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少々不気味に感じた大量の玩具の謎は、意外にもあっさりと解明された。


そろそろ夕食が始まる時間、という頃に白枇さんはふらりと帰ってきた。

夕食は本館一階の食堂でバイキング形式になっている。和食を中心にしながらも、洋食と中華の料理も並べられ、デザートも一口サイズのものが日替わりで数種類から選べるようになっている。

味はもちろん、種類の多さも人気なんだそうだ。

そこへの移動中に教えてくれた。


「座敷童子、ですか?あの子どもの姿をした、見た人に幸せがーとか言われてる」

「はい。こちらの旅館で姿を見て、何か幸運が訪れた方々からお礼にと贈られたものだそうです」


なるほど。そう言われてみれば、小さい子が喜びそうな玩具が多くあった気がする。

理由がわかると不気味さから一転、どこか微笑ましくさえ思えてくるから不思議だ。


「赤幡さん、座敷童子は怖くないんですね」

「だってあれは別に悪さをするような幽霊とか妖怪ってわけではないでしょう。見た人に幸運を齎してくれるとまで言われてるし。そういうものまで怖いとは思いませんよ。……というかそもそも幽霊が怖いだなんて言ってませんから!」

「ふふ、そうでしたか。それは失礼しました」

「俺の事はさて置き、座敷童子の出る宿っていうわりに、そういう話は聞かないですよね。どうせなら微妙に遠いパワースポットよりもこっちの方を宣伝にでも使っちゃえばいいのに、俺たちを案内してくれた渡利さんも特に何も言ってませんでしたし。他のお客さんも座敷童子目当てって感じがしないんですよね」

「赤幡さんは、部屋の玩具は見ましたか?」

「じっくり見たわけではないですけど、ぬいぐるみとかボール、あとは音の鳴る系の物が多かった気がします。でも、色褪せてたりしてなんか全体的にちょっと古いというか……、新しくはなかった、ような?」

「そうですね。何故だと思います?」


何故か。置いてある玩具はお礼に贈られたものだと、さっき白枇さんが言っていた。

それならもっと新しい玩具があってもおかしくはないはず。

でも肝心の座敷童子の噂は聞かないし、新しい玩具もない。という事は……。


「最近見た人がいないから……?」

「はい、その通りです。まぁ元々会いたいと思って会えるものでもありませんからね。そんないつ出会えるかわからない幸運なんて待たずとも、手っ取り早く幸運になれそうな場所があるじゃないですか」

「あ、パワースポットの大岩ですね!」

「明日、朝食の後にでも行ってみましょう。途中、足元がぬかるんでいたり獣道のような場所もありますから、転ばないように気を付けてくださいね」

「白枇さん、なんだか行った事があるような口振りですね」

「実は今日、この辺りを散策した帰りに少し寄ってきたんです」

「え、下見ですか。そういう事なら俺も行ったのに!」

「そんな大それたものではありませんよ。ただの散歩です。それに、赤幡さんは長時間の移動でお疲れかと思いまして」

「思ったより長い移動じゃなかったですし、山道を歩くくらいの元気は全然残ってましたよ」

「山を甘く見てはいけません。夜の訪れは早く、長く暗いもの。急ぐ理由もありませんし、薄暗い中慣れない道を歩くより、一晩ゆっくり休んで明るくなってから改めて行けば良いと思ったのです」

「それもそうですね。じゃあ明日の楽しみにしておきます!」


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