ぞうきんガール2

みちふむ

第一章 夏が来た!

はじまり

「義堂、なんかおかしなことになったの」

手稲山のホワイトロッジ。腑に落ちない顔の小花。義堂は真顔で彼女を見つめた。

「確かに。お嬢様の前髪は切りすぎですな」

「それじゃありません!もう、失礼ね」

口を尖らせた小花。義堂はまあまあと紅茶を出した。彼女はそれを手に取った。

「私はね。また夏山愛生堂のお仕事になったの」

「なぜゆえに?お嬢様は火葬場に行かれるのではないですか」

義堂はそういうとココアクッキーを彼女に差し出した。彼女はこれを見つめていた。

「そう。火葬場のお掃除だったはずなんだけど」

小花はぼんやりしながら派遣会社にそう言われたと語った。

「掃除のテクニックがどうとか、専門職だから何とかで、とにかく延長になったのよ」

「ほう?これはですな。ようやく世間がお嬢様の実力に気がついたのですよ。しかしですな」

義堂はそういうとスマホを検索した。そして画像を見せた。

「ご覧あれ」

「お兄様ね」

「はい。慎也おぼっちゃまです」

夏山愛生堂のニュースの画像。社長の慎也の微笑みの画像。この二人の兄妹に時期を違えて仕えた執事の義堂銀之助は、深いため息をついた。

「いくらおぼっちゃまでも。そろそろ妹の鈴子様に気がつきますぞ」

「でもね。お兄様は全然なのよ。たぶん。鈴子のことなんか全然考えていないわ」

「……それは?違う理由かもしれませぬ」

義堂は寂しくスマホを置いた。

「おぼっちゃまは父君の俊也様と鈴子様のお母様との再婚に反対でしたからな。俊也様がお亡くなりになった時、鈴子様達を追い出してしまった事は、おぼっちゃまの立場ではそうせざる負えない、そんな苦しいお気持ちだったのでしょうから」

「それはもういいのよ。過ぎたことですもの」

彼女はクッキーを齧った。

「それよりも。私はお仕事をして、ちゃんと高校を卒業したいの。そうしたら今の派遣会社もお給料を上げてくれる約束なんですもの」

「日本は学歴社会ですからな。あと少し単位を取れば良いので、是が非でも卒業は致したいですな」

こんな相談をした小花すず。改名前は夏山鈴子はバスがまだある夕刻に手稲山からバスに乗った。

揺られるバスの中、森しか見えない車窓でぼっとしていた。



……明日から。また、夏山愛生堂の掃除か。ふふふ。


葉が生い茂る夏の山。坂道を降るバスの中、彼女は笑みを称えていた。







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