どういう気分かしら」


 血の気が引いていくラブラビアの表情を舐める様に見つめていた。


「あり得ないでありすね...」


 ラブラビアは荒い息をしていた。


「答え合わせの時間です。

ヴァンパイア・デビル・キングさん達は一撃で葬り去られたのでした」


 私は右手の白亜剣を気持ち強く握り締めた。


「あら?あなた、この程度で勝ったつもりでありすかね?」


 ラブラビアの額から汗が滲み出ている事からも強がりなのね、と私は思った。


「流石は真祖と言うべきかしら?左手、まだ使えてる、ふふふ」


 状態異常:反宙下においてもラブラビアの左腕は微かに魔力反応があった。


 私は構えの動作を行った。

わざと目に付くように。


ーー時断

 時の流れを繰り抜いた。

この場合は私とラブラビアの距離を。


 私の顔は二撃目の為にラブラビアの大きな瞳に吸い込まれそうな位置にまで近づいていた。

いわゆる目と鼻の先ね。

 一瞬だけだけど、ラブラビアの青ざめた表情が認識できた。


「もう左腕さんはGAME OVERに近しいでしょ?

 再生しようとする治癒力を反転させる状態異常にして差し上げたからねぇ。

きっと物凄く...ねぇ?感じた事あるのかしら?」


ーー波転

 私は左足に状態異常:反宙を加えた。


 ラブラビアの神の美しさを持つ左の神脚。


「あ...が...」


 もう、ラブラビアから先刻の余裕は微塵も感じられない。


 状態異常:反宙は再生する力が強ければ強い程に反作用を起こす状態異常で宇宙同士が削れ合う程のダメージを受ける。

一応、再生は可能な程度にはしてある


 でも真祖ラブラビアはその強大な強さ故に

ダメージを受ける事が少ない極めて少ない稀な戦闘種族。


 超新星爆発に匹敵するダメージを受け続け、きっと今はビッグバンに左腕と左足を突っ込んでいるような心地だろうと思うわ。


ーー時遅

 包まれた時の流れは非常にゆっくり進む。


 私はラブラビアの頭以外を"遅い世界"で包み込んだ。

 ラブラビア自身の思考では通常通り動作が行われていると感じられるのだけれど、現実には進まないという意識の差が焦りを高めていく。


 その瞬間満ちた。

 尋常ではない魔力がこの場を支配で。


「えぇ、そう貴方がメイユール」


突然の来訪者に潤んだラブラビアの表情が明るくなるのが確認できた。


禍々しい怒気を放つローブを纏う骸骨の何か。


彼は


「フォールン・コズミック」


と言い放った。


 私は静かに宇宙が近付いてくる力を感じた


ーー八百万墜

 シューティング・ワールズ。


 私はフォールン・コズミックをほんの少しだけ真似た。


「降って来ないでありす、メイユール様の宇宙が」


「まさか少女よ...打ち消したのか?」


 骸骨ゆえにメイユールの表情からは気持ちが読み取れなかった。


「そうね。流石に八百万の世界を墜とそうとしたのは挨拶としては不適切だったかしら?」


 私はフォールン・コズミックを打ち消すのに八百万の内の1つすらいらなかった事に気付いて八百万墜は霧散させていた。

 すでにフォールンコズミックは遥かな次元の彼方で消失していた。


「なんと...ラブラビア!お前は...」


 ラブラビアは涙を流していた。


「できませぬ...メイユールさ...ま」


 ラブラビアだけを逃走させようとしたのかなぁ。させないよ。


「俺はこれ以上仲間が傷付けられ痛ましい姿をしている事に耐えられるほど、出来ちゃいねぇぞ!!!」


 怒りを露わにして骨々が震える音がしていた。


「私も逃す気無いかな」


 私は満面の笑みで答えた。


 私は白亜剣を構えた。

ラブラビアの左半身に狙いを定めて。


「...あくまでラブラビアを痛めつけようと言うのだな?」


 メイユールに発動直前の多種多様な魔法が彩りを重ねる様に集まっていく。

 気付かれていないつもりなのか

100を超えて1000にも及ぶ強化魔法の数々。


 赤子の時に出会ったあの3人に加えて更に仲間がいると予測できる魔法量。

 これは私とメイユール達の闘いということ。


「へぇー、面白そう」


「!!!!」


 メイユールは私の言葉に威圧で応えた。

憎悪に染まった魔力で。


 私は待った更に言えば堂々と強化されても特に構わなかった。

 私はこの剣を確かめたかった。甘美なる斬れ味を。


ーー下元

 3次元から2次元に次元を1つ下げさせる。


 これが私の細工。

 これによって私の位置からは切り絵のようにラブラビアとメイユールが重なっている。

 これで一振りで2者まとめて斬れる。


 速度で詰めてもいいけど、今の私は技を綺麗に叩き込みたい。

