Chapter34(Ver1.1)・前途無難じゃなくて多難みたいだ
高一 九月 月曜日 夕方 米沢家
「た、ただいまぁ」
少し間の抜けた声で帰宅を告げると、俺は玄関のドアをそっと閉めた。朝に式部先生から和歌のご機嫌が斜めだったと聞いていたから、もしかしたら自宅に上がるなり治姉にどやされるかもしれないと思ったのだ。しかし現実にはそのようなことはなく、母さんが出迎えてくれる。
「あら、今日は部活には出なかったの?」
「ああ、和歌のことがあるからな。補習だけ受けて帰って来た。もしかして治姉もいない?」
「治佳なら和歌ちゃんと図書館に行ったわよ」
「和歌と?」
「ええ、今朝あなたを迎えに来てもいなかったから機嫌を損ねちゃってね」
「なんでそうなんの? まさか母さんか治姉が口を滑らせた? 言ったじゃん。今日は先生に和歌のための相談をするから早めに出るって」
「私達じゃないわよ。教英さんが『今日はもう英紀君はいない』って口を滑らせたのよ。だから和歌ちゃんは本当か確かめにうちに来たの。本当にいないと知ったら教英さんを問い詰めるためにすぐに帰って行ったわ」
「教英先生……勘弁してくれよ」
思わずため息をついてしまう。俺は話の続きを優先するために母さんに続いてリビングに入るとブレザーをソファの背もたれにかけて自身も腰をかける。母さんは飲みかけの紅茶が置いてあるダイニングテーブルに着くと話を続ける。
「それで教英さんも新幹線があるから和歌ちゃんを納得させられるだけの時間が無くてね。欠席連絡をしてから競子さんと一緒にまたうちに来たのよ」
「それで? 何を話したの? まさか計画全部話しちゃった?」
「まさか! 先生に事態への介入は慎重にするようにお願いしに行ったことにしてあるわ。まあ和歌ちゃんは腑に落ちない様子だったけど」
「だろうな。それだけだと和歌がその場にいちゃまずい理由としては弱すぎる。あいつもバカじゃないから気付くだろ」
「そうね、それで気分転換も兼ねて治佳と図書館に行ったのよ。家庭教師役になって今日の分の勉強を見るってね」
「なるほどね」
どうりで和歌が機嫌を損ねていたというのに治姉が帰宅しても突っかかってこなかったのか。状況に納得してソファから立ち上がり、自室に向かおうとしたその時、まるで示し合わせたかのように母さんのスマホがテーブルの上でブルブルと震えて何かしらの着信を告げる。どうやら電話ではなかったのか、スマホを手に取ると母さんはディスプレイとにらめっこを始める。そしてスマホに負けて苦笑いを浮かべると今度は嫌な予感を感じている俺を見た。
「和歌ちゃん夕食が終わったらあなたと話しに来るって。治佳がごめんって言ってる」
(教英先生も治姉も何やってんだよ……)
俺は再びため息をつきながら自室に籠るために階段を登って行った。
***
同日 夜 米沢家 自室
風呂、食事を終えてから今俺は部屋掃除の真っ最中だった。帰宅した治姉から和歌が俺と二人で話したがっていると聞いて、急遽その必要に駆られたからだ。治姉は俺を真鶴家に寄越すと提案したらしいが、和歌が部屋に入れたくないから我が家に来ると断ったそうだ。
(くそっ、なんなんだ? 初めて女子を部屋に入れる時ってもっとときめくんじゃないのか? 全然嬉しくないんだけど?)
