第274話 オリジナル能力
「うーん、ドロシーはどうやって出入りしているんだ?」
ユウキは再び屋上に寝転がって考えていた。この空間から脱出する鍵は、ドロシーの飛行魔法ではないらしい。実はもう一つ魔法を隠し持っているのだろうか? その可能性はある。いや、隠し玉の一つや二つは持っていて当然だろう。
ユウキは考えた、怪しいのは屋敷内のどのドアに入っても同じ居室に戻されるという謎のカラクリだ。これがシェスティン婆さんの魔法である可能性も無くは無いが、もしドロシーの魔法によるものであるのなら、そっちが鍵である可能性も捨てきれないという事だ。
しかし、屋敷内に戻ってドアの周囲をいくら調べてみても魔法の痕跡が見当たらないのだ。この現象を引き起こしているのは魔法ではないのだろうか? ユウキは日がな一日寝っ転がって考えて居た。
「ちょっとぉー! 真面目にやんなさい!」
「うーん、今やろうと思ってたんだよぉー」
まるで宿題もやらずにゲームばかりしている子供を叱るお母さんの様だ。
「私が元に戻れるかどうかもかかっているんですからね!」
「カンニングは駄目だけど、質問に答えてもらうのはOK?」
「質問によるわね」
世界ふしぎ発見で某回答者がよくやっていたみたいな直接答えを引き出そうとする様なずるい質問には答えられないが、ヒント位ならOKという事だろう。
「この建物内にヒントはありますか?」
「イエス」
「並行世界へ渡る能力は関係無いですね?」
「イ、イエス」
イエス・ノーでしか答えてくれない様だ。並行世界へ渡る能力は多分ドロシーの能力ではなく、シェスティンオリジナルの能力の可能性が高い。あの時ドロシーが並行世界側からユウキの動向を見ていたのも、シェスティンにやってもらったのだろう。やってもらったというか、シェスティンがドロシーにそうさせたのだろう。
「以上!」
「えっ、もういいの?」
「うん、大体見当は付いたから」
「そうなの? 意外と優秀なのね」
「ちょっと、舐めて貰っちゃ困るわね」
「ふうん…… で?」
「あの元の部屋へ戻るドアの能力でしょう?」
「イエス、とだけ」
「だけど、どういう能力なのかまでは今の所不明なんだ」
「そうそう簡単に見破られても困るんだけど、早く見破ってくれないと困るというジレンマ」
ドロシーは頭を抱えてしまった。それを見てユウキは他人事みたいにゲラゲラ笑っている。
「ちょっと、笑い事じゃないでしょう! あなただって困る筈よ!?」
「まあ、それはそうなんだけどね」
何故か少しも焦る様子の無いユウキを見て、ドロシーは軽い苛つきを感じた。
「何と無くね、四次元空間を使っているのかなーって」
「私達は五次元空間と呼んでいるわ」
「えーっ? もう一個上!? マジか、難易度爆上がり」
「いえ、私達はそれを五次元空間と呼んでいる、と言ったのよ」
つまり、ユウキが言う四次元の事をドロシー達は五次元と呼んでいるのだ。次元数の数え方は、時間軸を含めるか否かで一次元ずつずれて呼ばれる場合がある。時間軸を含めなければ我々の居るこの空間は三次元空間だが、時間軸を含めると四次元空間と呼ぶのだ。だから、ユウキが言う四次元空間は、ドロシーが言う五次元空間と同じモノを指しているという事になる。
「ふうん、四次元空間ならスマホのストレージと同じ感じかー……」
スマホのロデム謹製アプリであるストレージと同じであるならば、解法の糸口になるのかもと思ったものの、スマホはシェスティンに再び取り上げられてしまっていたのだ。つまりあのアプリを使って何とかしようとする事は出来ない。つまり、ユウキ自身が四次元空間を操作出来る様にならなければならないという事なのだ。
「うっわ、難易度が天元突破している! そんなの三次元人の私等にどうこう出来る訳ないじゃない!」
「いやいや、案外それ程よ?」
考えてみればシェスティンは例外としても目の前に居る普通の人間のドロシーが使いこなしているという事実から、三次元人には扱える訳が無いというユウキの思い込みは崩れ去るしかない。
