第249話 アップルドアあたり
皆の支度が済むのをリビングで待って、最後の三浦が姿を見せた所でユウキはスマホを取り出し、地図アプリでGPSタグの移動履歴を確認した。
航跡は、地球側でいうところのポルトガル、スペイン、フランスの辺りの陸地に時々接岸している事を示していた。しかしその滞在時間は半日または一日程度と短めで、これは単に補給のために立ち寄っただけなのだろうという事は容易に推測出来る。
しかし、大ブリテン島のアップルドアという町の辺りには一週間近く滞在している。そこに何か重要な拠点が在るのかも知れない。
「ここからならタンジェに戻らなくても、直線で飛んで行った方が近いな」
ユウキは皆に地図を見せた。
「確かにそうだね…… あ~ふ」
「あのね、休養の意味が全く無かったんだけど」
「ユウキは元気そうだな、ふわぁ……」
「まったく、遊びじゃないんだからな!」
皆緊張感が足りなさすぎるとユウキは怒った。しかしこの場で元気なのはユウキとアキラだけなのだ。ユウキの体は体組織だけではなく脳構造までも変化してきているのかも知れない。そして徐々にではあるがアキラの体もまた同様に変化してきているのだろう。
仕方が無いのでエスピーダー・マークⅡを2台出し、アキラとユウキが運転をして寝不足な連中は車の中で休んでもらう事にした。これで3時間位は寝られるだろう。
エスピーダー・マークⅡの飛行速度は時速300Km程度なのだが、アップルドアまでは直線距離で960kmの距離がある。最高速度で飛ばしても3時間は掛かってしまうのだ。
勿論、地球側を通ればロンドンに扉は設置済みなので、時間はもっと短縮出来るだろう。だが、ユウキの脳への負担がある事が分かってしまった以上、この大人数で地球と異世界間を何度も行ったり来たりするのを繰り返すのは危険だと判断したのだ。
総勢9人なので、ユウキの運転する方には三浦、アリエル、サマンサの女性陣、アキラの方にはマサキ、スーザン、ロミリオン、ルーカスの男性陣が乗る。男性側は5人なので後部座席が少し窮屈そうだ。
「ああ、それじゃ僕とアリエルは自分の車であなた達の車をクルーズコントロールで追尾する様にするから、着いたら起こして」
そんな感じで3台のマークⅡは、ユウキ車を先頭にアキラ車、スーザン車の順で飛んで行く事になった。
三時間程飛行すると、海が見えてきた。イギリス海峡だ。その向こうに見える陸地が大ブリテン島のコーンウォール半島で、半島の反対側のブリストル海峡南岸のトー川とトーリッジ川の合流地点付近にアップルドアがある。
ユウキは、イギリス海峡を渡って直ぐの所に平地が見えたので着陸する事にした。このままマークⅡ三台で飛んで行くと目立つと思ったのだ。
適当な空き地に着陸すると、後続の二台も自動で着陸を始めた。どうやらアキラも自分で運転しないでクルーズコントロールにまかせて休んでいた様だ。車から降りて来たアキラはペロッと舌を出していた。
「ここからは戦闘要員はマークⅠに着替えて飛んで行こう。ルーカスはスーザンの車に移って後から付いて来て」
「スーザンの車に乗るのは、ルーカスとアリエルとマサキさんでいいかな?」
「そうだね、頭脳担当チーム」
「私は頭脳担当じゃないのかよ!」
「サマンサはお笑い担当?」
「なんでだよ!」
サマンサは不満顔だ。確かに彼女は頭は良いっぽい。だけど、割りと天才系なので思い付きで突拍子も無い事をしでかす事が多いのだ。別に頭脳班でも良いんだけど、結構考え無しの所があるので彼女はお笑い枠だ。
「三浦さんはマークⅠは初めてなんだっけ? ぶっつけ本番で大丈夫かな?」
「ああ、行けると思うぞ。少しは向こうで練習してたし」
「じゃあ、問題無いね。そうだ、三浦さんのこっちでの呼び名を考えてなかった。下の名前は何て言うんだっけ?」
「龍之介だが」