心中で自分に問うものの答えなど最初から分かり切っている。別に和歌は恋人の部屋に遊びに来るんじゃないからだ。教英先生や治姉が今日やらかしたことによって何かしらに感づいて、俺が和歌の問題解決のために何をしようとしているのか知ろうとしているに違いない。
それにしてもお気に入りの声優さんのグラビアが載っているからという理由で保管していた青年漫画雑誌を隠す作業がこんなにも虚しいとは思わなんだ。エロ本じゃないとはいえやっぱり自分の好みがバレるのは恥ずかしい。何とか和歌の襲来と思われる呼び鈴が鳴る頃にはグラビアを思春期男子ならばみんな知っている机のあのスペースに隠し終えて、コロコロクリーナーで床の簡易掃除も終えていた。
階下から和歌を招き入れる母さんの声が聞こえる。普段と違ってあまり声色が高くないのは今回の来訪の目的が明るいものではないと母さんも知っているからだろう。俺も出迎えるために部屋を出ていくと、ちょうど階段を今まさに登ろうとしている和歌と目が合った。
「こんばんは。お邪魔するわ」
「ああ、どうぞ。こっちだよ」
今朝式部先生は和歌がご機嫌斜めな様子らしいと言っていたので出会い次第問い詰められる覚悟もしていたのだが、幸か不幸か和歌は落ち着いていてそんな様子はない。いや、意思表示がはっきりしている和歌なら問い詰めてくれた方が楽だったか。話をどう切り出すか戸惑いながら自室に戻って和歌を招き入れると、手のひらでゲーミングチェアを示して座るよう促す。
「椅子じゃなくてもいい。ベッドに座ってもいい?」
「うん、いいよ。じゃあ俺が」
今から話す話題を考えれば到底ベッドで隣同士に座る気にもなれず、俺は自分のゲーミングチェアに腰をかける。これからどんな会話になるのか見当も付かない焦りから、向き合って和歌の服装を見るやいなやろくに思考回路も通さずに俺の口が開く。
「ジーンズにパーカーって今日はすごく普通だな。ほら、いっつもお洒落で可愛い感じの服装ばっかり見ていたからさ」
言ってから馬鹿なことを言ったと自覚したのは和歌の表情が真顔のまま動かなかったからだ。
「そうね。今日はもうお出かけしないし、それに前言ったでしょ? オランダにいた頃はスカートはほとんど履いていなかったって。どちらかと言うとこっちが私の普通よ」
「そうだったな。ごめん」
「謝らないでいいわ。それに無理に褒めないでもいい」
「……」
こんな時に限ってツッコミ役の治姉がいないのが恨めしい。夕食時に会話に混ざるようすすめたのだが、既に計画に感づかれる失態を犯したので自重して自室に引きこもっている。姉の支援なしの現状に俺が内心で沈黙に悶えていると和歌が表情のギアをニュートラルに入れたまま口を開く。
「そんなに怖がらないで。私は質問に答えてくれればそれでいいの」
「質問って?」表情を読まれた焦りで上ずった声で返してしまう。
「ええっとこういうの何て言うんだっけ? そうだ、直接言うとね、あなた私に何か隠していない?」
普段なら「単刀直入って言いたいのか?」と得意気に教えるところだが、和歌らしい的を突くどころか貫くような質問に答えるべきか迷ってしまう。言わなければ何故かと掘り下げられるし、何のことかととぼけて返してももっと具体化した質問をされて追い詰められるのがオチだ。さてどうするかと視線を床に落として迷っていると。
「どうして黙っているの? 私には教えたくないの?」
てっきり言わなかったりはぐらかしたりすると怒るとばかり思っていた和歌の顔が悲しみにかげる。見慣れない表情を見て心がチクリと痛む。怒ってくれた方がむしろ楽だったんじゃないだろうか。自分の行動が女の子を悲しまているという居心地の悪さに耐えきれず俺は腹を決める。
「ごめん、ある。でも隠すってのは違う。和歌には教えない方がいいことを教えていないだけだよ」
「それって日本人の癖のこと?」
「……! なんでそう思ったんだ?」
勘がいいなと一瞬驚いてしまう。だが自力で気付いたとは限らないとすぐに思い至り質問で返す。
「今日治佳お姉ちゃんから聞いたからよ。図書館で勉強していた時にね、エレベーターの乗り方とかタクシーの乗り方とか、日本人の癖の話をしてくるから変に思って聞いてみたのよ。お姉ちゃんも私が無視されているのは知っているから何か関係があるのかなと思って」
(治姉ぇ、さては和歌が心配なあまり焦ったな)
夕食時に計画自体には触れていないと治姉は言っていたものの、どこまで口を滑らせたのか確かめずにはいられないので、やぶをつつくような気持ちで掘り下げる。
「それで? 治姉は何て言っていたの?」
「日本人の空気を読んだり本音を隠す癖を教えてくれたわ」
「そうか、それで? 聞いたら分かったか? 自分で対処できそうだと思えたか?」
「分かんない。『それは本気で言っていますか?』って確認すればいいんじゃないかと思ったけど、日本人にこれを言ったら嫌われるって言われた……」
「そうだろうな。もともとはっきり言わないことで会話を避けたがっている感じがあるからな。そこを正面から突かれると嫌がられると思う。だからこそ表情と言葉が一致しているか読むんだよ。これが空気を読むってやつだ」
「それもお姉ちゃんが言ってた。でもね、分からなかったのよ。姫野さんを怒らせた時も最初は笑っていたし、それに京都の時なんか無視される前の日までみんなずっと笑ってた。『上手やわぁ』なんて褒めてもいたのよ。あれが全部嘘だったなんて……。英紀、私怖いの。知って考えても分からなかったことが何もしないで分かるなんて思えないの。だからあなた達が何をしようとしているのか知りたいの! 知って準備したいの! 考えたいの! お願い教えて! 私……怖いのよ……」
真っ直ぐに俺を見据える和歌は語るごとに感情を昂らせて懇願したかと思うと、両手で顔を覆って小さく呟いた。
(やばっ、泣くの?)
女の涙に免疫がないので泣かれたと思うだけで激しく動揺してしまう。相手が気が強いとばかり思っていた和歌だからなおさらだ。言葉をかけるか、微笑みかけるか、それとも肩を抱くなり手を取るなりして落ち着けるか? 恋人でもないのに? どうすべきか分からず迷っていたその時、今の雰囲気に不釣り合いなアップテンポな機械音が室内に響き渡る。
「なんだこんな時に? ん? 冴上か」
目の前で気落ちしている和歌を放っておけないので着信を保留しようと手に取ったスマホを操作しかけたところで和歌が顔を上げる。
「遼から? 出ていいわよ。できれば遼にも聞きたいから」
「え、そう? じゃあ」
目の前で今まさに瞳に涙を浮かべている女の子を慰めるよりも、当人から許可が得たからといって降って湧いた用事を優先してしまう自分が情けない。しかしそんな思いも電話口の冴上の声を聞いた途端に吹き飛んだ。
『ルーさん、今いいか……?』
明らかにその声色は明朗快活な普段の彼のものとは異なり、暗く沈んで聞こえた。
「どうした? 何かあったか?」
深刻さを察した俺の表情と声色を読んでか、目の前の和歌の表情も心配そうにかげる。
『今日部活でまたジェジェ先輩に煽られたんだ』
「またジェジェ先輩か。一体何されたんだよ」
「ジェジェ先輩ってあのイギリス人? あの人が遼に何かしたの?」
和歌が素早く反応すると電話口の冴上が驚きの声をあげる。
「えっ? ルーさん、誰かいるのか?」
「うん、和歌がいる」
『そうか……そうだな、明日には実行だし和歌さんも大変だからな……ごめん。こんな時に……じゃあまた今度で……』
「いいのか? 相談があるんだろ?」
彼らしくない必要以上に他人の顔色を伺う気弱ぶりを心配すると俺の感情が和歌に伝播したのだろう。
「英紀! 遼は何て言っているの? あの人が遼に何かしたの?」
和歌も同じく眉間に皺をよせて心配そうに聞いてくる。
「和歌の相談が大事だろうから和歌に譲って電話を切るって」
「待って! 譲らないでいい! あの人が関わっている問題で遼が悩んでいるんでしょう? そんなの放っておけないじゃない!」
「って和歌は言っているけど聞こえた?」
『聞こえた。どうしようかな……』
電話の向こうで冴上がしばし沈黙する。まあ和歌は冴上の想い人を知らないのだから仕方ないだろう。しかし冴上にとっても悪い提案ではないと思い説得を試みる。
「冴上、和歌は既にジェジェ先輩が姫野さんを口説いているのを目撃しているし話してみてもいいんじゃないか? ヨーロッパ人の性格にも詳しいだろうし参考になる話が聞けるかもしれない」
『……そうだな。じゃあ和歌さんにも聞いてもらおうと思う。グループ通話に追加してくれるか?』
「分かった」
短く返事をして俺はすぐにMineを操作して和歌を通話に追加する。和歌が参加すると冴上は言われるまでもなく姫野さんを好きになるまでの経緯を彼女に説明してくれた。
「そう、それで姫野さんを好きになったの。素敵ね。それで今日遼はジェジェ先輩に何を言われたの?」
恋話を聞いていた間の母性的な優しさを感じさせていた表情が、出征する子を心配する母のように曇る。
『……日曜日のデートでハグしたって自慢された……』
「ひどい、彼は遼が姫野さんを好きだって知っているんでしょう? なのにわざわざそんなこと言うなんて。本当にゲス野郎ね!」
『落ち着いて和歌さん。それでそのゲス野郎が俺の片想いを知っているかだけど、知らないと思うよ。姫野ってあんなに可愛いのに全然浮いた噂がないだろう? だからもともと先輩達からも誰が姫野を落とせるかって注目されていたんだよ。単に学年を超えて注目されている姫野とデートできたから自慢したいだけだと思う。そもそも振られたのは学外で誰も見ていなかったと思うし』
