KAMIKOESI 白

道草 遊者

第0階 名もなき人の死

 「ストライクバッターアウトッ!!!」


 僕達の夏が終わる。

その瞬間、大きな歓声と拍手が僕達に向けられる。

 仲間達が投げ終えた一人の友のもとに集う。

そして「お疲れ様」と大きな声で称え合っていた。

まるで映画の一瞬を切り抜いた写真のように。


 8人の輪に入らずその様子を遠目に見ていた僕に気付いたのか皆が駆け寄ってくる。

場違いな9番目の僕に。


 その直後、歓声が津波の様に駆け抜けていく。

僕だけを置き去りにして。

人々の声は弾けた様に8人を称賛し褒め称えた。

いつもの事だ。


「僕も」といくら星に願っても声はいつも夜空の闇に虚しく掻き消される。


 容姿、血筋、身体能力、才能、彼等は恵まれ過ぎて笑うしかない。


 彼等はチームに野球のできない僕という弱点があっても圧倒的強さで甲子園を春夏6連覇を達成する程の凄腕達だ。

何も野球だけじゃない数えたらキリがない。


 あらゆる分野で世界のトッププレイヤーさえ軽く凌駕する才能を持っている。

だからこそ彼等は副次的に世界中の人々を虜にする。

嫉妬も搔き消す爽やかさと圧倒的な確かな実力で。


 この世のすべての光に8人は照らされていた。

...逆に彼等と相反するすべての闇が僕にある。

それなら中二病的には少しかっこよくて救われる様な気がする。

でも実際にはありえない。

もし創作の世界なら僕にも彼等に匹敵する何かがあったのかも。と現実逃避を発動させてみる。



 ...騒がしかった人々の声が終曲の様に消えていく。彼等が制したからだ。

そして言葉を失っている人だかりから彼等は抜けてきて僕の周りに整列する。


 そして彼等は本心からこう僕に伝える。

老若男女、すべての人を虜にする綺麗な笑みと天使さえも惚れさせる透き通る様な美声で

“一緒に戦えて良かった”と。


 彼等8人の声は本当にとても良く通る。

瞬間、球場の感情の嵐が爆発する。

聞こうとしなくても聞こえる僕と彼等を隔てる人の感情の嵐が。

彼等の慈悲深さを讃えていた。


 僕はそれらすべてを振り切るように学校はおろか世界をあげての優勝祝いなんてそっちのけで彼等が用意してくれたホテルの一室に戻る。


「...何故こうも人は違うんだ」


 違いが希望通りに働かない時、劣等感として突き刺さる。

そう何度も何度も刺されてきた。

そして僕の心の限界は近付いていた。

限りなく高く聳え立つ友という名の世界の頂点達。


 僕の友である8人は必ず世界を掌握する。

それはもう既に約束されていた。

誰が見てもそう感じ、確信するだろう。

もうすでに、僕でさえ虜だったからだ。


 創作の世界が可哀想になるくらいの容姿、血筋、身体能力、才能を彼等は僕が生きている現実の世界で当然の如く兼ね備えていた。

科学技術の発展と共に魔法の様な技術が世に広まりつつあった、それでも。



 ...僕は彼等と共に青春時代を過ごせたのか。

明かりもつけない自室で走馬灯のように蘇ってくる。


 あれはたしか小学生の時だった。

学校中の誰もが神聖視過ぎて近づかなかった彼等と下校時に時代に電子遊戯をした。

僕は電子遊戯が大好きだったから自信があった。それだけだった。たったそれだけの行動が僕の人生を大きく変えた。


 のちに親しくなったから教えてくれた事があった。

その当時、一番電子遊戯が卓越していた1人を僕が倒してしまったのだ。

それが彼等が感じた、たった一度の敗北だと。

彼等8人が彼等8人以外の人に勝てなかった瞬間を誰1人として見た事がなかったと。



 それ以降彼等は僕を友達の一人だとして良く遊びや自宅に誘われた。

豪華な食事に高級車、大豪邸にそれぞれの執事達にメイドさん、そして特殊護衛部隊。

そのどれもが並び立つ世界トップクラスの財力と権力を有する彼等だからこそ成し得た事だった。それぞれの親の力を凌駕する程に。




 けれど僕は今日心が折れ、死を迎えるのが分かった。



 目がとても重く、指一つ動かせない...

食欲が沸かず...何も聞こえなくなっていった...

辛さも後悔も何も思い出せずに

部屋に入ってきた誰かが何をしているのかも理解出来ずに。


闇の中へ吸い込まれていった。

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