第117話 一緒に連れてって


「だめです」


「「「!!!」」」

「…?」


 朝食を終えて部屋に戻り、アラカのエプロンを装着して王者のナイフで木を削るという、久しぶりの工作スタイルでレナエル用のベッドを作っていたら、レヴィとシャロレがやってきた。


 レヴィは少し緊張した面持ちで。シャロレは何か…笑顔なんだけど…すごくキラキラした表情なのに目が怖いというか、ちょっといつもと雰囲気が違う気がするのは気のせいだろうか。


“私たちをあなたの旅に連れてって” って言われたから、とりあえずお断りしたのだが、レナエル以外の3人が驚いている。何だか前もこんな感じのことがあったな。


「いや、そりゃそうだろ?俺冒険者だぞ?猟師さんをパーティに入れられるわけがないじゃんか」

「ぇ?あ、あぁ。そういうこと?問題ないわ。あたしもシャロレも冒険者になるから」

「何で?騎士になるんじゃなかったのか?」

「二人で話し合ったの。もう騎士を目指す理由がなくなったのよ」


 説明によると、レヴィは人助けがしたいから。シャロレは俺とレヴィの役に立ちたいからってことらしいけど…。


「俺、別に人助けしたくて旅してるわけじゃないぞ?そもそも村長さんが言ってたみたいな大層な人間じゃないし」

「いいのよ別に。それはこの先、あなたに付いていけば分かるだろうし」

「騎士っていえば王様に仕えて、王都を守護するって感じのカッコいいお仕事だろうに。冒険者なんて、レヴィも出会ったときに言ってたけど、あちこちふらふらして好きな事してる人だぞ?」

「あちこちふらふらするのは誰かの役に立つためにも望むところだし、パーティーリーダーとメンバーって意味では、あなたに仕えてる騎士みたいなものじゃない?ね、我が君?」

「うぇえ!?勘弁してくれよ!シャロレも何とか言ってやってくれ」


 からかい気味に意地の悪い笑みを見せるレヴィ。どうにも分が悪いと感じてシャロレに助けを求めたのだが…。


「私は、ルイさ…んに付いていきますから」

「へ?」

「冒険者として精一杯お仕えしますから。身の回りのお世話もできますし。あ、お世話係なら…我が君じゃなくてご主人様?旦那様?」

「あー、…レヴィ?」

「ん、そうね。ルイはまだ若いんだから、旦那様っていうよりは若旦那って呼び方になるんじゃないかしら?」

「いや、そこじゃなくて。シャロレの状態異常について説明をお願いしたいのだが?」


 レヴィの説明によると、ちょっと思い込みが激しいタイプなの、もう少し時間が経てば落ち着くから、といったものだった。時間経過で回復するタイプの状態異常なの?どうにも要領を得ない感じなんだが。それは、まぁ取り合えず置いておくとして。パーティメンバーねぇ。二人が仲間になってくれるのを想像したことが無かったといえば噓になるけど。


「1つ、条件がある」

「何?」

「分かりました」

「シャロレ、まだ条件言ってないから。ね?」


 やっぱりシャロレはすぐにでもお薬を処方すべく錬金を開始した方がいいような気がする。あいにくとこの症状はバルバラの薬師修行でも出てこなかったのでどんな処方が効果的かの判断さえつかないんだが。本当に時間経過で落ち着くの、これ?お話進まないから、不安を抱えたまま続けるけど。


「…当分の間、俺の見てないとこで危ないマネをしないこと」


 今回のトラス君の件は俺も思うところがあった。世の中の人すべてを救おうなんて微塵も思わないけど、せめて自分がお関わりした人たちは幸せであってほしいと思う。


 もしもレヴィ達がこのまま騎士を目指すつもりなら、それはそれで引き留めはしなかったけど、万が一途中で亡くなったとか後で聞いたりしたら、ひどく後悔していたことだろう。けれど彼女たちは俺の仲間になりたいって言ってくれた。ならば目の届く範囲で、手の届く限り、自分にできる精一杯のことをしてあげたい。危険な目に遭うのは俺と一緒の時であってほしい。


 冒険者になろうって決めた人たちに、危ないマネするなってのもどうかとは思うし、単なる俺のワガママでしかないんだけど。俺も含めてそれぞれ一人前になるまでは、お互いに覚悟ができるまでは、この条件を守ってもらおう。