「そう、それでもデートの話を他人に自慢するなんて最低ね。私だったらもう二度とそんな人とデートしないわ!」
「ちょっと和歌落ち着こうな」
『いいんだよルーさん。和歌さんが代わりに怒ってくれているから俺も正気を保てている感じがするし……』
「おい、まだ何かあるのか?」
何か語り口に引っかかるものを感じたので拾い上げるとしばしの沈黙が訪れ、そして。
『……ある。また今週末デートするって自慢された……。今度はキスするって言ってた……。ルーさん、和歌さん、俺耐えられねえよ。考えたくなくてもあの野郎に迫られている姫野を想像しちまって頭から全然離れねえんだ。マジで苦しい……。どうすればいい? また告るか? でも告ってまた振られたら? 告らないで週末に姫野が取られたら? 嫌な想像が止まらなくて気が狂いそうなんだ。怖いんだよ……』
電話口から鼻をすする音が聞こえて俺は言葉に詰まる。今までクラスの中心で辺りを照らす太陽かのように思っていた彼が今は消えかかったろうそくであるかのようにか弱く感じる。慰めか? 激励か? 何か言葉を投げかけねばならないのにその言葉が紡げずにただ気ばかりが焦る。しかし和歌は違った。
「遼、ごめんなさい」
静かでありながらはっきりと和歌が謝ると電話口から反応した冴上の吐息だけが聞こえた気がした。
『なんで和歌さんが謝るんだ? 関係な――』
「関係なくないわ。だって姫野がジェジェ先輩とデートを始めたのは私のせいかもしれない」
「それは可能性としては俺も考えているけどな。和歌がそう思ったのはなんで?」
「屋上で二人と会った時に二人とも英語クラブだって言っていたじゃない? でも二人とも幽霊部員だって言っていた。あの時は意味が分からなかったけど入っているだけでほとんど活動していない人のことなんでしょう? 姫野さんは前からジェジェ先輩から誘われていたけどずっと断っていたんじゃないかしら。だから英語が好きでも英語クラブには出ていなかったんだと思うの。そして私が姫野さんに頼まれてもいないのにたくさん教えすぎて姫野さんのプライドを傷付けちゃったから……」
「それでジェジェ先輩に連絡を取ったってことか。それだけでデートしちゃうかなぁ?」
「それは分かんない。でも間違いないと思うことが一つある。姫野さんはジェジェ先輩が好きじゃない」
『和歌さん、そう思う理由は?』
「姫野さんが彼といて笑っていない。楽しそうじゃないからよ。女の子ってね好きな人が相手だと自然と見てしまうのよ。でも屋上で会った時姫野さんは彼をまっすぐ見ていなかった。幸せそうじゃなかった。これが理由よ」
『女の勘てところか』
「いや前にMineした時にも言ったけどそうでもないと思うぞ。俺達と鉢合わせた時に姫野さんが何かまずいものでも見られたような顔していたからな」
『じゃあやっぱり好きでもないのにデートする理由ってやっぱり』
「英語なのかなぁ。でも確かにそれ以外思い浮かばないか」
『だな……』
「ごめんなさい……教えたら仲良くなれると思ってあの時は必死だったの。でもパパと英紀に教えてもらって今なら分かる。姫野さんにとっては自分が頑張っても思い通りに英語を話せないのに、オランダ育ちの私が楽に話せているように見えて悔しかったんだと思うの。それなのに私が何度も教えたから彼女のプライドは傷付いた。私から習うくらいならジェジェ先輩と練習した方が良いと思うくらい……」
『もういいよ。和歌さんも大変なんだから』
