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* * *
「赤幡さんたちが見付けた入り口というのはこちらですか」
日が傾いて薄暗くなってきた中、俺は白枇さんとともに林の中の件の洞穴の入り口に再び訪れていた。
「そうです。遠くからちょっと見たくらいじゃ、奥に道が続いてるなんて思わないでしょう?ずっとこの島で暮らしてるっていう船乗りのおじさんも知らなかったみたいですし」
「確かに見付けにくくはありますが、それほど気付かないものでしょうか」
「うーん、思い込みもあったからじゃないですか?祠のある場所って海側からも行けるようになってるんですよ。というかそっちの方がメインで知られてる感じで。だから林の方からも繋がってるとは思わなかった、とか」
「思い込み、ね……」
「この中も最初は狭いですけど、少し行けば普通に歩けるくらいの幅になりますから。俺に言われるまでもないとは思いますが、真っ暗なので気を付けてくださ……って、行かないんですか?」
すぐに中に入るかと思いきや、白枇さんは何かを探す動きで周辺を調べ始めた。
「微かではありますが、術のような気配が残っています。……あぁ、恐らくこれでしょう」
「あっ、それ!」
白枇さんが拾い上げた古惚けたロープには見覚えがあった。最初にここへ来た時、俺が踏んで滑ったロープだ。
「この周辺に、一種の目眩ましの術が掛けられていたようです」
「目眩まし?」
「えぇ。あなた方が入り口を見付けられたのはロープが切れて術が解けていたからでしょう。念の為お聞きしますが、これを切ったのは赤幡さんではありませんよね?」
「いやいや違います!というか俺たちが来た時には既に切れてその辺に転がってましたよ。怪しいロープを自分から切るような真似はしませんって!」
「そうですか、それを聞いて安心しました。休みを申請された際、曰く付きの場所には近付かないようにと私が言った事をお忘れになっているようだったので、術の掛かったロープまで切ってしまったのかと」
「あー、えーとそのー……、今実際にトラブルに巻き込まれているのでそれについては言い訳のしようがないんですが、誓ってわざとではないんです。言うなれば事故です。偶然行った場所がそうだったわけでして……」
「パンケーキ」
「はい?」
「先日、雑誌に載っていた写真を見てから食べてみたいと思っていたんです。今度作ってくださるのであれば、今回は事故という事ですから大目に見ましょう。ふわっとした三枚重ねのものをお願いしますね」
「わかりました!以前パンケーキ屋で働いてた事もあるのでお任せください。生クリームとお好きなフルーツもお乗せします!」
「ふふ、楽しみにしています。ところでロープですが、こちらはかなり古いもののようですから、経年劣化で切れたのでしょう」
「え、じゃあさっきの質問は」
「ちょっと聞いてみたくなっただけです。故意に切られたものかどうかくらい、切り口を見ればわかりますよ」
「心臓に悪いので、わかってるならわざわざ聞かないでください……」
「すみません、つい出来心で。それはさておき、他にもこちらの入り口を見付ける人が出ないように対策をしないといけませんね。簡易のものになりますが、新たに目眩ましの術を掛けておきましょうか」
そう言った白枇さんは目を閉じて小さく何かを呟いた。すると青白く光るベールのようなものが辺り一帯を覆った。光は一瞬で消えて、すぐに先程までと変わらない景色へと戻る。
「これで無関係な人間は近付かないでしょう。さぁ今度こそ行きましょうか」
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