「それが約束できるんなら、これからよろしくな」

「分かったわ、リーダー」

「はい。誓います」


 こうして、初めての仲間ができた。嬉しそうな二人、我が事のように喜ぶエリエル。レナエルは二人と出会ったばかりで実感がわかないのか、少し考え込むような顔をしているが。俺はこの選択が間違ってなかったんだって言えるように頑張っていくとしよう。


 …まずはシャロレを元に戻すとこからのスタートだな。


 ・・・


「エリ、どういうことですか?」

「どうって?レヴィとシャロレが仲間になってくれて、ルイもボッチを卒業出来て、めでたしめでたしって感じ?」


 今後のことを話し始めた三人をルイの部屋に残して、レナエルはエリエルの手を掴み、引っ張り出すように窓から外へ連れ出した。そのまま垂直に少し飛翔して集会所の屋根に座らせ、自らも並んで座り話を始める。


「二人の事については聞いていましたが、仲間になるというのは想定外です」

「えー?でもパーティ組んだり、クランに入れてもらったりっていうのはルイを他の転生者に追いつかせるのに必要って習ったよ?でしょ?」

「それは合っています。…すっかり忘れているのだと思ってましたが?」

「あ、あははー…」


 メガネの奥からジト目で指摘されたが、まさにその通りである。不利を悟って笑ってごまかすエリエルをそれ以上は追及せず、今日の宿題を増やすことをひっそりと心で決めるだけにして、レナエルは話を続ける。


「仲間を増やすのは必要なステップです。ただしそれはです。地元民ではありません」

「何で?どっちでもいいじゃん。二人とも、いい娘だよ?」

「ハァ…。確かにテキストには地元民はダメと書いてはいませんでしたが。それはそもそも想定していないからです。転生者の仲間になる地元民が限られているのは知ってるでしょう?」

「うん。そうじゃないと無差別に勧誘されて地元の人も困るだろうし。基本的に地元民は世界のルールに従って、運命を大きく外れることは…あれ?」


「気づきましたか?レヴィもシャロレも猟師で、騎士を目指していたのでしょう?それが冒険者になって、さらに転生者の仲間になるなんて、彼女たちの本来の運命には無かったはずです。仮に元々転生者の仲間になる役割を負っていたとしても、それは騎士として、だったと思われます」

「んー、何でだろ?恋に落ちちゃったとか?」

「あなたはすぐそんな方向に…まぁレヴィはともかくシャロレの動向は気になりますが」

「だよね!?だよね!」


 エリエルが持ち込む下界の文化は服飾だけにとどまらず、ドラマや小説、漫画などにも及んだ。


 中には恋愛系のジャンルも当然含まれており、エリエルがうっかり忘れたふりをしてレナエルの部屋に置いていったそれらについて、別の日にふいに感想を求められ、素直に答えてしまったことがある。やっぱり読んだんだー!などとからかうエリエルにはキツいお仕置きをくれてやったが。


「ですが、本件については眺めて楽しむというわけにはいかないでしょう。ルイが半分地元民だからか、あるいは他に要因があるのか。ささいなことかもしれませんが、重大なシステムエラーにつながらないとも限りませんから」

「レナちんは真面目だなー」

「あなたがいい加減過ぎるんです」

「んー。でもね。だからといって、仲間になってはいけません、今すぐ別れなさい、なんて言えないでしょ?」

「む。それは…」

「それにほら、あの時のみんなの顔!…とっても良い顔してたよねぇ」


 二人の申し出をルイが受け入れたとき。その時の三人の表情を思い出しているのか、伏し目がちに慈愛の微笑みを浮かべるエリエル。この普段はダメダメな天使は、ごく稀に女神さまと同じような表情をすることがある。そんな顔をされた時はいつも、レナエルは何も言えなくなるのだ。あぁ、まただ。しょうがない。


「…仕方ありませんね。しばらくの間は状況を見守るとしましょう」

「あはー!そんなこと言って、三人の関係が気になるんでしょ!でしょ!」

「ただしエリエルには本来仲間になる地元民を5人選んで、加入の前提条件および必要親愛度の効率的な上げ方に関するレポートを提出してもらいます。明日までに」

「あれぇ!?」


 結局は許してしまうのだ。その度に私がフォローすることになるのだ。まったく腹立たしい。仕方ないから、何か影響があったとしても最低限で抑えられるように、心の準備だけはしておくことにしよう。この優しい天使のためにも。

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