「何でよりによってそんな男っぽい名前なんだよ!」
「何で怒ってるんだよ! 知るか! しょうがねえだろ!」
「もういつもの様にユウキが適当に付けちゃって」
「じゃあ、ケメ子で」
「ぷっ……」
「ふざけ過ぎだろ! 語尾に『だわさ』って付けるのか?」
「諦めなさい。皆適当に付けられているんだから。僕なんてスーザンの前はマンダークって付けられそうになったんだぞ。こっちの世界でのコードネーム位に思って置け」
「もう、何でも好きな様に呼んでくれ!」
スーザンはとうに達観した表情で三浦、もといケメ子の肩を叩いた。ケメ子は抗議しても無駄なんだなと悟り、諦めた様だった。
そんな感じで、ユウキ、アキラ、ケメ子、ロミリオン、サマンサの五人は
暫く飛ぶと何やら大きな都市が見えてきた。着々と侵略の拠点は築かれていたのだ。
都市の中心は小高い丘になっている様で、そこに眼下に町を見下ろす様に巨大な尖塔を持つゴシック風建築の城というか教会の様なトゲトゲした感じの大きな建物が在った。近付くと、その一際高い尖塔の上に人らしきものが見える。
その人間は、尖塔の屋根の上の尖った飾りの上に居た。立っているのではなく、空中に浮かんでいるのだ。そして、ユウキ達の方をじっと見つめている。
「女の人が居る」
ユウキがそう言った。まだゴマ粒位の大きさにしか見えないのだが、ユウキにはその姿がハッキリとみえていた。その女は、真っ白な肌に真っ黒なストレートの髪と、真っ黒なゴスロリファッションをした白人の女性の様だった。
「何だあれ? 病み系ってやつ?」
当然アキラにもそれは見えている。というか、何で異世界にゴスロリ女が居るんだ? それよりも何で空中に浮いているんだ? ちょっと意味が分からない。
そう言えばルーカスがスマホを持って来たのは婆さんと黒い服を着た女だと言っていたのを思い出した。あれがその黒い服を着た女なのだろうか?
ユウキ達がそんな話をして止まっているので、そのずっと後方で後を追って来ていたスーザンのマークⅡもホバリングで停止していた。
ユウキ達の位置でもゴマ粒程度の大きさにしか見えないのに、スーザンの位置からでは全く見えない。二人の会話で何となく状況を把握した程度だ。
「ちょっとアリエル、運転席を変わってくれない?」
「あなたはどうするの?」
「ちょっと屋根の上に登ってみる」
そう言うと、運転席側のドアを開け、シートの背もたれに足を掛けて身軽な動作で車の屋根の上へと移動してしまった。高度100mはあろうという空中なのに、よく怖くないものだとマサキ(野木)は感心した。
その時の振動で車は少し左右に揺れたが、直ぐに姿勢を自動で補正した。マークⅡは、対地レーザー測距で車の位置を空中にミリ単位で固定することが出来るのだ。
アリエルは直ぐにドアを閉め、助手席のシートベルトを外して運転席側へ移動した。
「ハンドルは握らなくていいからね。万が一の時の操縦をお願い」
「分かったわ」
屋根の上のスーザンは、胸の所に取り付けてある拡張空間のポケットからライフル銃を取り出した。マクミランTAC50という長距離対物狙撃銃だ。おそらく世界最強クラスのスナイパーライフルの一つだろう。
スーザンはスコープを覗くと、ユウキ達が話していた丘の上に立つ大きな建物の一番高い尖塔の上へ照準を向けた。実際に狙撃するつもりではなく、スコープを望遠鏡の代わりにしたかったのだ。勿論、何か不穏な動きが有れば躊躇なく発砲するつもりではいたが……
「あれっ?」
スーザンは動揺した。その顔に見覚えがあったのだ。
「あ、ちょっと待って、僕の知っている人間かも知れない」
「「ええっ!?」」
ユウキとアキラが同時に驚きの声を上げた。
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