「ただねー、私の能力『ドア・ツー・ドア』は、シェスティン様の能力と比べると中途半端なのよねー」
ドロシーのドアから別のドアへ移動する能力は『ドア・ツー・ドア』という名称らしい。自分で付けたのだろうが、ユウキのネーミングセンスと違ってストレートでとても分かり易い。
「どの辺が?」
「シェスティン様の能力は、空間の何処から何処へでも自由自在なのよ。引き換え私の能力では、ドアが無いと移動出来ないの」
「それって私達の拡張空間と似てるね」
「私の場合は、空間へ入るドアを設置するのではなくて、既存のドア、だけどどんなドアでもいいからドアさえあれば良いの。例え絵でもね。出口の方もそこにドアがある事を知っていれば、実際に行ってマークして置く必要も無いのよ」
つまり、入口にドアは必要で出口にもドアが必要なのだけれど、出口の方は自分の肉眼で直接見なくても、テレビでも写真でも良いからそこにドアがある事が分かればそれで良いそうだ。その代わりドアが無い所へは移動出来ないらしい。ユウキの拡張空間通路よりも優れている部分もあり、不便な部分もある様だ。
「何でドアが必要になっちゃったの?」
「それはー…… 多分私の思い込みのせいというか、どこかへ入るにはドアからという固定観念が強くあったかららしいわ。そのせいで魔法がドアからドアへと言う風に固定されてしまったのだと思うわ」
「今からそれを変えられないの?」
「変えようにも魔法の構造自体が良く分かってないからなー。私の中で一つの魔法として固まってしまったものを崩すのがとても困難なのよ。それにそれを直さなくてもそれ程不便には感じてないわ」
自分の変な癖、例えば箸の持ち方で箸をクロスさせて持つ人がたまに居る。これは人から見ればとても変だし掴み難そうに見えるのだが、本人にしてみれば普通の持ち方の方が使い難いのだ。体がその持ち方に慣れてしまっている、操作するその部分の神経が太くなってしまっているのだ。長年その使い方でやってきている人に妙な親切心を出して正しい持ち方に矯正してあげようなんて思う人がたまに居るが、余計なおせっかいでしか無いのだ。昔は左利きの人に右で使える様に幼い頃に矯正させていた様だが、最近はあまりやらなくなった。結構脳にストレスがかかるらしいのだ。ドロシーの魔法もそれで固まってしまったものを崩してまでもう一度やり直す程のメリットが無かったのかも知れない。
「まあ、盗めるものなら盗んでみなさい。昔の職人は言いました、『目で盗め』と」
「お? 言ったね! 後で文句は言わせないよ」
「言わないわよ」
ユウキにしてみれば願ったりかなったりだ。目を使って盗むなんて
それからというものは、言質を得たとばかりにユウキはドロシーの後を金魚のフンみたいにくっついて歩いた。彼女が部屋に入る為にドアノブに手を掛けようものなら目を皿の様に開いて食い入る様に眺めた。しかし、なかなか魔法の痕跡が見えない。もう彼女を観察し始めてから何日も経過しているが、手掛かりが全く見つからない。
そこではたと気が付いた。
「あ、そうか、これは『魔法』じゃないんだ」
そう、つまり魔法とは、能力を持たない人が、能力を持つ人と同等の超常現象を引き起こす為に初代エルフ王が編み出した簡易版なのだから。
魔法を行使する際に発生するエネルギーの干渉縞を、模式的に図案化したものである『魔法陣』『魔法円』『魔法式』と呼ばれる物を頭の中で描いて、逆説的に現象を発動させる仕組みを『魔法』と呼んでいる。それ即ち能力の簡易版なのだ。
モーターに電池を繋ぐと電流が流れてモーターが回るが、逆にモーターを回せば電流が発生する。LEDに電池を繋ぐと発光するが、LEDに強い光を当てれば電流が流れる、みたいなものだ。回路の途中に電球でも繋いであれば、どちらの方法でも電球を光らせることが出来るという訳だ。
つまり、ドロシーは魔法も使うが、自身が能力者でもあったという事なのだろう。それで自分でオリジナル能力を編み出していたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます