音声記録(2015/5/4)
音声記録(2015/5/4)
戸川文夫「…れはもちろん。眉唾の記事を書いていますが、ブン屋のプライドを捨てたわけじゃありませんから、プライバシーは守ります。」
男「じゃあ、さっきのようなこともやめてもらえませんか。今日は小林でお願いします。」
戸川「わかりました。もちろん、先ほどの部分の音声は消去いたします。小林さん、今日はよろしくお願いします。」
小林「ええ。地元のことについてということでしたが、僕も大学進学で村を出てから20年帰ってませんから、最近のことはわかりません。もっとも、村を捨てたような奴しかこんなこと話さないでしょうけどね。」
戸川「結構です。今日は、刀ヶ谷家について伺いたかったので。」
小林「最近立て続けに起こった死亡事故に、刀ヶ谷の家の者が関わってるってやつですか。」
戸川「ええ、特にこの…、」
(紙のようなクシャクシャした音)
戸川「…駅での件では、刀ヶ谷誠氏の疑いが怪しいくらいすぐに晴れています。刀ヶ谷家は相当な名家だと伺っていますが、刀ヶ谷家についての黒い噂なんかありませんでしたか。」
小林「まあ、やろうと思えば殺人をなかったことにできるんじゃないでしょうか。村ってのはいまだにカースト制が残ってますし、名家の刀ヶ谷家が何か言えば是が非でも従うでしょうね。警察にも村の者がいないわけじゃないですし。」
戸川「ところで刀ヶ谷家ってなんで名家なんですか。」
小林「マシッサンちだからですよ。」
戸川「それなんですか。」
小林「マシッサンっていう神様を祀っている家ですよ。村を守ってくれる神様だから、それを祀っている家も自然と尊敬されるんですよ。」
戸川「じゃあ、当時もマシッサンの祭りか何かは大々的にやっていたんですか。」
小林「マシッサンの祭りはありましたけど、そこまで大々的じゃありませんでしたね。そもそも、マシッサンちの頭領しか祭りに参加できませんから。」
戸川「マシッサンちってたくさんあるんですか。」
小林「いや、そんなにありませんけど、刀ヶ谷家だけじゃありません。4,5軒ってところですかね。」
戸川「で、その祭りは何をやっているんでしょうか。」
小林「いやあ、わからないですね。行ったことないんで。」
戸川「噂とかでもいいんで、わかりませんかね。」
小林「そのことは子供の間でも話すことはばかられていましたからね。ああ、でも一回だけ、行ったことありますわ。」
戸川「本当ですか。」
小林「といっても5歳の頃なんで記憶もあいまいですけど。なんか山の上のお堂の中に5歳になった子供が集められて、変な甘さの飲み物飲まされて、変な呪文を延々と唱えさせられるんですよ。それで、大人がやめの合図をしたら、みんなで山を下りておしまいでした。その後もマシッサンちの頭領連中はなんかやってたみたいですけど、とてもじゃないが山へ戻る雰囲気じゃなかった。」
戸川「それじゃあ、村の人たちはいまだにマシッサンを信じているわけですね。」
小林「ええ。まだ犬の飼育を禁ずる掟も破られていないみたいですからね。」
戸川「犬がですか。それはなぜ。」
小林「なんでも、昔村が犬に荒らされたらしくて。本物の犬だけじゃなくて、戌年に子供を産むのもタブー視されているんですからね。」
戸川「村の人たちはまだマシッサンの呪縛から逃れられていないわけですか。」
小林「マシッサンというよりも、犬ですがね。マシッサンはどちらかというと犬を倒した方です。」
戸川「それで、刀ヶ谷家は相当力を持っているんですか。」
小林「ええ、マシッサンちはみんなから尊敬されていましたよ。」
戸川「それじゃあ刀ヶ谷家の殺人を村人総出で隠蔽することも可能ですか。」
小林「どうだろうなあ。マシッサンちって、教祖みたいに、信仰の指導者的立ち位置にいるわけじゃなくて、率先して信仰する立場だからね。」
戸川「そうですか。」
小林「それに、この前のバス事故はどうなるんですか。殺人は隠蔽できたとして、マシッサンちの子供以外の乗客を事故に見せかけて殺すなんて芸当、いくら狂信的だとしても村人には無理ですよ。」
戸川「え、バス事故でも刀ヶ谷家が関わっていたんですか。」
小林「そうですよ。戸川さんは今日それで来たんじゃないんですか。」
戸川「まあ、バス事故のこともあって今日お伺いしたんですがね。ただ、これにも刀ヶ谷家が関わっていたなんて。やっぱあの家にはなんかあるんじゃないんですか。」
小林「うーん、別にないと思いますがね。強いて言うとすれば…。」
戸川「あるんですか。」
小林「いえね、あの家昔から土地持ちで有名でしたが、最近また周りの土地を買い占め始めたらしいですよ。」
戸川「また、それはなぜ。」
小林「なんか近くに遊園地ができるからホテル建設のラッシュが来ると見込んでるんじゃないんですか。」
戸川「なるほど、土地売買のトラブルもか。」
小林「え、なんですか。」
戸川「いえ、こちらの話です。また何か思い出したことがありましたら、些細なことでも結構ですから、こちらに連絡ください。」
小林「わかりました。」
戸川「それじゃあ今日はありがとうございました。お代は私が払いますんで。」
小林「いや、いいですよ。」
戸川「ほんのお礼ですよ。では。」
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