 メイユールを斬ったままラブラビアに余波を与えるのも面白いかもしれないし、2撃目の威力と勢いを保持したまま残りを与える事も出来る。


 それにこの技は同次元に存在していると扱われる為に1の威力で多くの者に効力を与えられる点。

 1撃目はメイユール、2撃目はラブラビアに向かうだろうという敵の算段から外すのが狙い。


 私は剣に思いと願いを込めた。

白亜剣を握る手に静かな緊張が走る。

今から私は父に教えていただいた技を行使する。


ーー物魔剣

 エクス・カリバーン。


「大当たり!」


 私の読みは当たった。

 メイユールへの補助魔法による強化が終わった瞬間のこと。

 物と魔を両方込める混合剣技、エクス・カリバーンから放たれた十字の波動をメイユールとラブラビアの左半身に直撃させた。


 エクス・カリバーンは父に習った初めての剣技だった。

 剣による斬撃に魔力の力を上乗せして叩く、剣技の波と魔力の波がお互いを高めながら十字に敵に叩きこまれる事からそう名付けたらしい、私の偉大な父によって。


「ぎゃああああああああああ!!!」


 ラブラビアの絶叫が自らの居城の玉座の間に響き渡っていた。

 ラブラビアは瀕死に近いダメージを受け、体力がほぼ削られていた。

 私が創った"遅い世界"もエクスカリバーンの余波で打ち消されていた。


 きちんと研究され認知された魔法なら自身の魔法の影響を無効にする方法がいくつかあるのだけど、私が使用する魔法は全てにおいて非合法魔法ともいえる。


 けれども一世界の命運を左右する程度での魔法効力では私の放ったエクス・カリバーンは止められるはずもない。


 私の白亜剣は一世界の法則すら薄いハムを切り裂く様に容易に消し去っていた。


 エクスカリバーンによって多くのダメージを受けたため、ラブラビアの生命維持の為に魔力が使われていた。

 また魔力回路が半壊した為に多くの魔力がこぼれ落ちていった。


 これでアカナも回復出来る。

私は達成感に満ち溢れていた。


「とても素晴らしい眠気覚ましになられたのではないかしらね、メイユールさん?」


 メイユールもまた多くのダメージを受け、生命意地の為に魔力が使われていた。

 その証として骸骨の身体が剥き出しになりローブが消滅していた。


 (「高価そうなローブだったけれど」


 魔力が残りわずかなのか、メイユールはその場に音を立てて崩れてしまった。


 御仲間の気配はするけども、悔しそうな表情をしているのが精一杯みたい。

 でも今にも噴火しそうな怒気を含みながら。


 「ねぇ?勝負は着いた認識でよろしいでしょうかねぇ」


 強い生命はその強靭な意志という思いゆえに現実に染み付く。

 それが魂や霊魂と言われる者の正体。

特に生きている訳でも、記憶を保持している訳でもない。

 最も強い部分を持ったまま現実に突き刺さる。

 まるで売れない画家の作品。

いわゆる意志が後世になって評価されるのと非常に似ている。


 緩やかに漂い、メイユールの意思が湧き上がる。

揺らめく青い炎は意思をこの瞬間に刻んだ。



 「仲間を...助けてやって欲しい、それだけだ。それだけが心残りだ。私は確かに敗北した。今回はそれでも構わん。それでも仲間だけは」


 メイユールは語った。

今の私には抱けない気持ちを。

 私はこの意志を世界から退場させる気持ちでこの場に立っていた。

 ラブラビアがこの地を2度と踏めない様に。


 「私が気に入らない事したならみんな揃って退場させるけどいいのかな?」


 私は一度だけチャンスを与えようと口にした。

これから何を残すのか興味があったからだ。


 「...フフフフフフ。面白い小娘だ...良いだろうその時は好きにすると良い」


 メイユールは笑っていた。

顔も表情もないその霊魂で。


 「御仲間は全て自らの世界へ返し平和ボケさせる事。

ラブラビアについては

左半身に超強力な状態異常:神々腐敗を施し過ごしてもらいます。再生は可能なら御勝手に。

後、貴方は私に協力する事。いわゆる人質ね、御仲間が暴れたらね?」


 私はすべての条件を飲まないなら残念だけど退場させるつもり。


 「フフフフフフ、言ってくれる。

お前達も満身創痍だろ?戻れ!すまんな」


 霊魂、もはや意思だけの存在なのに御仲間が敬意を表して頭を深々と下げる動作に私は違和感を感じながらも頼もしさと面白さを得ていた。


 「貴方が私達にたっぷりと貢献してくれたら会いに行かせる時間ぐらい作ってあげるわ」


ーー時戻

 メイユールの記憶以外を私との戦闘以前の状態に再生させた。


「それは何よりの朗報だ」


 メイユールの顔は骨で固定されている。

けれど、わたしには表情を読み取れた気がした。

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