第184話 指名依頼、参戦
近づけば丸太のような枝の振り下ろし。
距離を取れば砲弾のような灰白の実の投擲。
それらをかい潜って接近し、本体を攻撃すれば大振りの枝がうなりを上げて頭上から襲ってくる。防ぎ、あるいは回避している間に、今つけたばかりの傷が見る見るうちに再生してしまう。
「私たちの回復はルイに渡されたポーションがあるとしても、ダメージを与えられてる気が全然しないわ…ねっ」
「ごめんね。私が、もっと強ければ…」
「シャロレさんのせいじゃないですよ。斧は植物系の魔物に効くけど、こいつは特別…んなろっ!」
弱点でもないものかとレヴィが限界までランスを伸ばして実を直接攻撃してみたり、シャロレが幹ではなく枝を先に斬り払ってみたりしてはみたものの、目に見えるほどの効果はみられなかった。
唯一、シャロレがレベル30で覚えていた大木断のスキルが大ダメージを与えることができたのだが、以降は警戒されてしまったのか、シャロレが近づくだけで攻撃が集まり、大技を繰り出す隙を与えてくれそうにない。
かといって逃げようにも、それを許してはくれなかった。森から廃農場へ這い出たあとは、どっかと根を下ろしたかのようにその場から動くことは無かったが、一定以上の距離をとると地中から巨大な根が槍のように突き上がり、退路を阻む。
「このままじゃジリ貧か…」
カカシやハチとの掃討戦、続けて一息つく間もなくボスとの連戦に突入したこともあり、3人の気力には限界が近づいていた。
攻略の糸口もつかめないままに戦いつづけ、細かなミスからダメージを受けることも増え、多少の犠牲を払ってでも撤退すべきという考えが頭をよぎり始めた頃…廃農場は本日何回目かの転機を迎えることとなる。
「なんでぇ、お前。こんなところで何やってんだぁ?」
「っウルガー!?手前ぇこそなんでこんなうぉ危っぶねぇ!!!」
「手前ぇとは何だ手前ぇとは。相変わらずお前は年上に対する口のきき方がなっちゃいねぇなぁおい?」
「だからって得物振り回すんじゃねぇよ!」
突如現れた大兵の虎男。身の丈ほどはあろうかという巨大な太刀を片手で振り切ったのは、まさにアーティたちが助けようと奮闘しているウルガー、その人だった。
大太刀の薙ぎ払いによるツッコミなど初めて見たレヴィとシャロレだが、まさかの出会いに戦闘中にもかかわらず気をとられてしまう。その隙を見逃してくれるはずもなく、ザワリと音を立てて振り下ろされた大枝がレヴィの頭上に襲い掛かり…。
「ふんっ!」
「ギィィィィイ!?」
ウルガーが放った大上段からの斬撃により、枝ごと斬り落とされた。ここしばらくの膠着状態が嘘のように、大樹の魔物がノックバック、というよりはむしろ怯むような様子を見せて後退する。
「しかも女子供を連れてたった3人でノービストレントと戦うとはな。自信家なのか馬鹿なのか…馬鹿だな」
「子供じゃないわよ!」
「馬鹿じゃねぇよ!」
珍しく息の合った抗議を見せたレヴィとアーティ。参加しなかったシャロレは別のことが気になったようだ。
「ノービストレント?」
「んぁ?あぁ、そうだ大きい方の嬢ちゃん。あいつの名前はノービストレントってんだよ。成長したら属性武器が無いと手に負えねぇ、面倒くせぇやつだ。まぁ
ウルガーから非難めいた流し目を送られたアーティは視線をそらし、ふひゅすーと音も鳴らない口笛を吹いている。
「ま、色んな意味で運が良かったと思えばいい。俺も現地で戦ってる冒険者と落ち合えって言われて来たんだが、知り合いのお前らが居るならちっとは気が楽だ」
「誰に言われたんだよ?っつーか、そもそも何でここに居るんだよ!領主に捕まってたんじゃなかったのか!?」
「その辺の話は後だ、あと。おいアーティ。俺が溜めてる間、
「ちっ、偉そうに命令すんなよ」
不満を漏らしつつも双剣を構え、ノービストレントに接近するアーティ。しかしそれまでの彼の戦闘スタイルとは異なり、積極的に攻撃をしようとはしなかった。浅いダメージを与えてはいるものの自身に
「嬢ちゃん達は見学だ。まぁ俺の横にでも居て、実やら枝やら飛んで来たら適当にフォローしてくれや。あぁ、でもあんま近づき過ぎねぇようにな」
そう言うとウルガーは返事も待たずにアーティの背後に歩み寄る。戦いの場には不相応な、だらしなく着崩した和装のせいもあってか、まるで散歩でもしているかのような風体だ。
「こいつはな、シーズントレントの幼木なんだよ。シーズントレントがどんなやつかってのは置いとくとして、幼木ってのは…まぁつまり成長途中ってこった」
無造作に、しかし先程とは違い今度は両手で、切っ先を背後に向けて大剣をかまえる。
「で、こいつが成長やら再生やらするための栄養をどこから得てるかってぇと」
大きく弧を描いて振り下ろす、乱雑な一振り。しかしそれは唸るような低い風切り音を響かせて…。
「ギィイイイイイイ!?」
「根っこだな」
ノービストレントが地に降ろした太い根の内の一本を、一撃で断ち切る。反応は劇的だった。エメラルドグリーンに煌々と光っていた枝葉が、まるで身の危険を感じたかのように明滅し始めたのだ。
直後、アーティが幹に刻んでいた浅い傷痕も、明らかに再生速度が鈍くなる。それまでは3人がいくら攻撃しても泰然としていたノービストレントが、今は怯むような後ずさりを見せ始めていた。
「さ、分かったらとっとと片付けちまおうや」
そう言うとウルガーは次の根に向けて、またゆっくりと歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。