「良くない。遼も英紀と一緒にクラスの人を紹介してくれたでしょ? そんなあなたを放っておけない。何よりもさっきの話を聞いて遼は姫野さんが可愛いからだけじゃなくて彼女の心も愛しているんだってよく分かったから」
『愛してるって……そう言われると恥ずかしいな……』
言葉通り恥ずかしいのか最後の方は口ごもってよく聞こえなかった。
「そんなことないわ。いいことじゃない。それに私は遼の方がずっとジェジェ先輩よりも姫野さんにお似合いだと思うわ!」
『和歌さん、ありがとう。女の子にそう言ってもらえると嬉しいよ』
「私もまた和歌さんって呼んでくれて嬉しいわ」
『あ、うん……まあ何ていうかやっぱりみんな和歌さんとか和歌ちゃんて呼んでいるから合わせようかなみたいな感じかな。ありがとう、話を聞いくれたから少し落ち着いたよ。で、ごめん。最後に少しルーさんと二人で話していい?』
「分かったわ」
和歌がグループ通話から外れると冴上は音漏れを気にしてであろうか、小さめの声で再び話し出す。
『ごめん。俺も計画には協力したいんだけどこの悩みで上手く立ち回れる自信がない。それで期待しないでほしいと思って電話した』
「無理しないでいいよ。お前が調子悪くても桜木君達はやる気だろ? もう十分にお膳立てはしてくれたよ。任せてくれ」
『ルーさん、ありがとう。じゃあ明日実行な』
「ああ、じゃあな。ふぅ」
Mineを閉じてから無意識についてしまったため息に気付いてしまったと思う。次は和歌の問題について話さねばならないというのに迂闊に弱気に見える態度を取らない方がいいからだ。しかし和歌の態度を見て彼女に弱気と思われる心配はないと悟る。
「英紀、私分かったわ」
「何が?」
先程の不安気な表情はどこへやら、出会った頃の気丈さを感じさせる瞳で俺を正面から見据える様子に俺はあっけに取られて問い返した。
「今私が抱えている問題は私だけの問題じゃないってこと。遼があんなに恋に傷付いている原因が私にあった。だから私も自分で考えて行動したい。そのために英紀、あなた達が何をしようとしているか教えて!」
先程の懇願とは異なり決意と共に言い切る和歌と向き合って俺は確信に至る。
「それだよ和歌!」
「え?」
「人のために自分で考えて自分で行動しようとするその気持ち! 俺は和歌のその気持ちを引き出したかったんだ!」
「そう? さっきも自分で考えるために教えてってお願いしたんだけど?」
「全然違うよ! さっきの和歌は自分が安心するために計画を聞きたがっていた。でも今は違う、冴上の苦しみを知ってあいつのために知ろうとしている。俺はこの和歌をクラスのみんなの前で引き出したかったんだ! こんなに優しくて他人のために行動しようと考えられるんだろう? みんな好きになるに決まっているじゃないか!」
「そう? 私は今も不安だけど……」
まるで核の連鎖反応のように熱を発し合い、今度は俺の熱量に押される和歌。
「俺には全く違って見えるよ。とにかくだ。計画は教えない。でもそれは和歌のいいところを発揮するためだよ。信じてくれ!」
俺はゲーミングチェアから立ち上がるとベッドに座った和歌の正面にひざまずく。そして同じ高さで彼女を見つめて言い切った。和歌は数秒視線を落とした後、俺の視線を煌めきをたたえた瞳で受け止めて頷いた。
「分かった。私もあなたを信じるわ、英紀」
不思議なものだ。先程動揺してしまった涙と違って今彼女の瞳に潤んだそれはだだ美しく、愛らしく俺には思えた。
Ver1.1 姫野とジェジェ先輩のデート日を土曜日→日曜日に修正。先週土曜日は姫野は冴上と英紀の三人でスタッバ相談していたので時空間的にデートは無理でした。
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